階段を上がってきた晴久はスーツのままだった。アパートにると同時に眼鏡とマスクを取り払ったらしく、今は素顔である。

ドアに背をつけてうつむいていた雪乃の近くへ寄り、「雪乃」と聲を掛けるが、彼は返事をしない。

代わりに「どうぞ」と消えりそうな聲でつぶやき、ドアを開けた。

彼の肩が震えているとすぐに気付いた晴久は、玄関のドアが閉まるのを待ってから、もう一度「雪乃」と聲をかける。

彼はそれにピクリと前髪を揺らしただけで、振り向きもせず、カタカタと震えていた。

「晴久さんの話したいことって……なんですか？」

今にも泣きそうな聲で尋ねる雪乃にが締め付けられた晴久は、鞄を床に置いた。

ゆっくりと手をばし、彼の肩を後ろから抱きしめる。

「えっ……」

彼のはすっぽりと包まれる。

「俺はどんなことがあっても、別れるつもりはないから」

つぶやいた晴久はより著する手のポジションを見つけて力を込め、雪乃の頭に頬を付ける。そのまま全を使って閉じ込めた。

「……晴久さんっ、え、え……」

てっきり別れ話をされると思っていた雪乃には突然の出來事すぎて、がかず、力がったままくなった。

彼の直を甘く溶かすように、晴久は耳もとで「雪乃」と切なくささやいた。

「晴久さん……」

やがて雪乃が大人しくなったところで、晴久は彼のごと腳を折って座り込み、彼をの側に収めた。

「もう會えないって言われて、心臓が止まるかと思ったよ。嫌われたのかと思って」

それは誤解だと雪乃は慌てて、首を橫に降る。

「まさか！ そんなこと、あるわけないです……嫌われると思ったのは私の方です。あんな寫真を撮られてしまって……」

「構わない。本當のことなんだから。むしろ見せつけてやればいい」

今まで周囲から逃れ、ひっそりと付き合ってきたふたり。

雪乃は當然、それが晴久のむ形だとばかり思っていた。しかし今の彼はそんなことは微塵もじさせない、堂々とした瞳で見つめている。

まさか彼がまったく気にしていないとは予想外だった雪乃は、目を見開いて彼の腕にれた。

「晴久さん……本當に、いいんですか？  私、距離を置いた方がいいのかと思って……」

「距離を置くなんて耐えられない。二日離れただけで、俺はもうこんなだよ」

〝こんな〟というのをさせるため、晴久は雪乃とさらに著した。

「ひゃあっ……」

グッと背後に押し付けられたに、雪乃はを熱くさせる。一週間でじっくり抱き合ったお互いのは、二日離れるだけで焦がれるほどにしていた。

晴久は、充分に火照った彼のをこちらに向かせると、押し付けたまま、をつけた。

「……ん……」

じんと熱く、待ち遠しい覚が、ふたりのに火を點ける。

けるようなキスの後で、晴久は座ったまま、雪乃の服をし始める。

「待って……！」

ブラウスの裾をスカートから出そうとする晴久の手を、雪乃は摑んで止め、首を橫に振った。

晴久は待てをされた狼のように荒い息をしている。

「私、まだお風呂にっていなくて……」

涙目になって懇願したが、彼は鋭い表を崩さない。

「ごめん。俺もだけど、嫌？」

「えっ、いえ私は全然……」

「じゃあ問題ない。ここで抱かせて」

晴久は彼の服にまた手をかける。

雪乃は困の聲を出すものの、晴久にすっかり背を預け、徐々に反応も甘くなっていった。

「晴久さん、ごめんなさい……」

「……な、なにが？」 

晴久は今度はギクッとして手を止めた。しかし雪乃の表はかわいらしく溶けていくばかり。

「勝手に不安になって、會わないなんて言って……」

「雪乃を不安にさせたなら、それは俺のせいだよ」

やがて力の抜けていった雪乃を抱きかかえ、リビングのカーペットの上へと下ろす。

彼も、待ちわびていたと言わんばかりに甘く目を細め、晴久はたまらず、ゆっくりとキスをした。

「雪乃はなにも考えなくていい。ただ俺のそばにいて、ワガママを言ってくれればそれで」

「晴久さんに、ワガママなんて、言えないです……」

「言えるようにならないとダメだ。こうして俺のワガママをたくさん許してもらっているからね。雪乃のも聞きたい」

「はい。あ、待って……」

「もう待たないよ」

カーペットの上で、息をつく暇もない晴久の獻的な労りをけながら、雪乃は一晩中、彼のに溺れていた。