《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.34 彼は不意に笑う
復帰初日の練習は、病み上がりな事もあり上手くいかない事が多かった。特に頑張らなきゃいけない自分が、ずっとリアラさんの事が気になってしまい練習に力がらない。
「カオル君、やはりまだ調が治ってないんじゃないんですか?」
休憩の合間、そんな様子の僕を見かねてリアラさんが聲をかけてくてくれる。
「あ、いや、そうじゃなくて」
「もしかしてカオル、リアラの事が気になってるんやな」
「ちょっ、ナナミ。僕は別にそういう訳じゃなくて」
まるで全てをお見通しかのごとく、ナナミに言われて僕は思わず揺してしまう。あんな事があった後なのだから、気になってしまうのは男としても當然なのだろうけど、それを面と向かって言われてしまうと恥ずかしくなってしまう。
「な、何を言っているんですかナナミさん」
「何でそこでリアラが照れるんや。ちょっとあからさますぎちゃうんか?」
「わ、私は決してそんな事」
「二人がイチャイチャするのは構わんが、練習との區別はしっかりせんと」
「わ、分かっていますよ」
ナナミの場合からかっているのか本気で言っているのか分からないけど、彼の言う通りなのは確かだった、區別するところはしっかりしないと、特に僕は休んだ分だけ練習をこなさないといけない。
(明日の事は明日考えるとして、集中しないと)
でも結局、この日はこの微妙な空気が続いたまま練習が終わってしまうのであった。
練習が終わり、皆がそれぞれのタイミングでログアウトしていく中、僕もログアウトしようとした時、ゲームで使われているメールに一通の通知が來ていた。
「誰からだろう」
ライブでしだけ有名になったとはいえ、このゲームでフレンドになっているのはメンバーの三人くらいだ。だけどそのメンバーは先ほどまで一緒にいたので、可能はゼロ。運営からの可能もあるけど、それなら皆にも來ているはずなのでし不安になりながらも僕はそのメールを開いた。
「宛先がない。本當に誰なんだろう」
疑心に駆られながらも僕は恐る恐るメールの本文に目を通す。そこにはかなりの長文でいろいろな事が書かれていたけど、要約するとこうだ。
『このゲームの世界の歌姫にこれ以上関わるな。彼はいづれかのゲームを壊す存在だ』
いわゆる脅迫文だった。何故ここまで長く書いたのかは分からないけど、リアラさんの存在を良しとしない何者かが、それに関わっている僕を脅してきたのだろう。
「どうかされましたか? カオル君」
メールを眺めながらその場で考え込んでいる僕を見て、リアラさんが聲をかけてくる。果たしてこれは彼に相談した方がいい話なのだろうか。
(隠し事は良くないかもしれないけど)
リアラさんがこれで何かに巻き込まれるなら……。
「メールですか?こんな時間に珍しいですね」
リアラさんが僕の後ろからメールを覗き込む。反応がワンテンポ遅れたせいで、彼にメールの容を読まれてしまうことになってしまった。
「……え? カオル君、これは」
「ただのイタズラメールですよリアラさん。気にしない方が」
「いえ、そうじゃなくてですね」
「そうじゃなくて?」
「全く同じ容が先日私に屆いたんですよ」
「これと同じのがリアラさんの所に?」
関係者ならともかく、どうして本人の元に?
■□■□■□
リアラさんにも屆いてしまった以上二人だけでの話に済ませる訳にはいかないので、この事は明日改めて四人で集まって話すことにして、その日は解散することになった。
「もうこんな時間か……」
ログアウトした時には既に時間は深夜。いつもの事ながらゲームをやっているとつい時間を忘れてしまう。何日もログアウトしなかった事もあったけど、こうして現実に戻ってくると世界が丸々変わる。
ゲームなら嫌な事も何もかも忘れられるから楽しくてしょうがないけど、やっぱりこうして戻ってくると毎度虛無をじる。
「あれ、LINEがきてる」
ふとスマホに目をやるとLINEが一件っていることに気がつく。その相手は……。
「……明日も早いし寢るか」
相手の名前を見ただけで僕は容を確認はしなかった。どうせ見たって得はしないだろうし、見たところで不快だ。
(いつからこうなってしまったんだろう)
LINEの送り主は僕の母親。ろくに家にいないことの方が多いのに、こういう細かい連絡だけはしてくる。それが僕にとってはとても嫌で、本當にやめてほしい。
(そういえば前に両親から頼まれて、僕の家に來たって竜介が言っていたけど……)
すごく余計なお世話だ。親として當たり前の事をしているようなじだろうけど、僕からしたら何を今更と言ってやりたい。
(本當に迷だよ、人の気持ちも考えないで)
恨み節を心の中で言いながら、僕はそのまま眠りについた。
「まさかカオル君にまでこのメールを送ってくるなんて、どういう魂膽なのでしょうか」
皆がログアウトして一人殘った私。先程からずっとメールを眺めながら考え込む。この容、本來ならカオル君には理解できないはずの容ばかりが書かれている。その筈なのに、何故彼はそれを理解して、そして何故送り主は彼が理解できる事を知っていたのだろうか。
「この世界を壊す……。一見見ると噓のように思える容かもしれませんが、的は外れていないんですよね……」
ただの脅迫文にしか見えないこの文、しかしこの文の真の意味を理解している私は、何故か不意に笑みをこぼしていた。その意味は私自には分からないけど、何故だか自然に私は笑みをこぼしていた。
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