《NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?》第164話 #8『初級忍者最終試練』(サイカ、マリーナsub)

「そ、それでは毒味を始める」

スイエンが、ゆっくりとカレーを口に運んだ。目をつぶりながら咀嚼し、スプーンを置く。今度はフォークに持ち替えて、カツの一切れを口にれた。

すると、スイエンはみるみるうちに汗をかき始めた。額やこめかみの辺りからツゥっと汗が流れ落ちる。

の辺りを抑えて、苦しがる。ただ、毒気があったという反応では無い。

毒味役として、一気にかき込むのを必死に抑えていたのだ。汗をかいて抵抗するぐらい、サイカのカレーは味だった。そしてその仕草を、サイカはニタニタ笑って見ていた。

「スイエン?苦しそうだけど大丈夫??」ケラケラ

「うぅっ……ぐっ!ふぅふぅ……ど、毒気は完全に取り除かれている。安全だ」

スイエンが言い終わるや否や、審査員達は猛烈な勢いでサイカのカツカレーを食べ始めた。皆、味いとも発する事無く矢継ぎ早に次の一口、また一口と無言で食べ進める。

ただ、顔を真っ赤にして無言でカツカレーを食べる様は、しばかり異様だった。

満足するまで食べ終わると、やっと手に持ったスプーンを機に置いた。皆、肩で息を付いている。

一杯水を飲み干したスイエンが、1人立ち上がって評価を述べる。

「最終的な判斷は雙方の料理を食べた後に協議した後に回答する。では、まず上忍サイカの作ったカレーに付いてだが……」

他の審査員達と目を合わせてから、さらにスイエンは語り出した。

「見事、としか言いようが無い。この料理を食べる事を抗えるのは、この大陸をもってしてもそう居ないだろう。事実、里に殘る上忍達ですらも抗う事は出來なかった。まさに、魅力……いや、引力とも呼べる仕上がりだ。たとえどんな者でも引き付ける料理となっている。まさに理想の『暗殺料理』だ」

そう、忘れてはならないのは、今回の初級忍者最終試練の課題は『暗殺料理』対決である。

ただ単に、味しい料理を作れば良いという訳では無いのだ。課題の意味を汲み取らなければならない。

「うっふっふ、『母は強し』ってね」

審査員達のベタ褒めに、サイカは小さくVサインを作った。そしてサイカは、自分で持ってきた鍋を持ち、一歩引いて橫に避ける。挑戦者に審査の場を譲ったのだ。

「続いて、試練を乗り越えようとする者よ。準備を」

「はい」

短く、しかし強く返事をすると、マリーナは支度を始める。だが、マリーナの料理は溫めたりすること無く、そのまま淺い鍋が出されたのだ。

「ほぅ、そのままの溫度でいいのだな?」

「はい。冷めたままで結構です」

「なら、今聞くとしよう。挑戦者」

料理をけ取る前に、スイエンがマリーナに質問をした。

「今回の暗殺料理と言う対決方法。そなたはどのように理解したのか?」

「はい。私は……。」チラッ

マリーナは一瞬だけサイカの方を見る。

「指定された食材が全て猛毒だった事。まずはここから考えました。」

「なるほど。続けて」

「そして……サイカ師匠からは、『必ず殺せ』と念を押されました。なので、私は當初勘違いをしてしまいました」

「ほう……」

サイカも長老も、表は変わっていないが何故か嬉しそうに見えた。

「一般的に広く知れ渡っている毒の食材は、毒抜きをすれば食べられるというのが料理人の常識です。でも、それと別に常識として知れ渡っている事があります」

「……それはなんだ?」

「はい。猛毒の食材は毒抜きが出來ず食べられない、と言う事です」

「そうか。ではどうしたのだ?」

「………生態系の中から、ヒントを得ました。猛毒と呼ばれる食材も、一般常識では考えられない方法でなら毒抜きをする事が可能だと見つけました」

「ふむ」

マリーナのその話を聞いて、長老は髭をりだした。サイカは、何気なく違う方向を向いている。

「では、課題の食材をどのように『処置』したのか確認しよう」

マリーナは、1度機に鍋を置いて、使っていた杖を機に立て掛ける。フラフラになりながらもスイエンの前に立って、しっかりとけ答えをした。

「はい、まずはフラーウッドヤムイモです。これは、ツタや花を取らずにイモごとアルコールに付けると、毒素が花弁に集中する事を見つけました」

審査員達から、小さいながらも驚きの聲が聞こえた。

「その手法……たった數日山に籠っただけでそれを習得したのか?」

「それに気付けなかったら、料理は完しませんでしたし、そもそもこの試練の意味すら理解出來ませんでした。」

更に、審査員達からどよめきが聞こえる。

「ふむ、では、その様子を見るに他の食材の毒抜き方法も見つけたのだな。よろしい。」

スイエンはそのまま審査員席に戻ると、靜かにマリーナは配食の準備を始めた。明らかに、その橫顔は試練の始まる前とでは別人の様に変わっている。

特に、目付きが鋭くなっていた。の傷も彼が並大抵の苦労だけでここに立っている訳では無いと語っている。

「準備が整ったならば、こちらに申し出よ。」

「………はい。」

1つの皿を、まずは毒味役のスイエンの前に運ぶマリーナ。決意に満ちたその表は、自分の信念を表していた。

「私には…3人の師が居ます。その人達を思って、この料理を作りました。」

「その3人とは?」

「1人目は私に生きる事の本を教えてくれた父、2人目は優しく育ててくれた母、そして……最後の3人目は、冒険者を目指す私に魔法を教えてくれた先生です。その3人の教えを、この一品に全て掛けました。」

サイカはそれを聞いて目をつぶっている。目を合わせていたら恥ずかしくて、笑ってしまうからだろう。無理にキツい厳しい表を作っているのがありありと分かってしまう。

「……うむ。では挑戦者よ、猛毒の食材を使って何を作ったのだ?」

マリーナが、一呼吸著いてからスイエンの機に料理を出す。

「私が作った暗殺料理は………『ミートアンドポテト』(じゃが)、です!」

「「「おぉぉぉ!!」」」

輝きを放つそのひと皿の登場に、審査員達が思わず聲を上げてしまった。

第164話 END

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