《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「今夜は絶対、キミを抱かない」6
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
酒に強い晴久は目覚めとともに回復しており、八時に起床して支度を終えた。
一段上のベットでまだ無防備に眠っている彼の顔を確認し、なにもせずに一晩耐え抜いたのだと安堵する。
たまらず前髪をでると、彼の瞳がうっすらと開いた。
「ん…おはようございます。晴久さん、早いですね」
「ああ。おはよう。眠れた?」
「はい」
一緒に眠ったのに、お互い、の奧の足りなさがぽっかりと殘っている。
(私ったら、晴久さんのせいで、だんだん求不満みたいなになってる……)
複雑な気分になっている雪乃の隣で、晴久は爽快な気分だった。
彼の両親を裏切らずに済んだのだ。
挨拶というミッションを最後まで誠実に終え、父親の理解は百パーセントではないものの、達に満ちていた。
ふたりで一階に下り、リビングに顔を出す。すでに母が花柄のエプロンをしてキッチンに立っていた。
「おはようございます」
「あら、おはようふたりとも」
ふたりがやってきたのを確認した母はトーストを二枚、トースターにれた。
晴久はキョロキョロとリビングを見渡す。それに気づいた母は苦笑いをした。
「ごめんね。お父さん二日酔いで起きられないから、お晝まで休むんですって」
雪乃は「もう」と頬をふくらませる。あの様子ではしかたない、と晴久はクスリと笑ってうなずいた。
「晴久くんもけっこうお酒飲んだんだから、お晝まで休んでから帰ったら。事故でも起こしたら大変だし」
「はい。そうさせてもらいます」
「雪乃。晴久くんにコーヒーれて」
「はあい」
晴久をダイニングテーブルに座らせ、雪乃はコーヒーメーカーのスイッチを押す。
いい香りがしてきて、サーバーにコーヒーが落ちてきた。
お手伝いをする雪乃の姿を見て、晴久はホッとした。東京では怯えて暮らし、晴久と出會うまで當たり前の日常が送れなかった彼も、ここではすっかり安心した子供のような笑顔をしている。
つらい経験があっても、あたたかい家庭で育ったからこそ素直で優しい今の雪乃があるのだと彼の両親に敬意をはらった。
サラダの添えられたジャムのトーストをご馳走になり、母親から雪乃の昔話をあれこれ聞いた。
そのたびに「やめてよお母さん」と制止する雪乃の聲と、晴久のクスクスという笑い聲が一階のリビングに和やかに溢れる。
「あ、お父さん」
ふと、母親が、ドアのすりガラスに映るに気付いて立ち上がった。晴久も振り返り、雪乃も「きたきた」と呆れた聲を出す。
本人もリビングにり、申し訳なさそうにポリポリと頭をかいた。
「おはようございます」
晴久は先にあいさつをする。
「お、おはよう……晴久くん、昨日はその……」
記憶はちゃんとあるらしく、父親は晴久と雪乃、どちらの顔もうかがいながらうつむいている。
「ええ。昨夜はご馳走さまでした。いろいろとお話ができて楽しかったです」
「いやあ……失禮なことばかり喋ってしまって申し訳ないよ。言い訳になるけど、とても酔っていたからね……」
「失禮なんてありませんでしたよ。雪乃さんのような素敵なお嬢さんがいるんですから、心配するのは當然のことです」
まだ晴久の営業トークなのではないかと疑心暗鬼になっている父は、ちらっと雪乃に目をやる。口を尖らせている雪乃だが、父の心配する気持ちは理解しており、ため息をついた。
「お父さん。私、晴久さんがいなかったら今頃東京でつらい毎日を過ごしてたと思う。今はどこへでも行けるし、晴久さんは私の嫌がることは絶対しない人だから大丈夫」
雪乃は話しながら昨夜のことを思い出し。
「あと、お父さんの嫌がることも絶対しないし」
と付け加えた。
父が反省したところで一度場は落ち著き、お茶を淹れに席を立った母とれ違いで、ダイニングに座る。
二日酔いがまだ殘っており朝食は食べられないらしく、彼のテーブルにはなにも用意されない。
「あの、まだ僕からお伝えできていないことがあります。最近、雪乃さんは引っ越しをされたと思うのですが、ご連絡は來ましたか」
晴久が切り出すと、父「きたよ」とうなずき、キッチンの母も「そうね」と聲を出す。
「その住所は、僕の家です。一緒に暮らしています」
父は「一階に?」と眉をひそめる。
晴久は、やはり雪乃はここまで話していないのかと思い、隣でキョトンとしている彼に、後でおしおきをしようと心に決めた。
「はい。事後報告ですみません」
晴久は真剣な眼差しを崩さずに、反応を待つ。
男と一緒に住んでいるという娘の変化に父も母も驚きつつも、それはやはり喜ばしいことだと理解している。
それでも、どうにも煮え切らない気持ちが頭の中でモンモンとしている父だが、同居の件も含めてきちんと報告に來た晴久の覚悟を考えれば、これ以上に真面目な男はいない。
そう納得し、ついに彼を認めるため息をついた。
「わかった。我々も、晴久くんがそばにいてくれた方が安心だから助かるよ。ふたりで楽しく暮らしてもらえれば、それでいい」
「ありがとうございます!」
これですっかり肩の荷が下りた晴久は、心の底からの爽やかな笑顔を雪乃に向けた。
彼の両親も、文句のつけどころのない娘の彼氏に安堵する。
母が「よかったじゃない」と父の肩をポンポンと叩き、彼も「そうだな」と照れくさそうに笑った。
「じゃあ、またお邪魔します。お世話になりました」
午前十一時、晝前に晴久たちは雪乃の実家から車を出した。
「ええ。またいらっしゃい。雪乃、晴久くんにご迷かけるんじゃないわよ」
「わ、わかってるよぉ。じゃあね」
出會ったときの張は和らぎ、打ち解けた四人は手を振りながら、家と車が離れていくのをお互いに見守った。
両親が見えなくなってから、雪乃はバックミラーに手を振るのをやめて座り直す。
ちらっと晴久の表を確認する。澄んだ顔で運転している彼。
「あの、晴久さん。ありがとうございました。うちの家族がご迷かけちゃいましたが、ずっと真摯に説得してくれて……」
「そんなことないよ。楽しかった」
雪乃のご両親への説明不足には問題ありだけどね、と心の中でたしなめる晴久。
しかし、今まで出來すぎた彼の年下らしい部分をやっと見つけた晴久は、それさえもかわいらしく思った。
「これでひとつ解決だ。もう思う存分、雪乃とイチャイチャできる」
「へっ……」
彼らしくない臺詞に耳まで赤くなった雪乃は、シートに沈んで小さくなっていく。
「覚悟しといて。今夜は絶対抱くからね」
昨夜と正反対の宣言をされ、夜が待てずにさっそくが疼きだす。晴久はそんな彼にフッと笑みを落としながらも、前を向いていた。
両親に認めてもらえたことで、雪乃にも罪悪はすっかりなくなっていた。
晴久との仲を隠す必要がある人がついに誰もいなくなり、彼との明るい未來に、心が躍るのだった。
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