ロイがグーテランド七星団學院に學して１週間がすぎた。

最初の頃は教室でも廊下でも、そして休み時間でも放課後でも、の子に集まられて、囲まれたロイだったが、今でも同じような狀況になることも多々あるが、日常生活に支障が出ない程度には収まるようになっていた。

この日の講義もロイの周りには、彼の席を一周するようにの子たちが座っている。

しかし、他の學科生もけられる講義では、ロイの隣の席はだいたいいつも、同じの子。

「ハァ、ロイも大変ね、こんなにの子にチヤホヤされるなんて。モテすぎるのも考えモノだわ」

「う～ん、嬉しいことには嬉しいんだけどね。あっ、軽薄な男子っぽい意味で言ったんじゃなくて、人に認められて、別に関係なく溫かいを抱かれると嬉しい、って意味だよ？」

「わかっているわよ、そのぐらい」

ロイの隣の席に座っているのはアリスだ。

學式のあとのあの一件以來、たびたび、アリスはロイがの子に囲まれている場面に遭遇すると助けてくれた。そういうことを１週間、正確には講義がある平日の５日間だけで１０回以上繰り返していれば、自然と仲良くなるものである。

現に、今では呼び捨てで言い合うような仲だ。

次は魔構造概論の講義で、これは他學科のロイも講することができた。

「ボクとしては、アリスみたいなの子が好きなんだけどね」

「ええっ！？　わ、わわ、私！？」

エルフ特有のき通るように白い、頬を、乙に染めるアリス。唐突にそう言われて、アリスは両手の人差し指をモジモジさせて、潤んだ瞳の上目遣いでロイのことを窺った。

アリスは、本當の本當に、ロイのことを友達として認識していて、間違いなく心なんて抱いていないが、流石に友達とはいえ異に「好き」と言われれば、あわあわしてしまうのは當然である。

「すごく栄なことなんだけど、変にボクに過大な評価をしてくれる人よりも、ボクと対等に接して、ありのままの評価を下してくれる人、そういう友達の方が、好き――と、いうよりは本のより良い関係、ってじがするから」

「まったく、紛らわしいじゃない！」

「あはは、ゴメンゴメン」

アリスは子供っぽく頬を膨らませて、機の下でロイの足を軽く蹴った。

無論、ケンカをしているわけではなく、男の子との子の友達同士でじゃれ合っているだけだ。

「それで、どう？　ロイって、中等教育の上位からの學で、下位は故郷で済ませていたんでしょう？　講義には付いてこれてる？」

「うん、大丈夫。し難しいけど、そのぐらいの方が予習と復習のしがいがあるし」

そして、ロイには〈零から始めるオンベグレンツァト・無限の修練イーブナヌーマァ〉というゴスペルもある。本來なら々面倒に思える講義の予習復習でも、ロイにとっては楽しみの一つだ。そういうふうにゴスペルができている。

「ロイは勤勉ね。私、そういう男の子、好きよ？」

「さっきの仕返し？」

「ふふ、バレた？」

アリスは手で口元を隠して、そして穏やかに目を細めて、クスクス笑う。

しかし剎那、學院のの子の憧れの的であるロイに対して、冗談でも「好き」と言ってしまい、アリスは周りの席のの子から嫉妬の視線を向けられることに。

「一番大変なのはロイでしょうけど、本當にただの友達なのにこういう視線を向けられると、私まで疲れるわね」

「うっ、申し訳ないです……」

「ううんっ、ロイが悪いなんて一言も言っていない！　ただ、風紀委員として、もっとモラルや常識をしっかりしてほしいのよ。なくとも、ロイが困った顔をしているのに群がってしまうの子は、しっかりしてほしい対象ね」

アリスが、キッ、と周りを睨むと、ロイのファンであるの子たちは、さっ、と視線を逸らした。まるでコントのようである。

「あっ、でも、あれね。ロイのお姉さんは真面目って評判を聞くけど、イヴちゃんはけっこう、いい言い方をすると、元気よね」

「まだ學して１週間しか経っていないのに、イヴ、もうそんなふうに言われているのか」

「學して３日目の時點でクラスメイトと決闘、學院史上で、學後最速の決闘って言われているわ」

「うん、知っている」

「で、決闘の理由が、クラスメイトにお兄ちゃんを紹介してって言われた！　お兄ちゃんはわたしの、って斷ったらブラコン扱いされた！　だから決闘したよ！　っていう、ね」

「ま、まぁ、イヴもやりすぎたところはあるけれど、學早々、クラスメイトに男を紹介して！　はちょっぴりダメかもね」

「ちょっぴりじゃないわよ！　イヴちゃんはお兄ちゃん大好きの元気っ娘ですむけれど、男を紹介してだなんて……風紀がれるわ！」

イヴがロイとアリスの話に挙がったが、當然のことながら、イヴは１學年次生なので、ロイとアリスとは別の講義をけている。そしてイヴと同じくマリアも學年が違うので、２人とは別の講義をけていた。

「そういえば、ロイにはガールフレンドっているの？　すごいモテモテだけど」

「いないよ？　今まで誰ともお付き合いしたことはないかな」

ガタッ、と、ロイとアリスの席を一周するように座ったロイのファンのの子が、思わず椅子を立ちそうになってしまう。

ロイは前世で、中學生の頃、不登校だった。すると必然的に、思春期にそういう出會いがなかったことになる。そしてこの世界に転生することになったが、またも必然的に、前世の記憶がある分、ロイは同年代の子供よりも神年齢が高い。

結果、神年齢が年上な自分が同年代の子供をたぶらかすのはよろしくない。そして、前世では思春期にをしたことがないから、現世ではその時期に誰かを好きになってみたい。

この２つの事実をり合わせて、この世界では、１５歳ぐらいになったらをしてみよう、それよりも前はを止しよう、と心に決めていた。

「へぇ、――、もしかしてロイって、不信？」

「いやいや、流石にそんなことはないよ。ただ、今まで本気でをしてみようと思ったことがないだけで」

「ならよかったわ」

「ぅん？」

「不信なら、私と友達でいることも、苦しくじているのかなって、思ったから」

「そんなことはないよ。アリスは、ここにきてからの初めての友人だしね」

「改めて言われると照れくさいけれど、そういう本來、照れくさくて誤魔化してしまうようなことを言えるのは、ロイの徳かしら」

と、ここで魔構造概論の講師がドアを開けてやってきた。３０代後半ぐらいの男である。噂によると、彼のクラスはアークウィザードらしい。

講師は教壇に立つと、持參した出欠簿を開く。そして出席番號の順で生徒の名前を読んでいくが、途中で、１回だけ止まってしまう。

「シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハートは……今日も休みか」

ふと、ロイはおかしなことに気付く。まだ學してから１週間しか経っていない。そしてアリスと隣同士の席になる講義は多々あったが、この魔構造概論という講義は今日が初回。それなのに、今日『も』休み、というのはどういうことだろうか？

「ねぇ、アリス、シーリーンさんって――」　と、小聲でロイが訊く。

「１學年次と２學年次の時にクラスが一緒だったのだけれど、イジメにあって不登校になったのよ」

（この世界にもイジメはあるんだね……）

「私の力が及ぶ範囲、イジメの現場を目撃した時は彼のことを守ったのだけれど、私がいないところでもイジメられていて……」

「そっか」

「イジメなんて最低よ。他人の気持ちもわからない人たちなんて、本來、この學院には相応しくない。私は、なるべくイジメられている人の味方になりたい。でも――」

「でも？」

「私が守ってあげるから登校しよう、ってったこともあるのだけれど、シーリーンさんにとって、それは重い期待、プレッシャーなのよね」

「――そう、だね。われて登校するようなら、きっと誰も苦労しない」

「なのに私には、私の価値観では、たとえプレッシャーになるとわかっていても、今は止めているけれども、うぐらいしか方法が思い付かないのよ」

アリスの考え方では、登校するようにうぐらいしか、方法が思い付かないという。

だがロイには、々、別の考え方があった。

ロイとアリス。同じように、シーリーンに限らず不登校なんてものは解消してあげたいと願うが、２人は違う生きなのだから、同じ結果を目指していても違う方法を選ぶこともある。

ゆえにロイは、（まだ會ったこともないけど、元不登校児としては、シーリーンさんに登校してほしいけど、その期待がプレッシャーになるのもわかる）（だったらボクは、アリスとは違う方法で――）と、心の中で呟いた。

「あっ、最後に１つ」

「ぅん？」

「シーリーンさんって、ブロンドの長髪のなのよ。ロイなら心配いらないとは思うけど、風紀的に考えて、あまりデレデレしちゃダメよ？」