《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「悪い子にはキスできないな」2

「あ、あの?」

一歩先を歩く伊川は、なぜかファミレスを通りすぎた。二區畫進み、左に曲がって裏手にる。

道は細くなったが小さな飲み屋が並んでおり、人通りは多かった。

不安げに伊川の裾を引っ張ってもう一度「あの」と聲をかけると、彼はクスッと笑う。

「俺がいつも行くのはこっちなんだ」

そう言って彼が立ち止まったのは、

『Bar Oceanオーシャン』と書かれた札のぶら下がった真っ黒な扉の前。

「バー……ですか?  すみません、私、お酒はちょっと……それにこういうお店は來たことないので」

「大丈夫大丈夫。別にお酒飲まなくていいよ。今の時間は早いから空いてるし、ゆっくり話せるだろ?  ファミレスだと騒がしいから」

「あっ、ちょっと……!  伊川さん!」

強引に二の腕を摑まれ、扉の中へと引き込まれていく。反抗できずに低いヒールの足はもつれ、伊川にされるがままとなった。

恐怖をじた雪乃だが、店の中に優しげなマスターのほかに若いのウェイターもいると確認し、なんとか自分を落ち著ける。

すべてがウェスタン風の木製で、薄暗い室は間接照明で照らされている。バックバーには雪乃の見たことがないボトルが無數に並んでおり、伊川は迷わず、カウンター席に座った。

「さ。細川さん、ここへどうぞ」

隣の席を示され、雪乃は戸う。テーブル席で話すのかと思っていたのに、隣り合ったカウンター席ではし妙な関係に見られてしまう気がしたのだ。

しかしマスターもニコニコして「どうぞ?」と促しているし、雪乃が席につかないせいでウェイターのもいつまでもおしぼりが渡せない狀態。

耐えきれなくなった雪乃は、複雑な表で伊川の隣へと座った。

「……伊川さん。相談をお聞きします」

この人とはカップルではない、とマスターに知らせる意味で、彼はすぐにそう切り出した。

伊川は眉を寄せる。

「細川さんまずは一杯いただいてからにしよう。マナーだよ」

「え?  あ、すみませんっ。じゃあウーロン茶で……」

「おいおいおいおい。ここはバーだよ?  味いカクテルがいくらでもあるんだ。マスターに仕事させないつもり?」

「そ、そんな……」

お酒は飲まなくていい、と聞いていたはずなのに。雪乃は困したが、伊川は一応會社の上司であり、強く言い返すことはできなかった。

(一杯だけ注文して、それで終わりにしよう)

「私はよく分からないので、飲みやすくて小さいものを伊川さんが決めていただけますか」

「オッケー」

マスターは伊川の注文どおりにカクテルを作り始める。

初めてシェイカーを扱う様子を目の當たりにした雪乃は素直に「すごい」と心しつつ、不安な気持ちを隠せなかった。

逆三角刑の華奢なグラスに、ブルーのき通ったカクテルが注がれる。

「乾杯」

「は、はい……」

グラスのをつまんで控えめに口をつけ、コースターに戻すと、すぐにもう一度「それで、ご相談とは?」と念を押して尋ねた。

「細川さんってさ、高杉課長といつから付き合ってるの?」

「え?」

質問に質問で返す伊川がさすがにじれったくなり、雪乃は「まだ最近ですけど」とトーンを落として答える。

「じゃあ、あんまり課長のこと知らないか。あの人けっこう〝えこひいき〟するよ」

「えこひいき、ですか?  あんまり想像できないんですが……」

「いやいや。気にってる部下にはフォローれるのに、俺にはひどいからね。多分さ、同期だから抜かれないように足引っ張ろうとしてるんじゃないかな」

あり得ない、と雪乃は真っ先に頭の中では否定したが、相沢の相談を全否定しては無意味だと考え口には出さなかった。

「伊川さんには、なにか原因はなかったんですか?」

「俺はちゃんと実積とってるから。それでもケチつけてきてさ」

「……そ、そしたら、課長と一度話し合うか……それか次長さんに相談するとか……」

「ああムリムリ。あの人立ち回りも上手いから。次長も部長もあっちの意見が正しいと思ってるから話にならない」

(それならもう、晴久さんの意見が正しいってことじゃないかな……?)

雪乃の中ではひとつの結論が出たが、とても伊川本人には言えない。

「私はお仕事中の課長を見たことがないので、憶測しかできませんが……晴久さんは、ずるい手を使って誰かを貶めるような人ではありません。おふたりの間でなにか誤解があるのではないでしょうか」

冷靜に、言葉を選びながら答えた雪乃だが、〝晴久さん〟という呼び方に眉をひそめた伊川は、大きくため息をついた。

「ねぇ、細川さん。これは言いにくいんだけど……キミはあまり高杉課長を知らないんじゃないかなぁ」

「えっ?」

「そんなに聖人みたいな人じゃないよ。あれだけに言い寄られてたら手も出してるだろうし」

「そんなはずありません!」

晴久のトラウマがどれほどのものか理解している雪乃は、そこは強く否定した。

(社員のにストーカーをされてから、何年もと関わってないって言ってたんだから!)

「怖い怖い。そんなに怒らないでよ。ほら、カクテルでも飲んで落ち著いて」

グラスを手に持たされ、煽られるままに、またひと口。

「……ちょっと、お手洗いに失禮します」

「うん」

雪乃は、ひとまず落ち著こうと鞄を持って席を立った。

洗面臺のついたトイレの個室にり、ふーっと息をつく。

(……なんだか、相談っていう雰囲気じゃない。これって私、連れ回されてるだけなのかも……)

やっと現狀に気付き、嫌な予がしてきた雪乃は慌ててスマホを開いた。

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