「聞こえたか？」

「一応、かまわない、けれど――」

「へぇ？　かまわないのか、意外だな」

「個人的には渉をしておきたいわね」

「多勢に無勢じゃ勝ち目ないから、か？」

「えぇ、そのとおりよ」

リーダー格のダークエルフが素直に心して口笛を吹く。

「予想以上に冷靜な判斷ができるようで驚いているが、殘念だったな。こっちがなにかを対価にして目當てのを買うぐらいなら、楽しい拷問をして全てを奪う方が、ない報の損失で済む」

「見取り図なんて所詮は紙よ？　魔を使えば一瞬で燃やせるし、私たちだって、完全にその容を記憶しているわけじゃない。【想い出のゲデヒトニス蓄音レコーダー】で記憶を覗こうとしても限界がある」

「――へぇ？」

「どう？」

すでにこの時、アリスも、ダークエルフの男も、互いに互いに対してウソを見破る魔をキャストし合っていた。

つまり、ここから先は相手にウソを吐かずに、それを前提に相手を導する取引しかできないということだった。

「予習は完璧、ってことか？」

「あいにく、準備萬端の狀態に至っていないと、私にできることなんて、たかが知れているわ」

「ＯＫ、わかった。取引といこう」

「謝するわ。それで、確認だけれども、改めてそちらの目的は？」

「とりあえずこっちは伯爵家の見取り図がほしいだけだ。そっちは？」

「こっちなんて、普通に生還することだけが目的よ。焼パーティーする予定もっているし」

ここから生還するためならなんでもする。

実際にそんなことはありえないが、なくともそういうじで、アリスは吐き捨てるように質問に答える。

「なら、さっきも言っただろう？　見取り図さえ渡してくれれば、気持ち悪いことは……」

「――それって、私たちを犯してから殺すか、犯さないで即行で殺すかの違いでしょう？」

「ほぉ？」

「ウソはよくないけれど、大切なことを黙っておくのもよくないわ」

「の子が、やけにバッサリ犯すとか犯さないとか言うじゃねぇか……」

「そうね、なら、こういうのはどうかしら？」

「言ってみろ」

「あなたたちのような輩がいることは理解した。けれど、そんなことは最初から想定済みだし、そしてその類の輩があなたたちだけではない、ということも當然理解している。その上で、あなたたちの所屬については質問なんてしない」

「だから自分たちを生きて帰せ、と？　存在を知りつつも、詳細は知らないままにしておくから？」

「肯定よ」

「なら、見取り図はどうやってこっちにくれる？　それはお前たちの生命線だ。それがないとお前たちは生きて帰れないし。かといって、お前たちに生還されたら、俺たちも結局、暴力的な方法でそれを奪うしかない」

「簡単よ、人目に付く場所まで行きましょう？　そこで私たちがゴネたら周りから注目されるけれど、実はそれで困るのって、あなたたちだけだと思う？」

「導が上手いじゃねぇか」

「なら、決定ということでいいかしら？」

「あぁ、派手な戦闘をしたかったヤツもこっちにはいるが、まぁ、いい。渉はお前たちの勝ちだ。に目を眩ませない。譲れない勝利と譲れる勝利の線引きを弁えておく。社會の基本だ」

「なら、シィ、索敵魔をキャストして。安全圏に行くまでに不意打ちされると困るから」

「う、うん！」

結果、シーリーンとアリスは１２人もの襲撃者と一緒に市街地まで行くことに。

不思議なことに、シーリーンとアリスは背後から攻撃されないために、男たちの方は逃亡を許さないために、なぜか並んで夜でも賑わっている市街地に行くことになってしまったが……。

「リーダー、いいんですか、本當に？　こんなメスガキ２人に丸め込まれて……ッッ！」

「バカか、お前は？　察するにお前なんかより、よっぽどこの２人の方が場數を踏んでいるぞ？　それに、だ。もう魔をキャストするには、充分な時間が経ちすぎている」

「は？」

「私たちのどちらかの心音が停止したら、自的に屋敷の見取り図が燃えるかもしれない、って、リーダーのダークエルフさんは言っているのよ」

「チッ」

舌打ちする人狼の男。

で、數分後――、

「はい、これ。中に魔なんて仕掛けていないから、安心して頂戴？」

「あぁ、確かにけ取った」

「そして、ここまで來てしまえば――」

「――あぁ、戦闘なんてできるわけがない」

市街地にて、シーリーンとアリスは謎の男たちと対面しながら、見取り図を封筒ごと渡して取引を終わらせる。

「ウソは吐いていないようだが、お前の目の前で開封させてもらうぞ？」

「當然の措置ね。どうぞご自由に」

封筒を開けるリーダーの男。

「ところで、あなたたちには私たちのこと、どのようなの子だ、って伝わっていたのかしら？」

「なくとも俺は、貴族に雇われた貴族殺し、って聞いている」

「そう、教えてくれてありがとう」

「――確認した。これで解散だ」

「なら、またどこかで會うことがあるなら、その時もいい取引をしたいものね」

「俺たちは暴力擔當だから、取引はまた別の連中になるが、個人的にはお前とは今後もよろしくやりたいな。男だろうとだろうと、理知的に會話できるってだけで重寶に値する」

シーリーンとアリスに背を向けて去る男たち。

そして彼らが曲がり角に消えたことを確認すると――、

「それじゃあ、シェリー、作戦を続けましょうか？」

「そうだね、予定よりし早く終われたし」

男たちとは逆方向に歩き始めるシーリーンとアリス。

そして十字路を曲がると――、

「きゃああああああああああ！　人が！　人がアアアアアアアアアア！」

「誰か！　警邏兵を呼んでやれエエエエエエエエエエ！」

――先ほどまで取引をしていた座標、恐らくさらにそこから進んだ座標から聞こえてくる発音。次いで、の悲鳴と、男の怒號のような助けを求める絶。

日の出にはまだ１０時間前後あるのに、夜空を赤らめさせる炎の。

「えぇ、取引は、またどこかで會うことがあるなら、ね」

「アーニャ……、作戦を聞いた時にも思ったけど、準備萬端すぎ……。封筒のボタンを意図的に鉄製にして、それが炎の魔のアーティファクトになっているなんて……。初見じゃ絶対に見破れないよ……」

「ウソは吐いていないわよ？　ボタンは封筒の中、部には仕掛けていないもの」

「シェリーたちの前で偽のカップルを演じて、でも當然、罪悪に苦しんでいた去年のアーニャはどこに行っちゃったの……？」

「仕方がないわ、これ、戦爭だもの。私たちが意図的に報を、自分たちでも殺せる相手を厳選してリークした。なんて気付けていれば、あのダークエルフたちも、もしかしたら死なずにすんだのに」

「早く戦爭が終わるといいんだけどね……。でも、まずはこれでシュタイルハング侯爵家の非公式所屬魔師は倒せたね」

「えぇ、となると、あとはお姉様と先輩のターンね」

と、その時だった。

アリスが前方不注意でもしていたような通行人、小さなの子にぶつかったのは。

「あっ、う、ぅ、す、すみません……」

「いえ、こちらこそしボーっとしていたから」

それだけのやり取りを済ませると、シーリーンもアリスも、先に進み始めた。

一方で、アリスにぶつかったのポケットの中には――、