《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.30 ロストプリンセス

例の過呼吸の翌日。僕は昨日の電話の主と會うことになっていた。

「こんな平日の晝に呼び出すような形になってごめんなさい」

「いつでも暇だからいいんだけど。それよりもあなたが昨日の電話の人ですか?」

「はい。昨日は名前も名乗らずにすいませんでした」

僕の目の前に現れたのはいかにもなスーツを著ていて、長い髪を後ろで結んでいるだった。

「私はマセレナードオンラインの開発に攜わっている平野真弓と言います」

丁寧に頭を下げて名刺を渡してくる平野という。名刺には彼の名前と、ちゃんと開発會社の名前がっていた。しかも役職はディレクター。制作のほとんどに関わった人と言っても過言ではない。

「マセレナードオンラインの開発會社の人がどうして、わざわざ電話までしてきて僕に會いに? しかもディレクターの方だなんて」

「ディレクターと言ってもまだ駆け出しの方ですよ。それよりもあなたにはどうしても話したい事がありまして」

「話したい事?」

「あなたが先日見た資料の事、そして最も気にしている事であろう歌姫の事についてです」

平野さんの最初は明るめだった聲がしだけ低くなったのをじる。どうしてその事をと言おうとしたが、運営だからここまで知っていても當たり前だと思い、その言葉は飲み込んだ。

「先日見た資料って、あのβ版で起きたという事故の事ですよね。別に僕はそれに関しては気にしていなかったので、話すような事は何もないかと」

「あの資料は本來ならば門外不出のなんです。それが何故あの場所にあったのか、分かりますか?」

「もしかして誰かが盜み出した、とかですか」

「その可能が高いと考えていいでしょう。しかしそれよりも問題なのが、その門外不出の資料をあなたが知ってしまったという事です」

「あ」

そこまで言われて僕はようやく気がつく。もしかして彼が會いにきた理由って本當は……。

「本來なら一般人に知られた場合は、知ってしまったものを監するなり記憶作するなりするのですが、あなたはその一般人の枠を超えてしまっています。その理由も分かりますよね?」

サラッと恐ろしい言葉を聞いたような気もするけど、それ以上に気になるのが、

(僕が一般人の枠を超えている?)

平野さんは何を言いたいのだろうか?

「分かりませんか? あなたが初めて會った人が、どのような存在なのかを。そしてそれについて、あなたは本人から教えてもらっているじゃないですか」

「もしかしてリアラさんの事ですか?」

「そう、あなたが出會ったリアラという歌姫は本來は接できないはずの者なんです」

「接……できない?」

僕は今まで得たリアラさんの報を一度整理する。確かリアラさんは自分はゲームのキャラでしかないって言っていて、歌姫の役目を終えれば消えてしまうと言っていた。

そして平野さんは本來なら彼と接できないと言っていた。

そこから導かれる答えは……。

(……え?)

そんなまさか。

「気づかれましたか?」

「いや、でも」

ある結論にたどり著く前に、僕は一個前の謎の人からの電話を思い出す。

『私の推測では恐らく彼は歌姫ではないでしょう。元々の能力が異常に高いプレイヤーだと思われます』

信じていいか分からないけど、その可能だってある。

は本當はこのゲームにもう存在しないキャラクターだなんて、そんな結論が出るわけがない。

「平野さんが何を言いたいのかは分かりました。しかし僕は僕が思った事を信じます。リアラさんはゲームのキャラクターでもなく、歌姫という役割でもなく、現実の世界でも普通に生きているの子だって」

そうだ、僕は何を迷う必要があったんだ。最近々知りすぎて、迷ってばかりいたけど、信じている道はただ一つじゃないか。

リアラさんは絶対にゲームのキャラクターなんかじゃない。

それが僕が貫き通す意志だ。

「あくまでそう考えるんですね。そう思うなら私も止めません。しかしこれだけは覚えておいてくだし。もうあなたはただの一プレイヤーの域を超え始めてしまっている事を」

そう言うと平野さんは立ち上がった。そして機に千円札を二枚と何かの箱を置き、

「これは昨日の今日でいきなりお會いしてくれたお禮です。もう會う事はないとは思いますが、今後も気をつけてくようにとだけ忠告させていただきます。それでは」

僕を殘して喫茶店を出て行ってしまった。

(一プレイヤーの域を越えている、か)

まだゲームを始めて一ヶ月も経っていないのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。

「そういえば箱を置いて行ったけど」

中には何がっているんだろう。

■□■□■□

例の人と別れ、喫茶店を出た私は電話がかかってきている事に気がつき、電話に出た。

「あ、もしもし平野です。例の方とたった今お會いしてきました。ええ、はい。やはり知られてしまっていたようです。それに例の件についても、どうやら認めるつもりはないようです。なので一つだけ置き土産をしてきましたが、果たしてどういう反応をするのかしだけ気になります」

ディレクターの私が本來ここまでする事は例外中の例外なのだが、件が件なのでこうして直接話をしてみたかった。

本來存在してはならない歌姫と、それを引き寄せた一人の年。

この先にどんな旋律が奏でられるか、しだけ楽しみになった。

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