《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》
廊下を歩いていると、どうやら『事後』のミハイルとすれ違う。
視線をやるとやはり不機嫌らしく「けっ!」と舌打ちしていた。
や~ね~、反抗期っていつ終わるのかしら?
トイレにつくと、先客がいた。
おかっぱ頭の年がお花を摘む……じゃなかった放出中。
俺も隣りに立ち、コトにる。
「……」
「……」
いや、人が隣りにいると出るものも出ませんね~
「あ、あの……1つお伺いしても?」
おかっぱがこっちを見ている。
目を合わせようとしたが、前髪が邪魔してその目は見えない。
「ん? なんだ?」
「あの……氏は奴らとどういう関係で?」
「奴らとは?」
「あいつらですよ、伝説のヤンキー三人組」
なんのことかサッパリだった。
「……誰だそいつら?」
「あの三人ですよ? 知らないんですか?」
「だからどの三匹だ? どこぞの時代劇の再放送なら平日の朝に見ろ」
「違いますよ! 『剛腕のリキ』、『金こんじきのミハイル』……そして最後が『どビッチのここあ』」
「……」
千鳥だけそれっぽいけど、ミハイルは外見だけ。最後の花鶴に関してはただの悪口だろ。
センスないな。
小便を終えた俺はトイレを出て、廊下で詳しい話を聞く。
「それで、その三人……つまりあのアホどもがなんなのだ?」
「何って……怖くないんですか!?」
おかっぱは必死になって、俺に説明する。
なにをそんなに焦っているんだか。
「全然……むしろ、奴らは言語能力において著しく欠落している……かわいそうなバカどもだろう」
「氏はわかっておられない……奴らは、うちの地元ではそれはもう酷い噂ばかりです」
「ふむ……つまりお前の地元では手もつけられないようなヤンキーという認識なのだな?」
「はい、奴らは席むしろうち市において……たった三人で地域一帯の暴走族を潰した伝説のヤンキーです」
席むしろうち市とは福岡市に隣接する、福岡県の地域名だ。
まあ個人的にはご老人が多いイメージはある。
「伝説ってお前……なにが伝説なんだよ?」
「いいですか、あいつらは十年前に発足された伝説の暴走族『それいけ! ダイコン號』の後継者です」
「……お前、俺をおちょくっているのか?」
酷いネーミングだ。笑わせたいのか怖がらせたいのか、意図が読めん。
「某は真剣ですよ! いいですか、『それいけ! ダイコン號』は初代から數鋭の武闘派で、それはもう酷かったんです」
なにが? 名前のことだろ?
「十年前にグループは消滅したのに、一年前に急遽、復活を遂げ、席むしろうち市を恐怖に陥れています」
笑いの渦だろ?
「そう……あの三人は本當に手もつけられないようなヤンキーであり、暴走族です。うかつに近づいてはあなたの命が危ぶまれますよ」
一通り、事を聞かせてもらったことが、何ともしっくりこない。
奴らが伝説のヤンキーだと、笑わせる。
俺は鼻で笑うとこう切り出した。
「……言いたいことはそれだけか?」
「え?」
「正直、俺はあのバカどもに関しては何の恐怖なぞじない。むしろ本當にどうしようもないクズ、バカ、アホというのが第一印象だ」
まんまだしな。
「な! そんなこと口に出したら……」
「いいか、俺は白黒ハッキリさせないと気が済まないんだ。お前の言い分も分かった。だが俺はあのバカたちがそういう犯罪絡みの所業をしていたとしてだな……それをこの目で確かめるまでは『ただのバカ』という認識だ」
「氏はいったい……」
チャイムが鳴る。
「じゃあ、これで駄弁りは終わりだ。授業に遅れるぞ? お前、名は?」
「あ、申し遅れました。某も新宮くんと同じ“ニーゼロ”生の日田ひた 真一しんいちと言います」
ニーゼロ生とは今年の一年生ということだ。
2020年に學したからニーゼロ生。
一ツ橋高校は単位制でもあり、通信制でもある。
また留年する生徒が多いらしく、3年間で卒業を目標にしているものはない。
よって、留年を想定した上で、學した年で生徒たちを區別する仕組みになっている。
また學するのも春だけにとどまらない。
夏から願書を出せば秋にも學できる。
その背景には中途退學者の前學校における単位が殘っていれば、不足分を補えるというメリットが売りなのだとか。
気軽にって卒業。それが売りらしい。
「日田か……認識した。俺は新宮 琢人だ」
「某は新宮くんのことは存じ上げてます」
「なぜだ?」
「だって學式であの『金こんじきのミハイル』と大ゲンカしたという噂で……」
あれがケンカだと! ただの暴行だ!
「そんな噂が立っていたのか」
「ええ……では遅れますのでこれにて!」
そう言うと足早に、日田 真一ひた しんいちは廊下を走る。
俺はこんな時でも急がない。
まあ急ぎはするのだが、『廊下は走ってはいけません!』なところだからな。
途中、曲がり角で人影をじた。
「……」
またお前か、古賀 ミハイル。なにをそんなに顔を真っ赤にさせて、床と會話している。
お前の推しメンは床か? 『ゆかちゃん』と名付けてやる。
「おい、古賀。もうチャイムなったぞ?」
「わかってるよ……」
「そうか、じゃあ俺は先に行くからな」
言い殘すとゆっくりと俺は歩きだす。
途中振り返ると、ミハイルはやはり『ゆかちゃん』とお話中だ。
ヤンキーってのはわからんもんだな。
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