《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「どんな出會いでも好きになってた」2

◇◇◇◇◇◇◇◇

早朝から會議がある晴久は、雪乃より先に出て、一度自宅へ寄った。

いつもより早い時間の電車に乗るため、それっきり雪乃には會わずにオフィスへ向かう。

今日の會議は、期初から三ヶ月の時點で開催される恐怖の営業実績會議。

この日が近くなると、社員たちは一斉にずーんと暗くなるのが常である。

しかし晴久は朝から幸せな目覚めだったせいか、頭は冴え、やる気に満ちていた。

「今期三ヶ月が過ぎました。各々の営業実績ついて、進捗の報告をお願いします」

営業部の部長、次長が上座で睨みをきかせる中、約二十人の営業マンたちはふたりと向き合って會議室の長機についている。

課長である晴久はプレーヤーもこなしつつ彼らを統括するのが役目であり、上席と営業マンたちの中立の立場をとっている。

さっそく、社員がひとりずつ実績を発表していく。

発表が終わると次長はため息をつき、トントンと機を指でつつきだした。

「目標の數字を達できていない者がいるな」

張が走る。

「岡田。なぜ新規先へのアポイントがこんなにないんだ。キミは期初の目標で新規先へ注力すると宣言したばかりだろう」

「は、はい。申し訳ありません……」

まず名指しされた岡田という社員はどんどん肩が細くなっていき、首も落ちて貓背になる。

「申し訳ありませんではなくて。もう三年目だろう?  一日のノルマを決めて取り組んでいればこうはならないはずだが」

すでにお葬式のような空気で、岡田も「はい……」とうなだれた。

「私からよろしいですか」

そんな中、晴久が顔の高さまで手を挙げ、この空気を一新するハキハキとした聲をあげた。

今にも泣きそうだった岡田は救世主が現れたかのような期待の表へ変わる。

「ああ、高杉くん。ちょうどキミの意見が聞きたかったところだ」

次長はほんのし機嫌が直り、朗らかな表で晴久の発言を促した。

「岡田の営業はアフターフォローが丁寧で、既存先に対して細やかにニーズを聞き出しています。ちょうど、彼の擔當先である花村産業が機れ換えを計畫している最中ですので、そちらへ注力している結果、新規先の開拓が後回しになっているものだと思います」

岡田はコクコクとうなずいている。

「なるほど。だが同時進行で開拓もしていかなければ目標を無視するも同然じゃないか?」

「おっしゃるとおり。しかし、ない実績ですがすべて今月にったアポです。フォローに忙しかった先月を反省し、今月は取り返しています」

「ああ、たしかに。本當だ」

次長と部長は資料の月毎実績を見比べ、うなずいた。

「數字が求められる三年目というのは新規先に力をれすぎるあまり既存先へのフォローが不十分になり、信頼を失いがちです。それと比較すれば岡田の取り組み方は評価できますし、彼なりに優先順位を考えている結果だと私は見ています」

これには部長も納得し、眉間のしわがなくなっていく。岡田は「課長……」とつぶやきながら、晴久を見つめた。晴久もこれに応える。

「岡田は來月の進捗を見てからの調整で大丈夫でしょう。取り返してくれるはずです」

岡田を叱責するはずだった部長は、まるで態度が変わり「期待しているよ」と彼を激勵した。

しばらくこの調子で次長からの指摘と晴久のフォローのラリーが続いた。最後に、伊川という社員に矛先が向く。

伊川は晴久と同期だが職位は主任で、先ほどから部長に褒められている晴久を恨めしく睨んでいた。

「伊川。キミはギリギリ目標を達しているものの、先期に比べると勢いが落ちている気がするんだが、なにか変わった點はあるのかい?」

次長に名指しされてハッとした伊川は、「そうですねぇ」とし考え、すぐに答えた。

「予定されていた機れ換えがなくなった擔當先がいくつかあったので、し実績が落ちました。でも、それをカバーできるほど新規をとってます!」

「うむ。たしかにそうだ」

納得した次長が晴久に「高杉くんはどう思う?」と意見を求める。晴久はし黙った後、靜かに話しだした。

「私は伊川の數字については危機を持っています」

「なっ……」

伊川は「なんだと!?」とびそうになったが、同期であっても相手は課長であるため悔しそうに顔を歪め、「どうしてですか」と言い直す。

「さっき岡田の數字は靜観すると言ったのに、達している俺の実績には危機?  新規をとるなということですか?」

「違う。新規先にこだわるあまり、既存先がおろそかになっている。契約の前後でこうも熱意が変わっては信頼を失いかねない」

伊川は納得がいかない。

「でも目標は達してます。熱意なんて數字には現れません」

「これから徐々に現れる。事実、機れ換えの相談が減ったんだろう?  れ換えを見送ったのではなく他社を検討しているのかもしれない。出向いて確認したほうがいい」

晴久はここまでで「以上です」と切り上げ、次長へバトンタッチした。次の議題に移っても、伊川は晴久を靜かに睨み続けていた。

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