《NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?》第156話 sideB それぞれの旅立ち
─ソラスタを出港した船の上
再び會ったと言うのに、サイカは申し訳無さそうな顔で仕切りに頭を下げている。
「ごめんなさい皆さん。ウチの子が大変なご迷を掛けていたみたいで。」
それにけ答えするハックとカルガモットもしどろもどろだ。
「いやぁ…まさか、リトル年がサイカ殿のご子息だったとは……」
「むしろ、蔑ろにしてしまってすまない。もっと丁寧に扱うべきだった」
思い返してみると顔付きや髪のなど、サイカを思わせる似た所があった。
「ケン坊の寫真…廚房の壁にも飾ってあるんですけど、見た事有りませんか?」
「「「え?うーん……」」」
マリーナにそう言われて、ハック達は思い返してみるも、いまいちピンと來なかった。
「……あ!もしかして、頭をてんちょーに抱えられてグリグリされてる奴!」
タリエルが気付いた。だが…
「ん?アレってユーシャじゃないのか?」
「ふぅむ?私もあの寫真は勇者殿の認識だったぞ?」
「あちゃ〜そういう事かぁ!」
タリエル、ハック、アンジェラも寫真に寫っているのが、『勇者○○』とミンギンジャン親子だと思っていた。
その寫真は、ミンギンシャンがニタニタと笑いながら、男?の頭を小脇に抱え込んでグリグリとやっている寫真で、隣にはそれを見て笑うマリーナの姿が寫っている。
「アレ、寫真取ってるのがサイカさんなんですよ!ケン坊が冒険者になるって旅立つ頃だから……確か1年?ぐらい前でしたよね?」
「1年?半年前じゃ無かった?そんなになるかしら?いやぁねぇ年取ると息子が旅立った日も忘れてしまうなんて。」
なんだかマリーナとサイカまであやふやだ。それを聞いてタリエルとハックも首を傾げる。
「おかしいな……1年程前なら、我々もファステの街に移り住んでいるから覚えて居てもいい筈なのだがな。」
「うーん……そういえば何回か男の子の聲でお弁當が運ばれた時があった様な……でも、開店當初の時期は忙しくていつもカウンターにお弁當置いてってもらって代金は後払いだったし……ねぇ?カモ領主は覚えて無いの?」
話を振られたカルガモットは、顔を赤くして咳払いをする。
「う……ゴホン!ミ、ミンギンジャン殿の店にはゴロツキの類いが多く居たので……大魔道飯店ではあまり食事を取った事が無かった。忍者のサイカ氏の存在すらも分からなかった。すまん」
「あ……そっかアンタ、パトロールする度にアイツらとケンカしてたからねぇ」
アハハと皆が笑い聲を上げたが、ハックが肝心な事を切り出した。
「なぁ、所でその…リトル君?いや、ケンジ君?か?折角の親子再開だと言うのになぜ走り去ったのだ??」
ハック達の待ち人がマリーナとサイカだったと言う事がわかった途端に、リトルは全速力で走り去ったのだ。なのでマリーナともサイカとも一言も話をしていない。
「あぁ、えーっとですねぇ。それは多分パパのせいですね」
「「「ミンギンジャン??」」」
マリーナが説明を始めた。
「ケン坊が冒険者になるって言った時に、パパが『どうせカーチャンがしくてすぐ泣きついて來る』ってからかったんですよ。そしたらケン坊、1人前になるまで絶対に帰らないって……」
「「「あ、あーぁ。なるほど」」」
「皆さん、ウチのケンちゃんを助けてくれて、ありがとうございました」
「あ!私からも!大事な『弟』がお世話になりました!」ニコッ
改めてマリーナをよく見るハック。のあちこちには傷の癒えた痕があり、一般人だった生活からかけ離れたこの1ヶ月は、中々に厳しい修行生活を送っていたのだなと深く関心する。
すると、その視線に気付いたのかマリーナがハックに近付いて小さな聲で話しかけてくる。
「ハック先生、後で、たっっくさん味しい料理作って上げますからねっ!」テレッ
「……え?う、うむ」
笑顔で料理を作ると言われただけなのだが、何故かハックは照れくさくじた。
「おおーい!この先は岬の向こう側だ!!一気に波が高くなるかもしれねーから気を付けろよ!」
「「「はーい!!」」」
漁師に言われて海を見渡す。既に海沿いの街ソラスタは遠く、短期間しか滯在しなかったがその景に、ハック達は懐かしさをじていた。
その時……
「………おーい」
「ん?何か聞こえなかったか?」
船の上だと言うのに、誰かに呼び止められた気がした。
「お!!あっちだ!!小僧がいる!!」
それを見つけたアンジェラは嬉嬉として、崩れた岬の先端を指差す。
そこには大勢の人魚達と、その中心にリトル勇者…もとい、『ケンジ・シクノノビィ』の姿があった。
「リトルく〜ん!…じゃ無かった、ケンジ君??って呼べば良い?」
「年は年さ。自分でちゃんと名乗らなかったのが悪い。リトルと呼ぼう。」
「ちょっと待って下さい!あれ!周りに居るのって…人魚ですか!?」
マリーナは人魚を初めて見たらしく、大勢の人魚に目をクリクリさせていた。
「マリーナ嬢、君の弟は立派に育った。人魚を引き連れて漁師と戦い、ソラスタの街を救った勇者になったのだよ」
「ええっ!?あの面倒くさがりなケン坊が!?」
「あらあら、見ないうちに大人になったのね」
ハックに教えられて、マリーナとサイカは息子であり弟のケンジが長しているのを知って、嬉しくなった。
「おーい!!騎士の兄ちゃん!魔師のあんちゃん!ごっつい姉ちゃんとちっちゃい姉ちゃん!ありがとなぁ!!」
「誰がごっついだ!戦士だったらこれぐらい普通だぁ!!」フンスッ
リトルにゴツイと言われて、鼻息荒くするアンジェラ。それを見てみんなで笑った。
「かーちゃんにマリ姉!オレ、ちゃんと冒険者登録してくるよ!!1人前になってパーティ組んだら、ファステに戻るからなぁ!!」
「それはいいけどケンちゃん!アナタ一その周りのの娘達はどうしたの?」
「うぐぅ!?」
母親に責められて何と理由を話したものか、言葉に詰まってしまうケンジ。人魚達はキャッキャウフフと笑っていた。
「あんまり大勢のの子泣かせるような『遊び』は母さん心しませんからねぇ!ちゃんと皆さんの責任取ってあげるのよ!」
「「「あーあ」」」
「げぇっ!違うんだってかーちゃん!!や、やめろオマエら!!」
母親に公認されたと思った人魚達は、あの手この手を使ってケンジをもみくちゃにする。
ピンクの阿鼻喚となった岬の先端を、複雑な気持ちで見送る。
「もう…隨分と一丁前な事を言うようになったのね。シゲアキさん見てる?貴方の息子は冒険者としての道を選びましたよ?」
サイカが手提げ袋から夫、シゲアキの影を取り出しケンジの方に向かせる。
ケンジ・シクノノビィは、の頃から『料理人』として育つのを嫌がった。ミンギンジャンや母であるサイカから料理の手解きをけるも、いつもサボったり逃げ出したり、まともに料理を學んだ事は無かった。
それは、ケンジは自分の父親が冒険者から料理人になろうとして命を落とした事を知っていたからだ。自分も料理人を目指せば、母を悲しませると思ったからだ。
なのでケンジは、15歳になるまで待った。冒険者として認められる年齢に達するまで、ひたすら待った。そして、冒険者を目指すと家を飛び出したのだ。
サイカが目をやると、海側のコウロン山の切り立った崖に、キラっとる何かが見えた。どうやら、ヒガンの里の長老とスイエンが見送りに來ているようだ。あまりにも離れ過ぎているので、何と口をかしているかは分からなかったが、長老は優しく手を振っていた。
「まったく……は爭えませんね。ね?シゲアキさん」
ツゥ……
一雫の涙がサイカの頬を流れ落ちる。その涙は風に吹かれ、セントレーヌの沈んだ海へと落ちていった。
───── ─
── ─ ─
───
──
─
…辛うじてが屆くぐらいの海の中。地上の騒音もそこには響かない。
上を見上げれば、水面の輝きがキラキラと波を打って煌めき、しく反映している。
そこを、ひとつの『モヤ』が水中を通った。
そのモヤはひとつにまとまり、ユラユラと蠢く紫のになった。
ふと、そのに敵意をじて近付く影がある。水モンスターの『あばれシーホース』だ。一口で丸呑みしようとモンスターはそのに攻撃を繰り出そうとする。
…が。
に黃い突起が出來たかと思うと、突然電撃が走りあばれシーホースは一瞬で気を失う。
そして、その紫のは何十倍にも膨れ上がり、逆に一口でモンスターを捕食した。
バキバキと音を立てて骨まで押し潰して飲み込むと、紫のは青に変わり、からを持った生命へと変貌を遂げた。
深い海よりも青いな、パチパチと小さい稲妻を放つ黃い角、そして特徴的な……『三つの目玉』
深海の覇者、『ディープ・ブルー』は、再び蘇った。
散り散りになった脳細胞。カルガモットの槍によって貫かれた脳は完全に生命活を停止した。そして、はスクロールランチャーの発によって四散した。
地上に散らばったは漁師達によって回収され、火に焼かれてしまったが為にそこからの『再生』は出來なかった。
だが、海に散らばった破片。
それらの意思ある破片がひとつに纏まり、生命の形を象った。
深海の覇者は再び世に降りた。
ディープ・ブルーは考える。『この先、何を捕食してやろうか』と。
神の見えざる意思により、ディープ・ブルーは沈むセントレーヌに縛りつけられていた。だが今は、そのセントレーヌ號もバラバラに引きちぎられた。
最早ディープ・ブルーを縛るは、何も無かったのだ。
その時、水面を大きな影が通る。
大型モンスターの泳ぐ姿だろうか。それとも人間の作った船だろうか。
『どうでもいい』
ディープ・ブルーはそう思い、水面へと浮上しようとする。
「おやおやぁ?コイツはい〜い匂いがするねぇ〜」
ディープ・ブルーは、酷く驚いた。そして、産まれて初めて…
自分よりも深い海に居る何者かを、訝しんだ。
「自己再生……それも、かなりの高能化されたスキルだね??良い回復の匂いがするよ」
真っ暗な深海の底より、シワシワに枯れた腕が1本びてくる。その腕は、ディープ・ブルーの手を1本摑んだ。
!?!?ギュオオオォォ!!
今までじた事の無い激しい痛み。まるでの側から何かに侵食されているかの様な覚。
激しく藻掻くディープ・ブルー。そこに、また1本また1本と枯れた手がびる。
「うふふふふ。こんな上等なスキル、一介のモンスターである貴様になぞ必要無い。芯まで喰らい盡くしてやろうぞ」
聲の主は暗闇から浮上してくる。真っ赤にったふたつの目だけがハッキリと見えている。
ディープ・ブルーは黃い角から電撃を放って撃退しようと試みるも、何をやってもその腕には効かなかった。
そうこうしているに、また1本また1本と腕は増え続ける。摑まれる度に、激痛が走りの養分を吸い取られる。
「未來永劫、私の腹の中で溶かしてやろう。永遠の地獄だと思えば良い。なーに、墮ちたら墮ちたで意外と慣れるものさね」
聲の主…魔人ナユルメツは、ゆっくりと口を空けてディープ・ブルーを押し込もうとする。
ハックを助けるためにを呈して庇ったナユルメツは、海底でこの時を待っていたのだ。必ずやハック達がこのモンスターを打ち倒してくれる事を先読みして。
一方ディープ・ブルーは産まれて初めて會う捕食者から戸いながら逃げようとするも、全に激痛が走ってしまいきが取れない。
「さぁ……その自己再生で限りある生命を永遠に繰り返し、私の養分となって死を繰り返すのだ」
最後の力を振り絞って電撃を放とうとするも、既に遅かった。一際大きな腕が現れ、ディープ・ブルーの頭部を鷲摑みにする。
「眠れ、私と共に。なくとも……ブレイブハートがこの地に戻るまでの間はね」
無限に広がる海に響く、不協和音の様な高笑い。藻掻くディープ・ブルーを無理やり羽い締めにして、悪魔のような表の魔人ナユルメツは深淵へと墮ちて行った。
第156話 END
貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】
マート、貓《キャット》という異名を持つ彼は剣の腕はたいしたことがないものの、貓のような目と、身軽な體軀という冒険者として恵まれた特徴を持っていた。 それを生かして、冒険者として楽しく暮らしていた彼は、冒険者ギルドで入手したステータスカードで前世の記憶とそれに伴う驚愕の事実を知る。 これは人間ではない能力を得た男が様々な騒動に巻き込まれていく話。 2021年8月3日 一迅社さんより刊行されました。 お買い上げいただいた皆様、ありがとうございます。 最寄りの書店で見つからなかった方はアマゾンなど複數のサイトでも販売されておりますので、お手數ですがよろしくお願いします。 貓と呼ばれた男で検索していただければ出てくるかと思います。 書評家になろうチャンネル occchi様が本作の書評動畫を作ってくださっています。 https://youtube.com/watch?v=Nm8RsR2DsBE ありがとうございます。 わー照れちゃいますね。
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