學院が休みの土曜日――、

（しまった……っ、やらかした！　これは想像以上にメンドくさい！）

ロイの自室にて、彼のメイドであるクリスティーナ・ブラウニー・ハローハウスロウはティーカップに紅茶を淹れる。そしてそれを、ロイがなにやらいろいろノートに書いている機の上に置いた。

優雅な紅茶の香りが部屋に広がる。

ブラウニーという種族の特徴ゆえに、１４０ｃｍ以下の小柄な型。それなのにクリスティーナのはＦカップということで、メイド服の生地を側から存在を主張するように押し上げていた。

いわゆる、クリスティーナはロリ巨メイドだ。

そんな彼と、今、ロイは自分の部屋で２人きり。

だというのにロイは、クリスティーナを相手にドキドキすることなく、必死に頭を悩ませながら機に向かっていた。

「ご、ご主人様？　あまりを詰めない方がよろしいかと……」

「ん？　うん、そうかもしれないね……」

普段は明るく、節度をもってフレンドリーなクリスティーナが、心配そうな聲音でロイに言う。翻ってロイは一度機から顔を上げて、クリスティーナに微笑んだ。

実は――、

ロイはジェレミアとの決闘で、１つ、致命的なミスを犯した。無論、決闘の勝敗は覆らないし、シーリーンがまたイジメられるということはありえないが、しかし、そのミスのせいで、ロイはこうして『とある概論』をノートに書くハメになった。

それは――、

即ち――、

（やらかしたああああああああああああああああああ！　前世で読書とネットサーフィンが趣味だったボクは知っている！　ボクの前世で『メタ認知』という心理學の概念は、１９７０年代に広まったんだ！　ボクはメタ認知を利用してジェレミアに勝ったけれど、この世界のこの時代の心理學では、メタ認知なんて概念、広まるどころか生まれてすらいないんだ！）

この世界にも心理學という學問は當然存在する。しかし、この世界の心理學は、よほどゆるゆるに高を括っても１８００年代以前のレベルだ。ロイの心の絶の言うように、メタ認知という概念は生まれていない。つまるところ、この世界におけるメタ認知という概念の発見者はロイということになってしまうのだ。たとえロイがゴスペルホルダーでもなく、聖剣使いでもなかったとしても、これだけで心理學限定だが、教科書に名前が載ってしまう。

（ハァ……、いや、それは決闘の前の段階でわかっていたことだけど、まさか『こんな』をお願いされるなんて……）

しかし、それを利用する以外にジェレミアを倒す方法がなかったので、仕方がないと言えば仕方がない。

そして、自分たちの決闘には多くの観客がいて、その注目の中で、わざわざジェレミアを倒せた理由を説明してしまったのだから、メタ認知が大勢の人に知られてしまったのもやむをえない。

で、観客の中に學者、特に心理學者がいたのも偶然だろう。

最終的に、メタ認知というモノについてしでいいから説明を頼む！　と、お願いされるのも、必然だろう。

つまるところ、ロイが今書いているのは心理學における『メタ認知の概論』だった。

仕方がないことの上にやむをえないことが重なって、さらに偶然が重なり、必然的にこうなった、というのがこの現狀。

「それにしてご主人様は博識でございますね♪　メイドとしても、クリスティーナ個人としても、ご主人様のお傍にお仕えできたことを栄に思いますっ！」

たわわに、健やかに発育したの前で、小さくぐっ、と手を握るクリスティーナ。

顔で、子供っぽいいじの仕草なのに、全てがメイド服をに著けた巨のせいで危ないじになっていた。

しかし、ロイは顔を熱くしつつも、努めて見ないように、クリスティーナのから視線を逸らす。

「あはは、ありがと。でも、そんなにお世辭を言わなくてもいいよ？」

「ふふ、お世辭なんかじゃございませんよ？　それに、メイドとしても、クリスティーナ個人としても、誇らしく思うことと、好ましく思うことは、別でございますから」

「ん？　どういうこと？」

「ご主人様がゴスペルホルダーであること、聖剣使いであること、そして心理學にも通していて博識であること。これらは全部、わたくしにとって誇らしいことでございます」

「そうかな？　よかったよ、クリスに相応しいご主人様になれていて」

「そしてそれ以上に、わたくしはご主人様のことを人として好ましく思っております」

「人として？」

「はいっ、だってイジメられているの子を救う。言葉にするのは簡単で、世の中にありふれている言葉だといたしましても、それを有言実行するのはすごく人として立派なことでございます！　學院の教師だって、イジメ問題を解決するのは難しいと言われていますのに」

「て、照れるなぁ……」

だまりに咲くタンポポのように優しい笑顔を浮かべるクリスティーナ。

一方でロイは、例え人のシーリーンがいるとしても、異に褒められるのはこそばゆかったので、人差し指で頬を掻いてしまう。

「実はわたくしもご主人様の決闘を観客席で応援しておりました。ボロボロになりながらもシーリーン様のために戦う姿、カッコよかったです！」

「カッコ悪いところを見せちゃったね」

「むっ、カッコよかったです！　って、今申したばかりではございませんか」

クリスティーナはしだけ間を置く。

そしてロイと視線を合わせてこう言った。