《勇者になれなかった俺は異世界で》迷宮に向けてランク上げ

『どうするのだ?この空気、完全に我らも化け扱いではないか

折角命を救ってやったと言うのに謝の言葉も無いとは、所詮どこの世界でも下等生は変わらぬな』

ポチの手によって無殘な死を遂げた狂人ブローメド=ジャスゼッタイの等で

冒険者ギルドは悲慘な事になっていた。壁や家にはベットリとが付き、

の部位があちこちに転がり、鼻を劈く強烈な臭いに包まれている。

そしてその中心には勿論獣姿の大きなポチが堂々と立っている。

とっくの間にポチは殺気を解除しており、この場に圧力を掛けるモノはないのだが、

それでも誰一人ともこうとはせずに只々口をポカーンと開け愕然としている。

流石に後先考えずにこの場で殺してしまったのは大きな過ちだったのかもしれない。

折角水の都に來たばかりだが、早々に此処を離れていかなくてはならないかもな。

「うわー、すごいことになってる」

「わー、本當だ」

その重たい沈黙の空気を破ったのはたった今冒険者ギルドにり込んできた先日の雙子のたちだった。

この悲慘な現場を見ても表一つ変えることなく平然とした様子で互いに言葉を発する。

「おっきい獣もいるね~あ、やっほ~」

「いるね、やっほ~」

ポチの事を見ても大して驚くことは無く、大きな獣と口にした。

それから俺の姿を確認した様で大して離れた距離にいるわけではないが、手をヒラヒラと振って來た。

「ああ、やっほ……と言うか外はなんともなかったのか?」

大量殺人犯は仕留めたが、まだ外には彼の仲間と思わしき人がいたはずだ。

黒裝束にを包み不気味な仮面をしている集団の事だ。

「なんか変なのいっぱいいたけど、リディアとかが倒してた~」

「シュパパパ~って倒してた~」

「そうなのか、なら外の奴らの事は放置しておいても問題はなさそうだな。

……問題はと言うとこの場をどうするべきかと言うことか」

レディア、糞みたいな報酬――いや、自分の全てを掛けてでもお父さんを救い出そうとした

とても勇敢な冒険者の事だ。彼の実力がどの様なモノなのかは知らないが、

この雙子が言うようにシュパパ~と敵を倒して行ったのならば任せても問題は無いだろう。

問題は外よりもこの冒険者ギルドの方だ。

「これお兄さんがやったの?」

「それともそこの獣?」

「お、お兄さん……!!」

このになってから子ども扱いしかされていなかった為、お兄さんと呼ばれて喜びが発する。

お兄さん……なんて言い響きなんだ!……って今はそれよりもだ!

「狂人をぶち殺したのはそこに居る獣だ。ちなみに俺の仲間だからお前たち――

この場に居る全員に襲い掛かる心配はないから安心してくれ」

「お兄さん凄いね、ちっちゃいのに」

「おっきい獣手懐けてる、凄いね」

「あ、ああ、ありがとう……」

手懐けていると言う言葉を素直にけ取ってしまって良いのだろうかと頭を悩ます。

だが、ポチの心を読んでみると、そんな事は大して気にしていなかった様で一安心だ。

未だにこの場で言葉を発しているのは三人。どうしたものかと悩んでいると、カウンターの方でく影があった。

「……えっと、ありがとうございます……私たちを救っていただいて」

「うん、お禮ならこっちに言ってあげてしい」

聲を出したのはカウンターにいた付嬢さんだった。

やっと言葉を発してくれたのは非常に嬉しい事なのだが、頑なにポチに視線を合わせないようにしており、

俺の方を見て頭をペコリと下げお禮を言ってきた。

やっと話してくれた彼にはし悪いが、お禮は全てポチに言ってくれと伝える。

「す、救っていただき……あ、ありがとうございます」

怯えからなのだろうか、普段は発聲と同時に頭を下げていた付嬢だったが、

今回は語先後禮となっていた。何だか異世界でもビジネスマナーの一環を目にしてしまって何とも言えない気分だ。

『ふんっ』

お禮を言われたポチだったが、鼻で笑う以外特に反応を示すことはなかった。

「あ、ありがとな、正直死んだと思ったぜ」「ありがとうございます!」「助かりました!ありがとうございます!」「死゛ぬ゛か゛と゛思゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛、゛本゛當゛に゛あ゛り゛が゛と゛う゛ご゛ざ゛い゛ま゛す゛う゛う゛」「命の恩人だ、本當に謝している」「ありがとよ、獣神様!」「命の恩人!」「本當にありがとうございます!」……

付嬢の後に続いて次々と冒険者たちが立ち上がってお禮を言い始めた。

だらしない恰好で頭を下げる者はいない。全員ビシッと姿勢を正してから頭を下げていた。

中には子どもの様に泣きながらお禮を言うものもいた。

全員の視線の先にはポチがいる。そのポチはと言うと――

『ふ、ふんっ、やっと禮を言う事を覚えたのか。下等生共は學習が遅いから嫌いなのだ』

口ではそういっているが、謝されると言うのはポチでも嬉しいらしく、大きな尾をバタバタと左右に振っている。

本當に可い奴だ。

・・・・

それから國の兵士達や冒険者達の協力により水の都は何時もの狀態とは言い難いが、徐々に活気を取り戻していった。

死傷者の數は66名。これだけで済んだのは不幸中の幸いと言うモノだろう。

もし、ポチが狂人ブローメド=ジャスゼッタイを倒していなかったら死傷者の數は何重倍にも膨れ上がっていただろう。

その事をしっかりと理解できているモノが水の都には多くいたおか、獣姿のポチは敵視されることは無く、

水の都を救ってくれた救世主の様な存在として扱われ、堂々と街中をある事を許されてしまった。

まさかこのような日が來るとは思っていなかった為、非常に驚いているのと同時に嬉しい気持ちもある。

水の都ならば堂々と獣姿のポチの事をもふもふと出來るからだ。

この世界に戻ってきてから二番目に嬉しい事だ。

そんなじで俺は今堂々とポチの上に乗りながら街中を歩いている。

もふもふに包まれながらの散歩は非常に心地が良いモノだ。

『我が救世主か』

「まぁ、全員が全員そう思っているわけではないがな。不満か?」

に合わないと思ってな。どちらかと言うと今までは奪ってばかりだったからな。

他の生を助けて禮を言われ、更に救世主とまで呼ばれ稱えられるとし居心地が悪い』

「そうか?良いじゃないか救世主。そもそも俺からしてみればポチは昔から救世主だぞ。

俺はポチに數えきれないぐらい救われている。お前は俺にとっても救世主だ。誇るが良い」

本當にポチには數えきれないほど救われている。現に今も加護によってポチに救われているのだ。

小さい事かもしれないが、それでも俺にとってはとても有難く、俺にとっての救世主だ。

『ふんっ、まぁ、そのうち慣れるだろう』

「話しは変わるが、新魔王軍と言ったか、何かアクションを起こしてくるか?

なんだが、ポチにビビって逆に引っ込んでしまっていそうだがな」

先日倒した狂人は新魔王軍と言う気になる組織名の様なものを名乗っていた。

その仲間たちをおびき寄せるためにポチがかなりえぐい事をしたのだが、

そのせいで何らかのアクションを起こす気も出ずに怯えてしまっているのではないだろうかと心配になる。

『まぁ、仲間の場所はすでに判明している。どうする?乗り込むか?』

「……いや、止めておく。今はし問題が多すぎだからな、面倒な事は後にしよう」

付嬢のユリさんが言って居た『私たち』、狂人が言って居た『新魔王軍』

冒険者たちが言って居た『行方不明の勇者たち』『攻略困難な迷宮』。

まだ報収集を本格的にしてないからこれぐらいで済んでいるが、これからもっと増える事だろう。

特に新魔王軍というからには魔王や大魔王が絡んでいる可能が大だ。

出來ればこれはあまり関わりたくない。知り合いの魔王や大魔王ならば大歓迎だが、

知っている面子で新魔王軍だなんて下らない事を考えそうなモノは存在しない。

これは大魔王エリルスとその仲間以外の魔王達が関わっている事だろう。

「まずは報収集からかな。そろそろ本格的にやって行こうと思っている。

目標は一日一つの新しい報を手することだ」

『むぅ、それでは退屈ではないか』

「なぁに、大丈夫さ。早く報を手したら依頼もけれるさ」

そんな會話をしながら新たな報を求め冒険者ギルドに向かう。

「あっ、救世主が來たぞ!!」

『うおっ、何だ此奴等は!我に近付くではない!!』

冒険者ギルドにると早々に有名になってしまったポチが多くの冒険者に囲まれてしまった。

だが、決してポチにはれないようにとある程度の距離が存在している。

そこら辺の距離はしっかりとしている為、ポチもなんとも言えない様だ。

『ソラよ、此奴等どうにかしてくれないか?』

「まぁ、良いんじゃね?ささっと報収集してくるからポチは此処で待っていてくれ」

『なっ!?ソラよどういうつもりだ!?我を置いていくのか!!!おい、ソラよ!

何故無視するんだ?おいおいいい!戻って來い、おい!』

折角だ。ポチには此処で報を集めてもらうことにしよう。そう言い殘し俺は奧の酒場に足を運ぶ。

何時もよりも必死な助けの聲が聞こえる。ポチよ、頑張るのだ。

最近騒な事が起きているからか酒場で飲んでいるのは何時もよりもない人數だ。

朝なのだからなくて當然なのだが、この世界では朝っぱらから酒場が混雑する程みんな酒好きなのだ。

「ねえ」

「ん?なんだい坊や。此処は君にはまだ早いと思うけど」

一人で飲んでいる30代ぐらいのに聲を掛けてみる。

本當にこういう時は子供のと言うのは便利で都合が良い。

変に怪しがられたり嫌がられたりせずに話をすることが出來る。

「うん、そうなんだけど……ちょっと報を集めてるんだけど、聞いても良い?」

上目遣いで出來るだけ下から責めていく。

うっ、と聲をらしながら此方から視線をしずらす。これは効果ありとみて良いだろう。

しだけだよ、なんだい?」

「ありがとう!えっとね、この前ここで聞いた話なんだけど、

未だに攻略が出來てない凄く難しい迷宮があるって聞いたんだけど、なにか知らない?」

報収集と言っても一番優先的に集めるべきものは例の迷宮とやらだ。

迷宮と言えば思い浮かぶ顔が居るのだ。もしそいつが関係ないとしても、

未だに攻略が出來ていない迷宮ならばポチを退屈を退屈させないでも済む。

「そうだねぇ、それらしい迷宮なら知ってるけど、君が知りたい迷宮とは違うかもしれないよ。

ヘルノリア王國の付近の草原を抜けた所にある森の中にその迷宮はあった気がする。

それと最近になってヘルノリア王國が余りにも死者が絶えないからと言って立ちりを制限してるらしいよ」

「ヘルノリア王國……なるほど、ありがと!」

まさか一発でそれらしい報を手にれられるとは思わなかったぞ。

これは幸先が良いな。これで今日の目的は達したが、かなり時間に余裕がある。

ポチにはもうし頑張ってもらって報を集めるとするか――

數人に聞いて集める事の出來た報は、

迷宮が現れた際に攻略軍と呼ばれる軍隊が結され、迷宮に挑んだ。

だが、その全軍の力を持ってしてもり口から一層降りるだけで一杯。

現在の最高記録は一週間前に更新された七層で最階層までは殘り百四十三層あるらしいという事。

それだけでも驚くのだが、それ以上に驚愕の報を手にれることもできた。

なんと一層目からケンタウロス、ミノタウロス、グリフォンなど様々な強力なモンスターが出現して、

やっと切り抜け二層目に著いたかと思えば二層目にはケルベロスの大群、

三層目にはモンスター數はないが即死系の罠が無數にあり、

四層目には足を踏みれた瞬間に力が半分ほど失う罠があり、

その先に待ちけているのはオークの上位種ハイオーク。

それも謎の力で力が永久的に回復し続けるハイオークと聞く。

五層目には足を踏みれた瞬間に催眠スキルが発して

味方が敵に見え、何方かが倒されるまでは絶対に解けない仕組みだ。

六層目には五層で倒した味方の死が転送されゾンビとなって復活し、能力が十倍まで強化されて襲い掛かって來る。

七層目にはケルベロスのゾンビらしくモノが待ちけているらしく、

ゾンビと言うだけあって中々死なずに眷屬として普通のケルベロスを召喚すると言ったぶっ飛んだモンスターだ。

噂では25回程殺さなければ倒すことは不可能の様だ。

更にその先、八層に向かおうとすると橫から即死の毒針が飛んで來るようだ。

……迷宮についてかなりの報が集まったが、どれも信じがたいものだ。

噓を言っているようには見えなかったが、酒が回って多大袈裟になっているのかもしれない。

五年間でたった七層しか攻略が進んでいない。殘り百四十三層。

話しを聞く限りでは階層が進むにつれて敵が徐々に強くなっていくシステムだ。

「これは絶対に退屈しないだろうなぁ……楽しみだ」

自然と笑みがこぼれる。まだ迷宮に行くとは決めた訳ではないが、想像をしただけでも思わず口角が吊り上がる。

『やっと戻って來たな!絶対にゆるさ――んんんんん?隨分と面白い顔をしているではないか。

心が通じ合っているから言わなくても大理解しているつもりだが、どうしたのか言ってみろ』

ポチの下に戻ると今まで放置されていた不満をぶつけられるかと思いきや、

一瞬で負のは消え、ポチもまた闘志を燃やしだした。

「ふっ、やっと俺たちに相応しい。苦戦を強いられるであろう場所を見つけたのさ。

まだ行くとは決まっていないが、いずれかは必ず挑戦してみたいものだ」

『それは、非常に楽しみだ』

そのうち迷宮に行きたいと言ったのだが、國が場を規制している程なのだ。

當然低ランクである俺とポチが場を許可されるわけがないのだ。

幾ら実力があったとしてもそれを証明し、認められていなければ意味がない。

という事で今、俺とポチは別々で依頼をけている。

依頼をける際、一度外に一目の付かない場所に行き獣姿から人間姿に戻ってもらい、

冒険者ギルドに向かい別々に依頼をけた。

早く強敵と戦いたいのならば別々で効率よく依頼をこなしていくしかないという事をポチに伝えると、

特に不満を言うことなくすんなりと別行になった。

最低でもSランクまたはAランク程度無ければ認めてはもらえないだろう。

かなり長居挑戦になるが、こればかりは仕方がない。

現在俺がけている依頼は魔討伐等のモノではなく、噴水のお掃除だ。

水の都はこういった依頼ばかりだ。魔討伐がないということはそれだけ安全で良いのだが、

足りない気がする。

噴水の排水口にたまったごみを箒のようなもので葉っぱなどを救いあげていく。

凄く地味だが、これだけでお金も手にりランクの上昇にもつながるのだ。

ポチの加護によって此方が汚れることも無く、とても楽な仕事だ。

「それにしても地味な作業だな……こんな依頼ける冒険者なんて限られてるだろ……

だが、俺達がこう頑張っているからこの都はなりたっているんだよな、

ふっ、謝するが良い、水の都の民どもよ……」

余りにも退屈な作業のため、そんな獨り言を零しながら手をかしている。

ゴミに紛れてたまに使い古された人形や服などもある。

捨てる事態悪い事なのだが、何故噴水の中に捨てたのか問いただしたい所である。

執事服の子供が噴水の掃除をやっている景が相當珍しいのだろう。

道行く人々の視線が必ずと言っても良い程此方を向いている。

「おっ、おお?き、君!こんな所にいたのか!」

「ん?」

聲を掛けられ手をかしながらもそちらのほうを見てみると、見覚えのある騎士が立っていた。

し驚いた様な表で此方に歩み寄ってくる。先日々とあったレディアさんだ。

「き、今日はあのお姉さんは居ないようね……」

「ポチは別の依頼で此処にはいないぞ。何かようでもあった?」

「い、いや、そういう訳じゃないんだ!でもそういう訳でもあるような……

ええい!違う!今はこうして君を見つけた、だから君に用があるって事なんだ!」

「そう……用って言うのは?」

何が言いたいのかはっきりしないレディアに首を傾げながらも話を聞いてみることにした。

恐らく彼がはっきりしない理由は、本當はポチに用もがあるが怯えているからだろう。

「……本當にありがとうございます!」

數秒の沈黙の後、彼はお禮の言葉を言い頭を下げた。

ビシッと言う効果音が付きそうな程その禮はとても綺麗なモノだ。

まさか急に頭を下げられるとは思ってもいなかったため、作業する手を止めて彼に頭を上げるように促す。

「ちょ、こんなところで子ども相手に頭なんか下げないで!!

周りの人凄い見てるから!!やめてくれ!!」

「そ、そうか。だが、私は本當に君には謝しているんだ!」

「う、うん。謝の気持ちはよく伝わったよ……でも本當に謝すべき相手は俺じゃなくて――」

「いや、君だ。君で良いんだ。確かに君のお姉さんにもお禮を言うべきだ。

だけど、私はお父さんに全て聞いたんだ……君は只の子供ではない。

だからと言って君の正を調べたりする気はない。君は私のお父さんを救い、私のまで自由にしてくれた。

それに、先日の大量殺人事件、獣の近くには君が居たと聞く。私はそれも君が関係していると思うんだ。

ああ、これは勝手な推測であって私の妄想だから、何も言わなくていい。

ただ、これだけは君に言いたいんだ。本當に私を、お父さんを、皆を救ってくれてありがとうございます」

折角頭を上げさせたのだが、再び彼の頭が下がってしまった。

どうやら全てあの男から聞いてしまっていた様だ。バレたからと言って何をするわけでもない。

謝されるのは悪いモノではないが頭を下げられるのは好きではない。

「報酬が気になっただけだ。この前のはあいつがこちらに敵対したから殺したまでだ。

謝するのは勝手だが、別に救おうとしたわけではないんだ」

「……でも、私たちは救われた。君がなんと言おうとこの事実は変わりない。

だから私はこうして君に謝をしているんだ……き、君のお姉さんに同じように言って置いてくれないかな?

私はちゃんと伝えたからなー!!」

「は、はぁ」

言いたい事だけ言って嵐の様に去っていくレディアであった。

結局お禮を言いたかっただけの様だ。再び掃除を再開しながらそんなことを思う。

會話の容からレディアのお父さんは無事に意識を取り戻して會話もできる狀態のようだ。

水の都に來てまだ日は淺いが、何だかんだ言って謝されている事ばかりなのは良い事だ。

あまり目立つのは避けたかったが仕方がない。

「あ、お兄さんだ」

「雑用してる」

「うるせ!だれが雑用係だ!!これはな、この都を守るための大切な任務なんだ。

これは決して雑用ではない!選ばれしモノしか遂行することが出來ない大いなる任務だ!」

何故か今日は良く知り合いに出會ってしまう。間違いなく、人通りの多いところで噴水の掃除などしているからだが……

レディアの次は先日も出會った肝の據わった雙子コンビだ。

俺が行っている掃除の事を雑用と呼ぶこの二人は有罪だ。

「そうなんだ、すごい」

「すごい、すごい、ところでお兄さん」

「ああ、凄いだろ?なんだ?凄いお兄さんに何のようなんだ?」

「この前お菓子くれるって言ってた」

「いつになったらお菓子くれるの?」

掃除をしていた手がピタリと止まる。雙子の言っていることにに覚えがあるからだ。

そういえばレディアの父親を救出した際に後の面倒な事はこの雙子に任せたんだっけ。

その時の條件として今度お菓子を上げるからと言ったんだった……

「あー、明日で良いか?決して忘れていた訳ではないからな。

最近は々と忙しくてな、今も、ほら、こうして噴水の命を救っている訳だ」

「あしたー」

「わかったー楽しみにしてる~」

ひらひら~と手を振って雙子の背中を見送る。

本當はこの依頼が終わったあとでも良いと思ったが、流石にポチに一言れないと怒られてしまう。

明日は事前にポチに伝えて依頼が終わったらあの雙子にお菓子を買ってあげよう。

掃除を再開する。話してばかりで作業が進んでいないと依頼主から怒られてしまう。

流石にそれ以上聲を掛けられることは無く掃除は30分程で終了した。

冒険者ギルドに行き依頼を完了させ報酬をけ取り酒場でポチの帰りを待ちながら再び報収集をする。

ちなみに、今回の依頼だけではランクは上がらない様だ。

「それでな、そこで俺の大剣が覚醒した訳よ――」

そんなどうでも良い自慢話を聞いたりしていく中で気になる報を得る事が出來た。

例の迷宮を攻略するためにSランク以上の冒険者が集められているとかなんとか。

もしかしたら俺とポチがランク上げしている間に攻略されてしまうかもしれない。

そんな焦りが生じる報だった。

「戻ったぞ、ソラよ――ってなんだ!?」

「ポチ!何をモタモタしている!!俺達には時間が無いぞ!

ほら、帰ってきたら次の依頼けにいくのだ!ほら行くぞ!!!」

「お、おお、そうだな、我もまだ戦い足りないぞ」

一日に二回、いやそれ以上の依頼をこなしていかないと本當に間に合わないかもしれない。

ポチが戻ってくると俺は急いで新たな依頼に取り掛かった――

ポチはささっと依頼を決めて冒険者ギルドから出て行ってしまった。

ポチと俺のランク差は一つしかないが、それでも推奨される依頼はかなり変わる。

俺が魔討伐、その中でもケルベロスの様な強敵の依頼を持っていけば速攻弾かれてしまう。

やはり子供の見た目はこういった時に不便だ。便利な時もあれば不便な時もある。

ポチや大人が同伴なら許してくれるのだが、今は一人だ。

これは仕方がない事なのでぐちぐち言ったりはしない。今は今できる依頼をこなすしかないのだから。

流石に一日二回同じような噴水のお仕事はやりたくない為、外に行ける依頼を探す。

「お?」

朝見た時はなかった依頼がそこには存在していた。此処、水の都からはし遠いが、

離れたセイの森と言うところでの最近増えているスライムとゴブリンの討伐の依頼がられていた。

久々にランクに見合った魔討伐の依頼だ。今回は核とかの回収ではなく、魔石で良いとのことだ。

核なんていらないというほど増えているということなのだろうか。

討伐數の指定も無く、倒せるなら倒せるだけとのこと。

「これだ!!」

依頼を見つけ手に取ってからの行はものすごく早い。

速攻でカウンターに持っていき手続きを済ませる。危ないだとか言われたが、手続きが完了すれば此方のものだ。

水の都を抜け出して人目が無くなってから強化を発してセイの森までひとっ走りする。

加護の影響で風の影響をけて顔が凄いことになる心配はない。みるみるに変わっていく風景。

なんだか一人で強化を使って自然の中を走りまわるのはかなり久しぶりの様にじる。

非常に心地の良いモノだ。やはり全力を出すのは楽しい。

「到著っと」

あっと言う間に目的地に到著だ。セイの森。特に変わったような外見はしていない。

どこにでもありそうな普通の森だ。常に強化を発した狀態で森の中に足を踏みれる。

し進み、太が大きな木に遮られ若干暗くなってきたころ、茂みが激しく揺れ、三のスライムが飛び出してきた。

そして、一度地面に著地したかと思いきや、バウンドするようにして此方に飛び掛かってきた。

現化していない為、素手だったが、スライム如きに武を使用するまでもない。

飛んできたスライムを避けることもせずに拳を突き出す。ぐちゃと言う覚が腕を襲う。

それを特に気にすることはなく拳を力強く握りしめてスライムの核を潰す。

スライムが溶けるようにして落ちていく。殘りの二が左右から飛び掛かってきている。

「良いコンビネーションだ。だが、お前たちは弱すぎる――重力作グラビティ・コントロール」

俺の記憶にはお前たちよりも何十倍も強いスライムがいるぞ。

そんなことを思い浮かべながら地面に転がっている小石に重力作を使い、二の核を破壊した。

掌には一つの魔石、地面には二つの魔石が転がっている。

「久々の戦闘だったが、上出來だな。まだ本調子と言う訳ではないが、悪くはなかった」

自分できを評価していく。一人の時の自己肯定はとても大切だと習った。

魔石を拾い袋に詰めて更に奧へと進んでいく。

すると、GISYAAAと言う聲を上げてゴブリンが彼方此方から出現した。

前後左右、どうやら包囲されてしまった様だ。別に焦る事態ではない。

「此処の魔は連攜が上手い様だな、だが、いくら連攜が出來ようとも弱ければ意味がないんだ」

短剣を現化し力強く握り先手を取る。先ずは正面に居るゴブリンに狙いを付ける。

疾風の如く、俺のが一瞬にしてゴブリンの前に移し剣先はしっかりと元をとらえ、突き刺さる。

右に振り抜き隣にいたゴブリンに切りかかる。仲間をやられたからだろうか、それとも只の雄びだったのだろうか。

聲を荒げながら手に持っていたこん棒で防を試みたが、この短剣の前では無意味だ。

抜群の切れ味でこん棒は紙切れの様に切り裂かれもろとも真っ二つ。

「遅い、遅すぎるぞ小鬼共」

背後から襲ってきているゴブリンを察知している俺にはその攻撃は當たらない。

短剣を左の脇下に通し背中をし丸め剣先が飛び出すようにする。

此方に飛び掛かっきているゴブリンにそれを避ける手段はない。無抵抗に剣先に突き刺さるゴブリン。

左右、背後からゴブリンが襲ってくる気配をじる。

そのまま思いっきりバックステップを踏み更に後ろにいたゴブリンを突き刺しにする。

左右から襲ってきているが急な行に対応しきれずに互いの頭をこん棒で叩き合う。

その瞬間を見逃すことはなく、瞬時に重力作を使い互いのこん棒に最大限の重力を掛ける。

グチャとグロイ音と共に二は絶命した。

「うん、ゴブリン程度なら何襲って來ようとも大丈夫そうだな」

――GAAAAAAAAAA!!!

激しい咆哮に地面が揺れる。ドシンドシンと草木が激しく揺れ真っ直ぐ此方に向かってくる大きな存在を発見した。

「ほう、ハイオークか。戦うのは初めだったか……覚えてないな。

まぁ、俺の記憶にないという事はその程度の存在と言う事だ。期待はしないぞ」

現れたハイオークは此方の何倍もの大きさがあるが決して怯むことはない。

大きさが全てではないのは痛いほどわかっている。

ゴブリンやスライムの討伐が目的だったため、こいつを倒す意味はないが、出てきてしまったのならば仕方がない。

――GAAAAA!

巨大な拳が振り下ろされる。ゴブリンとは比べにならない程俊敏で力強い。

だが、所詮はオークの上位種だ。軽く避け、俺のいた場所がハイオークの拳によって抉られる。

その隙を付いて腕に飛びのり短剣の現化を解除し、し長めの剣を現化させる。

それを魔の皮に突き刺しながら腕を伝い登っていく。

――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!

「おっと」

流石にやりすぎてしまったようだ。首に差し掛かる辺りで暴れられ振り落とされてしまった。

そのまで深い傷ではないが、ハイオークの右腕は出によって痛々しい姿になっていた。

ちなみに俺に一切はついていない。ポチの加護様様だ。

――AAAAAAAAAAAAAAAA!!!

怒り狂った魔が腕を鞭のようにして振り回す。

決して當たることはないが、周囲に甚大な被害を與えている。木々をなぎ倒し、魔を潰していく。

ん?魔を潰してくれるなら凄く便利ではないか!!

そう思った俺は敢えて逃げる速度を落とし、ギリギリの距離を保ち森の中を走りまわる。

ゴブリンやスライムたちが次々と潰されていくのはなかなか心が痛むモノだ。

「仲間かどうかは知らないが、それは酷過ぎないか?」

――GAAAAA!!

「そろそろ、良いな――図が高いぞノッポ」

手に持っていた長剣を橫にして思いっきり投げつける。くるくると激しく円を描きながら回る長剣が凄い速さでハイオークの片足を吹き飛ばす。

斷末魔と共に巨がバランスを崩し地面に倒れ込む。その衝撃で地面が大きく凹む。

「環境破壊は良くないな。次の人生では自然をを大切にすることだな。期待通り弱かったぞ」

再び武現化し、倒れているハイオークの首を切斷する――

「さ、狩りはこれぐらいで良いか。あいつが俺の代わりに凄い倒してくれたしな」

しっかりと転がっている魔石を全て回収する。何気にこの作業が一番大変だ。

帰りは水の都の近くまで転移で移する。

「さーて、ポチと俺どっちが早いのやら」

「ゴブリンの魔石が21にスライムが32……それにこれはハイオーク……

失禮ですが、セイの森でしたよね?あそこにはハイオークなんていないはずですが……」

「えぇ……でも居たから倒してこうして魔石を持ってきたんだけど……」

付嬢、何度も會話をしたことがあるレディアの知り合いの黒いエルフちゃんだ。

どうやらセイの森とやらには本來、ハイオークなど存在しない様だ。

エリルスの記憶にもない森の為、全く知らなかったが何か森で起きているのだろうか。

子供だから此方が噓をついていると思われている様で信用されていない。

「良いですか、あの森にハイオークなんていたら大騒ぎになっているハズですよ。

それに、仮にいたとしても貴方の様な子供に倒せるとは思えないんですけど……

Aランクの冒険者がパーティを組んで倒す様な魔なんですよ?」

「いや、でも……」

「でもじゃないです。お姉さんに言いつけますよ?」

「えぇ……」

完全に相手にしてもらえない。挙句の果てにはポチに言いつけるとまで言われてしまった。

そんなことをすれば確実に付嬢さんの方が怒られるのは目に見えている。

ここは素直にハイオークの事はあきらめて無かったことにしてもらうしかなさそうだな。

「じゃあ――」

「何かトラブルでもあったか?」

諦めようとした瞬間、こちらの言葉を遮りってきたのは本日二度目のレディアさんだ。

「レディア……大したことではないんですけど、この子がセイの森に出たハイオークを倒したって言い張るんですよ。

あの森にはハイオークなんて強い魔いませんし、そもそもこの子に倒せるとは思いません」

付嬢さんが彼の事を名前で呼んでいることからこの二人は仲が良いとみる。

を説明していくと、レディアの顔が悪くなっていき明らかに不機嫌になっていくのが分かる。

の説明が終わると、彼はカウンターを力強く叩きつけた。

バンッと音が冒険者ギルドに響き渡る。一斉に此方に視線が集まり靜まりかえったが、直ぐに興味をなくしたのか、騒がしさを取り戻す。

「セツ!貴方の目は節ですか!?」

「え、ええ?り、レディア?」

「貴方は何年その仕事をしているんですか!?毎日毎日いろいろな冒険者の相手をしているんでしょ?!

だったら相手を見る目ぐらいしっかりとについているハズでしょ!!!」

「え、ええ?」

何故自分が怒られているのか理解できずに戸いをにする付嬢。

どういった反応をすべきなのかとオロオロと取りしている。

「はぁ……彼はしっかりとハイオークを倒す実力は持っています。それに彼が噓を吐くとは思いません」

大きなため息を吐いて一度心を落ち著かせてからゆっくりと付嬢に語り掛ける。

「そ、そうなんですか?確かに彼のお姉さんはすごい人ですけど……

で、でも!私には彼が強いようには見えません。何か証拠があれば納得しますけど」

何だか俺の為に言い合いをしてくれて居る所非常に申し訳ないのだが、

これ以上長引いて面倒なことになるのならば素直に諦めて次の依頼に行きたいのだが……

「私のお父さんを救ったのは彼です。

これは私のお父さんが自ら言った事なので証拠になるかどうかは分かりませんが、

お父さんがそんな噓を吐くとは思いませんし、噓を吐く必要がない」

「リディアのお父様が……わかりました、では今回は認めましょう。

ですが、次回こういった事がないように貴方には実力を判斷するための試験をけてもらいます。

丁度明日、元冒険者の付嬢が派遣されてくるのでその方に判斷してもらうとします。

それでもよろしいですか?」

「ん、ああ、うん、いいよ」

まさか急に話を振って來るとは思わなかった。それにしても実力判斷試験か……

別にけることに抵抗はないのだが、そこで実力を示せばランクが上がったりもするのだろうか。

だとすればかなり早く目標に近付けてとても喜ばしいことなのだが。

「セツ、貴って人は……」

「すみません、ですが、これは彼の為でもあるんですよ」

しっかりとした実力を知ることはとても大切だ。それだけでどの依頼を許可するのか不許可するのか決めることができる。

・・・・

「ってことで明日は試験をけることになったぞ」

あの話のあと、薬草採取の依頼をけ完了させた。

僚から數分後に戻ってきたポチと宿の部屋でくつろいでいた。

互いのベッドでゴロゴロとしながら今日あった出來事を話し明日の予定を口にする。

「ほほう、ソラの実力を認めないとは愚かな奴だな。明日は存分に見せつけてやるが良いぞ

我が認めるソラの力を、神を殺したその力をな」

「ん~やるからには一応全力を出してみるつもりだ。それがランクアップにつながるかもしれないしな」

「ならば我はそれを見屆けようではないか」

「見ていて面白いものではないと思うぞ?それに直ぐ終わってしまうと思う」

「まぁな、ソラの全力に付いてこれる者が付嬢の中にいるとは思えない。だが、それでも我は見守るぞ」

そんな余裕を口にしていたソラだったが、翌日、彼は予想もしていなかった出來事に、

想像すらできなかった事態に、試験場でただただ立ち盡くすことになるとは――知る由もない。

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