《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.35 先が不安定な道でも
「確かにこれは……脅迫文やな」
「そうですね」
翌日の午前中、早くから集まった僕達は、早速昨晩僕の元に屆いた例のメールを一緒に見ていた。
「これと同じものがリアラの元にも屆いていたんやな」
「うん。僕よりも先に屆いていていたらしいけど」
「それだと何かおかしくないですか?」
「うん。本來ならこういうものって本人に送るようなものじゃないし、本當に意味が分からないんだよね」
ログインする前に改めて考えてみたものの、やはり犯人の意図が僕には理解できなかった。それとももしかしたら、僕が理解できていないだけで本當はもっと大きな意図があったりするのだろうか。
「ところでそのリアラはどこへ行ったんや? さっきから姿が見當たらへんけど」
「それがなんか用事があるみたいで、二人が來る前に出かけちゃったんだよ」
「珍しいですね。一人で出かけるなんて」
「言われてみればそうやな。それに今日はカオルと二人で出かける日やろ?」
「そうなんだけど、こんな事が起きたら出かける気分になんて……」
昨日の僕はしだけ浮かれていた。まさかリアラさんからあんないが來るなんて思いもしなかったし、嬉しい気持ちがあった。だけど、昨日このメールがきて、しだけ冷靜になって僕は思い直したのである。
僕とリアラさんがそういう関係になるのなんて難しいんだって。
「何やカオル、もしかして怖気付いたんか?」
「そうじゃないんだよ。ただ、何というか違う気がするんだ」
「違う?」
「本來僕とリアラさんが出會えたのは奇跡に近いからさ、本當ならリアラさんには僕よりも似合う人がいると思うんだ。勿論リアラさんがどう思っているかなんて分からないけど、僕にはやっぱり……」
そう考えてしまった途端、僕のリアラさんへの気持ちは消えてしまっていった。リアラさんは昨日、確かにあんな事を言ってはいたけれど、果たして僕にはその想いに応えられるのか自信がなかった。
彼にはもっと僕なんかより似合う人がいる。
たとえ歌姫がどう思われていようと、彼を想っている人だって他にも沢山いる。
きっとこのメールを送ってきた主だって、リアラさんの事を想っていて……。
「アホか!」
そんな弱音を吐いてしまった僕にナナミは突然聲を張り上げた。僕もアタル君も突然の事に驚きを隠せない。
「自分よりも似合う人がいるから諦める? リアラはあんたに勇気を持ってったんやで。それを蔑ろにする気なんか?」
「蔑ろだなんてそんな……」
「しとるやろ。折角の機會なのに、あんたは自分の気持ちまで抑えて諦めるんか? リアラの事を」
「諦めるも何も、そもそも僕は……」
自分の思いが本當にどうなのか理解していない。本當に僕はリアラさんにをしているのか? 本當はただ憧れているだけではないのだろうか。彼の歌に、彼の存在に。
(僕は……)
この先どうしたいんだろう。
■□■□■□
「カオルさん、その答えは今すぐ出す必要ってあるんですか?」
僕の心がどんどん沈み始めて行ったとき、アタル君がふとそんな言葉をかけてきた。
「え?」
「正直俺にはどうする事もできない話ですけど、好きとか嫌いとかはそんなすぐに答えを出していいものじゃないと思うんです」
「そうなの……かな」
「でもナナミさんの言う通り、折角のリアラさんのいを斷るのは良くないと思うんです。俺達はまだ出會ったばかりなんですし、お互いをまだ詳しくは知らない。だから時間をかけてゆっくりとその答えを見つければいいと思います。今回の件だって、そのきっかけに過ぎないんですから」
「ゆっくりと時間をかけて……か」
確かにここ數日々な事がありすぎて困したばかりだったけど、それはまだ僕がリアラさんの事をちゃんと知らないから。歌姫が本當はどのような存在で、このゲームで何をもたらすのか。うわべだけの報だけを見ただけで、僕はまだ何も知らない。
(だったらもっと知っていけば……)
リアラさんにきっと近づけるのかもしれない。
「何やアタル、たまにはええ事言うんやな」
「大したことは俺は言ってないですよ。それに」
「それに?」
「こんな話、リアラさんがいる目の前で続けるわけにはいきませんから」
「え!?」
アタル君に言われて辺りを見回す。すると部屋の隅にちょこんと立つリアラさんの姿があった。
「り、リアラさん? いつからここに」
「つい先ほどです。それで、その、カオル君、やっぱり私がったのは迷でしたか?」
「め、迷だなんてそんな」
「確かに私のような存在は、皆さんにとって不安の材料にしかならないかもしれないですし、本當に迷でしたら私は」
「リアラ!」
どんどんネガティヴになっていくリアラさんに、僕はつい彼の名前をさん付けで呼ぶのすら忘れてんでしまった。
「カオル……君?」
「ぼ、僕は……」
彼にこの場所にい続けてほしい。ただその言葉だけが言いたい。リアラさんが迷な存在なわけがない。確かにこの先進む道がし不安ではあるかもしれないけど、それでも僕は……。
「リアラに……僕達のバンドのボーカル、歌姫としてずっとい続けてほしい。その為にも僕はもっと……君を知りたい」
いつか別れるかもしれないけど、それまではこの場所で、一緒に居たい。そしていつかは彼への思いを、忘れて居なければ伝えたい。
「……はい。私などでよろしければ」
僕達カナリアの不安定な道はもう一つの意味で、始まりを告げた。
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無雙しようと思います~【書籍化&コミカライズ】
ソロでCランク冒険者のアウンはその日、運よく発見したダンジョンで魔剣を獲得する。しかし、その夜に王都から來たAランク冒険者パーティーに瀕死の重傷を負わされ魔剣を奪われてしまった。 そのまま人生が終わるかと思われたアウンだったが、なぜかゾンビ(魔物)となり新しいスキルを獲得していた。 「誰よりも強くなって、好きに生きてやる!」 最底辺の魔物から強くなるために進化を繰り返し、ダンジョンを形成するための核である『ダンジョンコア』を食い、最強を目指して更なる進化を繰り返す。 我慢や自重は全くせず無雙するちょっと口の悪い主人公アウンが、不思議な縁で集まってきた信頼できる仲間たちと共に進化を繰り返し、ダンジョンを魔改築しながら最高、最強のクランを作ることを目指し成り上がっていきます。 ※誤字報告ありがとうございます! ※応援、暖かい感想やレビューありがとうございます! 【ランキング】 ●ハイファンタジー:日間1位、週間1位、月間1位達成 ●総合:日間2位、週間5位、月間3位達成 【書籍化&コミカライズ】 企畫進行中!
8 121虐げられた奴隷、敵地の天使なお嬢様に拾われる ~奴隷として命令に従っていただけなのに、知らないうちに最強の魔術師になっていたようです~【書籍化決定】
※おかげさまで書籍化決定しました! ありがとうございます! アメツはクラビル伯爵の奴隷として日々を過ごしていた。 主人はアメツに対し、無理難題な命令を下しては、できなければ契約魔術による激痛を與えていた。 そんな激痛から逃れようと、どんな命令でもこなせるようにアメツは魔術の開発に費やしていた。 そんなある日、主人から「隣國のある貴族を暗殺しろ」という命令を下させる。 アメツは忠実に命令をこなそうと屋敷に忍び込み、暗殺対象のティルミを殺そうとした。 けれど、ティルミによってアメツの運命は大きく変わることになる。 「決めた。あなた、私の物になりなさい!」という言葉によって。 その日から、アメツとティルミお嬢様の甘々な生活が始まることになった。
8 128不老不死とは私のことです
うっかり拾い食いした金のリンゴのせいで不老不死になってしまった少女、羽鳥雀(15歳)。 首の骨を折っても死なず、100年経っても多分老いない彼女が目指すは、不労所得を得て毎日ぐーたら過ごすこと。 そんな彼女は、ラスボス級邪龍さんに付きまとわれながらも、文字通り死ぬ気で、健気に毎日を生きていきます。 ※明るく楽しく不謹慎なホラー要素と、微妙な戀愛要素を盛り込む事を目指してます。 ※主人公とその他アクの強い登場人物の交遊録的なものなので、世界救ったりみたいな壯大なテーマはありません。軽い気持ちで読んでください。 ※魔法のiらんど様に掲載中のものを加筆修正しています。
8 64最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。
村人とは人族の中でも最も弱い職業である。 成長に阻害効果がかかり、スキルも少ない。 どれだけ努力しても報われることはない不遇な存在。 これはそんな村人のレンが――― 「裏職業ってなんだよ……」 謎の裏項目を見つけてしまうお話。
8 109高欄に佇む、千載を距てた愛染で
山奧にある橋。愛染橋。 古くからその橋は、多くの人を見てきた。 かつては街と街を結ぶ橋だったが、今は忘れられた橋。 ある日、何故かその橋に惹かれ… その夜から夢を見る。 愛染橋に纏わる色んな人々の人生が、夢になって蘇る。
8 118