『一方通行アクセラレータ』

學園都市に7人しかいない超能力者レベル5の中でも、突き抜けた頂點と呼ばれる男。『運量・熱量・電気量など、表面にれたあらゆる力の向きベクトルを自在にる』能力はまさに最強に相応ふさわしく、彼自らが手を下すまでもなく、ほとんどの相手は己の攻撃を反されて自滅する。しかし、世界中の軍隊を相手にしても生き殘れる程の能力チカラを持ってなお、彼は『最強』の先、『無敵』を求めていたーーー

ある日の午後8時頃、彼はコンビニへ向かった。気にった銘柄の缶コーヒーを買いして連続して飲み、飽きたら違う銘柄に移る。そんな獨特な日課のための缶コーヒーを買いに行くところだった。コンビニまであとし、といったところで曲がり角を曲がる。その直前、

「おあああああああっ!?」

誰かの悲鳴が間近で聞こえる。不審に思った一方通行アクセラレータに、何者かが頭突きをする。瞬間、『反』が働き、謎の襲撃者が倒れる。最強の名をした者たちに襲撃される事が日常茶飯事さはんじである一方通行アクセラレータ。いつも『反』によって敵は自滅する。そしてその時、第1位を見るその目には、恐怖や後悔、敵意などが宿っている。それが當たり前。しかしこの時、一方通行アクセラレータの足下で痛みにけなくなっている年の目には、恐怖も後悔も敵意も宿っていなかった。

（ンだァ、こいつは？ 敵意をじられねェ）

『敵意が無い』と、『敵意を完璧に隠してじさせない』は全く違う。そのどちらかを判斷しかねた一方通行アクセラレータは警戒しつつ尋ねる。

「ンだァ、オマエ？」

それが、のちに超能力者レベル5第3位を追い詰める怪と、一度超能力者レベル5第3位を追い詰めた怪の出會いだったーーー

「ぇ......？」

顔を上げた前田の視線と、彼を見下ろす怪の視線がぶつかる。大抵の人間は學園都市最強の姿を見ただけで畏いしゅくする。しかし、前田はそんな『普通』から大きく外れた行をとる事が『普通』の人間。それは今回も例外ではなくーーー

「何って、晝間に友達が家に來て、元々切らしかけてた飲み全部出しちゃって夜中にコンビニに買いに向かってたら突風でバランス崩してバナナの皮踏んで転んだ、間抜けな奇能力者レベル0+だけど？」

無駄に詳細な説明を聞いた第1位の顔が変わる。

（奇能力者レベル0+だァ？）

再び尋ねる。

「っつーこたァ、オマエが絶対支配ドミネーターか？」

「そだけど、何？ 俺の知ってんの？」

「一応なァ」

「そっか。俺もアンタの事知ってるぜー。『最強さん』だろ？」

「どンな覚え方してンだ、一方通行アクセラレータだ」

「俺は前田智也。っつっても、俺の名前なんぞ名乗っていらないか」

再び考える第1位。

（どォやら、本當に襲いにきた訳じゃねェみてェだな）

そして彼はコンビニへ向かう。と、気配をじて振り向くと、前田がいた。頭悪そうにボーッとした表で歩く年を見て一方通行アクセラレータは、

（絶対支配ドミネーター？ こいつが......？）

と、眉を寄せる。

そして同時に同じ店に店し、各々がコンビニで買い、同時に店を出る。打ち合わせでもしたかのように揃ったタイミングのついでだろう。一方通行アクセラレータは前田に聲をかける。

「おい、絶対支配ドミネーターってのは、あらゆるエネルギーをれるンだよな？」

「？、そうだけど？」

「前にオマエの能力の噂を聞いた時から、その能力者と戦やってみてェと思ってたンだ。オマエ、俺にちょっと攻撃してみろ」

「......はい？」

「教えてくれよ、絶対支配ドミネーターってェのが、どンなモンなのかよォ」

數秒かけて目の前の男の言葉の意味を咀嚼そしゃくし、理解した前田。彼が返した言葉は

「マジで言ってんのかアンタ、地獄の野郎だな」

「......あァ？」

怪訝けげんな顔をする一方通行アクセラレータ。そんな怪に向かって、前田は珍しく聲を張り上げる。

「だってそうでしょーがよ!! アンタれたものの向きベクトル全部れんだろ!? しかも何もしなくてもオートで反するんだろ!? そんな奴に攻撃しかけろってか!? アンタノーダメージ俺大ダメージが目に見えてんだよ!! いや大ダメージじゃねぇわ死ぬわ!! 俺が!! 無理ゲーどころか敗北固定イベントじゃねぇかよ!! そんなのクソ食らえだよ!! 〇んこ召し上がれ!!」

「......オマエそれ丁寧に言ってるつもりか知ンねェが、余計に汚く聞こえンぞ」

「お黙り！ 大っオートで反とか、んなチートスキルーーー」

前田の言葉が途切れ、同時に何かが思考の端に引っ掛かる。

（......待てよ、こいつの能力の本質は『ベクトル変換』であって『反』ではない。つまり、こいつの『反』ってのは『弾き返す』事じゃなく、『真逆に向ける』事になる。そう考えるとーーー）

急に黙った前田を不審がる一方通行アクセラレータ。

「......？、 おい？」

呼び掛けてみるも、反応はない。ただ、ブツブツを何かを呟き続ける。

「運を位置に変えて......『反』があるから熱と電気と音とには意味がないから使わなくていい......いや音は使えるな、壁の位置を測るのに使える......ならあとは......」

ふと、呟きが途切れる。顔が上がる。その顔を見た一方通行アクセラレータは目を見開く。そこにはもう、さっきまで第1位の発言にツッコミをれていた騒がしい年はいなかった。そこにいたのは、自分が存在する空間の中で全てを絶対的に統べる支配者だったーーー

「戦やンのか？」

白い怪の言葉に、黒い支配者は短く答える。

「うん」

と。