翌日の６時限目が終わったあと、つまり放課後。

ロイとアリスは、この日もシーリーンに會いに醫務室へ足を運ぶ――、

「そういえば、醫務室なんて、場所は知っていたけど、使ったことはなかったよ」

「イヴちゃんは元気が取り柄ですからね」

――昨日とは違い、妹のイヴと、姉のマリアを連れて。

「初めまして、シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハートです」

シーリーンもイヴもマリアも、同じ寄宿舎で暮らしているが、すれ違ったことはあっても、きちんと対面して自己紹介したのはこれが初めてだった。

昨晩は４人とも宿題があり忙しく、今朝、ロイはイヴとマリアと一緒にシーリーンと登校しようとしたが、そもそも彼は不登校で、醫務室登校でさえ２日目なので、知り合いにバッティングしないように、遅刻を覚悟で遅めの時間に登校していたのだ。これでは一緒に登校など、できるわけがない。

よって、このタイミングで自己紹介することとなった。

「わたしはお兄ちゃんの妹のイヴだよ」

「わたしは２人の姉のマリアですね」

醫務室に集まった４人は、やはり西洋風のテーブルを囲むように、木製の自然の溫かみのある椅子に座った。

「それで、まだ２日目だとは思うけど、シィ、醫務室登校はどうかな？」

「うん、すごくいい。登校しやすいし、勉強もできるし、それに、シィのことをイジメる人とも會わなくてすむから」

シーリーンは控えめに微笑む。控えめだったが、昨日１回見せた自的な作り笑顔と比べると、まるで本當の意味で微笑んでいるようだった。

一歩前進できたような彼のことを、思わず、ロイはなでなでしてしまう。

「ほえ！？」

「あっ、ご、ゴメン！　の子に対して馴れ馴れしすぎたよね！」

「ちょっと、ロイ！　前から思っていたけど、しの子に対して親しすぎよ？　男の関係は、時間をかけて、特に學生のうちは節度を保って構築しないと！」

「う、ううん、いいの、アリスちゃん。驚いただけで、イヤじゃなかったから」

慌ててシーリーンは両手をパタパタ左右に振って否定する。

それを見て、イヴとマリアは面白くなさそうに、拗ねたように頬を小さく膨らませた。

「シーリーンさんって、お兄ちゃんのことをどう思っているの？」

「アリスさんは弟くんを友達だと思っているから安心ですけど、シーリーンさんは……」

「ふ、普通に友達です！　シィは、その……、えっ、と……せ、に関する魔が種族柄、長けていて……、イジメっ子から、その……、將來は娼婦って言われていますけど……、でも！　そう簡単に男の子に惚れたりしません！」

ふいに、その場の雰囲気がぎこちなくなる。暗いというわけでも、重いというわけでもない。が、強いて言うなら、一瞬、みんながシーリーンに対してどう反応していいかわからなくなってしまっていた。

他人との會話における、こういうところ、が、シーリーンの苦手なところなのかもしれない。

「やっぱり私、シーリーンさんのことをイジメるヤツらが許せないわ！　風紀的にはもちろん、そしてそれ以上に人やエルフとしても！」

「ほえ！？」

シーリーンはこういう反応を狙ってああいうことを口にしたのではない。しかしロイからしてみれば、正義の強いアリスがこういう反応をするのは目に見えていた。シーリーンとしては、し自ネタをれただけのつもりだったのだろうが。イジメられっ子の自ネタは、本人の想像以上に周りに気を遣わせてしまうらしい。