《音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら》Track.49 カナリア四重奏〜それぞれの想い〜

意地を張ってしまった自分がいる。

カオル君の言う事は最もだったし、部屋を出た今でさえも私はフラフラの狀態だった。

そんな私を彼が心配してくれた。

それがすごく嬉しいはずなのに、意地を張ってあんな事を言ってしまった。今となっては後悔しても何も意味がない。カオル君はきっと怒っている。折角想いが通じあったのに、一週間も経たないでこんな事になってしまうなんて……。

(私、すごく辛いですよ、カオル君……)

何でこんな事で私達は傷つけ合わなければならないんだろう。

「やっぱり無理をしていたんですね」

フラフラな足取りで廊下を歩く私に、誰かから聲をかけられる。この聲は恐らくアタル君。先程の様子から彼は、イベントに參加する事に賛をしていたので、私の後を追ってきたと思われる。

「アタル君はどう思っていますか? 今回の件を」

「どうも何も、俺も諦めるのは嫌ですよ。だから二人でだって出ようと考えていましたけど」

「けど?」

「今のリアラさんを見て、カオルさんの気持ちも分かりました。やっぱりそので出るのは難しいですよ、リアラさん」

でもフラフラな狀態の私を見て、彼はそう告げた。やっぱり皆が當然の反応をしているだけの話であって、私がわがままを言っているだけなのは間違っていない。

でもどんなに辛くても、私には一つだけ譲りたくない想いがある。

「それは分かっているんですよ、アタル君……。私がただ意地を張っただけなのも」

「だったらどうして」

「アタル君は、このゲームのβテストの時の事について知っていますか?」

「あくまで噂の範囲での話なら聞いた事がありますけど」

「噂の範囲で知っているならそれでも構いません。これはそれを知っている前提での話ですから」

それはまだ誰にも語った事がない話。きっと誰も信じないだろうし、その話が私という存在自に疑問を持たせる事になってしまう。だから誰にも話したくなかった。

だけど話さないと、私がどうして頑張ろうとしているのかが伝わらない。せめて彼にだけでも、教えておきたい。

「これはカオル君にも、ナナミさんにも決して話さないでください。を守ってくれるあなただけに話しておきます。アタル君」

あの時果たせなかった約束を、このカナリアで一緒に葉えたいその理由を。

「これはβテストが始まったばかりの頃の話になります」

■□■□■□

リアラさんとアタル君が離れてもう間も無く四時間。日付も間も無く変わろうとしている頃、僕とナナミはとある準備をしていた。

「カオル、あんたが考えているそれは間違っておるとは言わへんけど、それでええんか?」

「僕も難しい話だってことは分かっているけど、リアラさんの意思を反映させた結果、こうするしかないと思ったんだ」

「後悔はしないんやな?」

「うん」

本來のプログラム通り全部歌うのはきっとリアラさんのがもたない。だから初めてのライブの時の曲數と同じ一曲で挑む事にした。しかもそれは、リアラさんがどうしてもと歌いたがっていたデュエット曲。僕はここまで練習してきたドラマを一切叩く事がなくなってしまったけど、全てを考慮した結果だ。

「それにデュエットなら、いざリアラさんのに何かがあったら、僕が支える事ができる。もうそれしかないと思うんだ。そしてライブが終わったら、リアラさんには」

「しっかりと休んでもらう、そういう事やろ」

「リアラさんの調が戻るまではカナリアも休止になるけど、仕方がないよね」

「せやな」

このライブで果たして祈に長した姿を見せられるかは分からない。だけどしでも変わった姿を見せられれば、それでいい。

でもその前にやらなければならない事がある。

「でもまずはリアラさんとアタル君と仲直りしないと」

「そうやけど、アタルはもうログアウトしとるし、リアラもきっと寢とるで、あの様子じゃ」

「うん、分かっているよ。リアラさんは起きてから。アタル君もログインしてから話をするよ」

「蟲の良すぎる話やと言われへんか?」

「確かにそうだよね。言い出しっぺは僕なんだし」

もしかしたら二人は怒って、戻ってこない可能だってある。和解する気があるなら、四時間経っても戻ってこないなんて話がまずない。

アタル君がすでにログアウトしているのが何よりの証拠だ。

「ねえ、ナナミはどう思っている。今回の件」

「今回はうちらの方が明らかに非はある。せやけど、リアラも分かっているはずなんや。あのままじゃ絶対にライブに立てないと」

「でもリアラさんにも譲りたくない想いがあるから」

「引き下がらなかったとでも言うんか。そんなに大切なんかその想いは。うちらの想いよりも」

「それは僕には分からないよ。でも……」

それほどの大切な想いがあるなら、それは捨ててはいけないものだと僕は思う。僕だって今回、祈をったのも僕にも譲りたくないものがあるからだった。

「リアラさんにとってそれがどれくらいのものなのか、それは言葉だけで伝わってきたんだ。だから僕はそれを葉えてあげたい」

「それはリアラが好きやからか?」

「それもある。でもそれ以上に」

僕は今、リアラさんの彼氏なんだ。

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