「シィは、シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハートは、ロイくんのことが好きです」

「――――」

ロイは聲を出せない。その瞬間のシーリーンが、窓から差し込む月明かりに照らされて、どんな寶石より、どんな妖よりも、おしいほどしかったから。

月のを浴びてきらきらするブロンドも、

つぶらでパッチリしている、二重で黒曜石のような大きな瞳も、

白くて細い手の指も、らかな首筋も、赤らんだ頬も、

まるで、『の子らしさ』という概念の完品と言っても過言ではないほど、の子らしかった。

「あなたの優しいところが好きです。優しいだけじゃなくて、それを貫くカッコよさが好きです。人のために立ち上がって剣を握れる勇気が好きです。勇気があるだけじゃなくて、それを諦めない強さが好きです」

「――――」

「今すぐ、あなたに抱きしめてほしい。頭をなでなでしてほしい。耳元で、告白の返事を囁いてほしい。そして――こんなシィだとしても、キス、してほしいです」

「――――」

「シィは、あなたの全てが大好きです」

「――シィ」

ふと、ロイはシーリーンを抱きしめた。

そしてそのまま、シーリーンをベッドに押し倒すが――、

「……っ」

一瞬、戸ってしまう。

このまま、彼の初めてのの夜を奪っていいのか？

自分はこのまま彼をしていいのか？

これでシーリーンは幸せになるのか？

まだ出會ってししか経っていないのに？

戸いはもちろんある。でも、他にも、張もあるし、不安もあるし、揺もある。

要するに、迷って、迷って、それで前に進めない。

「――ロイくん」

ロイが逡巡していると、彼の頬に、シーリーンの手がれた。

やわらかくて、そして溫かい。まさにの子の手というじ。

「もしイヤなら、無理して、我慢してシィを抱かなくてもいいんだよ？」

「なっ……」

「えへへ……シィは、の子であることを拒絶されることなんて、慣れているから」

優しい聲で、優しい微笑で、シーリーンはロイに逃げ道を用意してあげる。

しかし、それが強がりということはバレバレだった。

（わかるだろ、ロイ？）

ロイは自分自に心の聲で言う。

あのシーリーンが、自分がの子であることに懐疑的で不安を覚えているシーリーンが、男の子である自分に告白して、そして、本心では抱きしめてほしがっている。

きっと、一杯の勇気を振り絞ったのだろう。

彼の肩は小さく震えていて、不安でしだけ泣きそうだ。

イジメが終わっただけで、今の時點のシーリーンの自分に対する価値観が直るわけではない。

そして、きっとこれが、直るための第一歩。

自分はジェレミアを倒して、そして彼を否定したんだ。

そんな自分が、シーリーンの『の子であること』をけれなくてどうする。

あるイジメっ子は、シーリーンのことを、將來の娼婦と言った。

またあるイジメっ子は、シーリーンのに関することをからかった。

また別のイジメっ子は、シーリーンを汚いとバカにした。

（そんなこと、あるわけないじゃないか！）

男の子にしろ、の子にしろ、自分のを否定されるなんて許されないことだ。

自分のをバカにされるなんて、殘酷なことだ。

そして――、

シーリーンが、自分のことを好きだと言ってくれたの子が、ここまで頑張っているのだ。ここで優しく抱きしめてあげないでどうする。

だから――、

ゆえに――、

ついに――、

「ボクも、シィが好きだ。ずっと、ずっと、キミを守りたい」

「～～～～っ」

「シィ、目を瞑って」

「はい、――、――、――んっ」

「――――」

２人のが重なる。

出會ってまだししか経っていない？

そんなこと、知ったことではない。重要なのは、今と、そして本人の気持ちだ。

ロイはシーリーンを守りたかったのである。

ならば、守ったあと、その先の責任も取るべきだろう。

それで、數秒後、お互いにを離すと、シーリーンが「ふはぁ」と息継ぎをした。

「ねぇ、ロイくん？」

「ん？」

「その……えっ、と、初めてのの子は、嫌い？」

「嫌いな男の子なんていないよ」

「――よかった」

シーリーンは安堵すると、ロイの首に腕を回して、彼のを引き寄せる。

「シィのスキル、以前話したよね？」

「うん」

「フーリーに伝わるスキル〈永遠のエーヴィヒカイト・処ユングフラオ〉。それは、神話の時代からなに１つ変わっていないんだよ？」

「と、いうと――」

「ふふ、〈永遠の処〉の効果は３つ。創造主よって完璧なとして作られたと伝えられているフーリーは、汗やツバ、排泄ですらも、一切の穢れがない清らかなモノになっている」

確かに、ロイはシーリーンにキスした時、彼のに付いているツバにれたが、甘かった気がする。そう、ロイはまだ知らないが、の子のもしょせんは人間の。どんなに幻想を抱いていても、味なんて普通、するわけがない。しかし、シーリーンの、そして汗やツバは、この世のモノとは思えないほど、けるぐらい甘い。

「そして、相手の男の子の力強化。１晩で１００人とわれるぐらい、男の子の力を強化、増加するの」

「最後は？」

「最後のこれが、フーリー特有のスキルを永遠の処なんて言わせる所以ゆえん」

「それって――」

「フーリーは、朝日が昇るのと同時に、処が再生するんだよ♡」

そしてシーリーンは――、

ロイの耳元でこう囁く――、

「ロイくん、毎日シィの初めてを奪ってね？」

この日の夜。

初めてシーリーンは、自分がの子であることを心の底から大切にできて、自分の種族のことも、心の中で折り合いが付けられた。

ロイとシーリーン。２人でめたお互いの。

その景を月と星だけが見守っていた。