《極寒の地で拠點作り》防衛線作り その八
四角い建、というか囲いの中で沸き立つ湯気。その湯気の下にはここら辺では見ない巖で囲まれて溜まったお湯が確認できる。
「えっと……?」
……何故かよくわからないけど溫泉が出來てた。
今日のプレイを開始しようと思ってギルドホームから出ると、目の前に壁があった。一瞬それが何かわからなかったけど、その周りを回っていると、それが四角い建で割と広いことと中にることの出來そうなり口っぽいが空いていることに気づいた。
ってみるとそこには何も無く、先に進むことの出來るが部屋の隅にポツンとあるだけだ。それでそのをくぐり抜けた所で今に至る。
「溫泉……だよね?」
誰に問う訳でもなく私はそう確認する。
試しに手をれて確認しても、それは溫泉。お湯加減は丁度良さそうだ。
「…………」
別にいいよね? 誰かが見てる訳でもないし。
そんな訳で一旦ギルドホームにる。
「ねえ、神様」
「む? どうした? まだ他の奴らは……」
「ああ、いやそうじゃなくて。タオルってありません? まあ、それに近い布でもいいですけど」
「タオルか……」
あ、これは無いじかな。駄目元だったからいいんだけどね。
「待てよ? 確か寢室の棚の中にあったな」
「わかりました! 神様、ありがとうございます!」
「おおう、何があったのかは知らないが元気だな……」
そう言われつつも私は使うことのない寢室に向かい、棚のタオルを探す。すると、神様の言った通りタオルを見つけることが出來た。
そうして再び外に出て溫泉の前まで來る。これでとりあえずは準備完了だ。
「ローブとブーツをしまって……っと」
闇のローブと闇のブーツを外した私はインナー姿になる。何時考えても、私よくこんな薄著で寒さ耐えられてるなぁ、って思う。慣れって怖いね。
それで私は何度かの注意書きを越えて、何も著ていない狀態になった。
「ああ、寒い……さっさとろ」
折り畳まれたタオルを傍らに置いて、ゆっくり足からを湯に突っ込んでいく。
「あー、あったかぁ……」
こんな寒い中でこんな溫かいのをじられるなんて、ほんと溫泉様様だよ。誰が作ったか知らないけどありがとう。あー、顔が緩む…………後で皆と一緒にろう。いや、でもケイ君は男の子だし……かと言って一人だけでってのもケイ君のことだかららないと思うし。まあ、タオル巻けばいいかなぁ……?
頭をあまり使わずにゆったりと、そんなじのことを考えてから、のぼせる前に上がることにした。
「あー、良いお湯だったぁ」
しっかり溫泉を堪能したと思って上がろうとしたその時、そのゆったりを変えるがやってきた。
「なっ……!?」
「『な』?」
その変化はり口の方から聞こえてきた。
そちらの方へ顔を向けると、ケイ君が驚いた顔で立っていた。
「……えっ? ちょっとケイ君、どうして」
「な、ななな、なんでユズさんが……あ、そ、そうじゃなくて、か、隠してください!」
私は普段見ない形で狼狽えるケイ君を前にして、回らなかった頭がようやく回り始めて今の狀況が摑めてくると途端に恥ずかしくなってきた。
「あっ! ご、ごめん!」
私は片腕で隠しながら、慌てて片手で持っていたタオルを広げて前を隠す。
「い、いいんです! こちらが悪かったので! す、すみませんでしたっ!」
そう言ってケイ君はり口から出ていってしまった。なんか悪いことしたなぁ……
し経って、ギルドホームに皆が集まる。
「ふっ、あははっ!」
「ケイさん…………」
一連の騒の流れを聞いて吹き出して笑い出すハープとじとーっ、とケイ君を蔑み分のった目で見るリンちゃん。
「いやいや、リン。まさか、ユズさんがってるとは思わなかったんだよ」
「今度のは私も悪かったんだよ、リンちゃん。というか、ほんとにごめんね、ケイ君?」
「あ、ああ、いえ、こちらこそ……」
「ふ、あははは!」
「「ハープ(さん)は黙ってて(ください)!」」
私達が謝り合いモードにったのがそんなに面白かったのか、ハープは更に笑い転げる。
しょうがないじゃん。あれがケイ君の作りかけの溫泉だって知らなかったんだからさ。
「い、いや、それにしてもケイがユズのね……ふふっ」
「…………」
「いや、だからハープさんも笑ってないで。リンも、ほら、誤解なんだって!」
慌てて弁解してるのを見ると益々ケイ君に対して罪悪が凄い。
「それにしても見たかったなぁ。ケイがユズのソレを見てしどろもどろになってる所」
「見なくていいですよ」
「なら、もうハープが見られればいいよ」
「いや、ユズさん、そういう問題では……」
「…………」
「リンも何時までもそんな目で見てこないで」
狼狽えるケイ君は珍しいからね。
確かに悪い気はしてるけど、偶然とはいえを張った結果、こういうケイ君を見ることが出來た。事が事だから良かったとは言い切れないけど。
それから暫くこんなじだったのでとりあえず閑話休題。
「はぁ……アレは確かに溫泉のつもりで作っていますよ」
「なんでまた溫泉?」
「最初は先日話したイベントのためのギルド宣伝のために作ろうと思っていたんです……が」
「が?」
「正直、呼び寄せるための施設と言っても運営する人數が足りないと思うんですよね」
ああ、そういうことね。
ケイ君のことだからちゃんと考えた上でのことだろう。確かに店とかやるとしても、一つの店を四人でやってもここら辺じゃ特に面白いも無いし、一店舗ずつだとしてもかなり無理がある。レジャー施設と言ってもやっぱり思いつかないものだね。
「それで作ってる最中に思ったんですが、単に迷路のゴール辺りに置いて気を逸らせるのも手かな、と…………念のために聞きますけど神様は防衛の保険として柵やら迷路やらを作れと言っているんですよね?」
「ああ、そうだ」
ハープみたいなことを言うけどそういえば神様いたんだよね。まあ、あまりさっきの話題に乗ってきてほしくはないけど。
「それでユズさんは要するに、折角作った柵とか迷路とかが使われずに終わるのが嫌な訳ですよね?」
「う、うん。そうだけど……それが?」
「いえ、別に宣伝じゃなくても導すればいいんじゃないかなって」
「導ですか?」
「うん。演技とかすればいけるんじゃないかな」
「演技かぁ……私出來るかな」
「私も無理かな」
「何言ってるんですか、ユズさん。貴方が主役ですよ?」
「えっ? でも私の顔、悪い意味で知られてるよ?」
「あるじゃないですか。とっておきのスキルが!」
ケイ君が手を広げてそう言うと、ハープもリンちゃんも何かわかった様な顔をしてこちらを見てきた。えー? 顔を隠せて、演技に使えそうなスキルなんて…………あ、もしかして。
「『変裝』?」
「そうです! ユズさん」
「変裝というと、皆であの骨モンスターと戦って勝った時にユズの取得した奴だっけ?」
「うん、そうだけど。今まで使ったことないからほんとに使えるかわからないよ?」
「それじゃあ、試してみましょうよ!」
リンちゃんが言ったその一言で私の『変裝』が始まった。
まず、鏡を神様に聞いてハープに持ってきてもらう。その間に説明文を読む。
「えっと、なになに? 『髪型や服裝、各部分のが変えられる』」
「おーい、持ってきたよー」
「ありがとう」
「それじゃ、早速始めましょうか」
「でも、どうやって使えばいいのかな」
説明文にはさっきの通りの文しか書いていない、いつも通り不親切な説明が載っているだけだ。
「うーん、こういうのって大抵なりたい姿を思い浮かべるものじゃないかな」
「そうかな。まあ、わからないからやってみる価値はあるよね…………わかった、やるよ」
私は目を瞑り思い浮かべる。
うーんと、髪は金髪で長くして、服は……何でもいいからハープみたいな格好にしよう。目のは青。そして長を高くしてもし大きくしてみる。よし、こんなじでいいかな。準備完了っと。
「じゃ、『変裝』!」
すると、私はに包まれた。
三秒くらいに埋もれ、徐々に消え去っていくと皆、何か驚いた様な顔を見せた。
「おおー!」
鏡を見てみると、長めの金髪に碧眼、服は例の如く防寒としては駄目なコートに変わっていた。しかし、高長やが変わっていない辺り、型は変えられないみたい。仕方無いか、あくまで変裝だもんね。
「なんでまた私と同じ格好なのよ」
「なんとなくかなぁ」
「ユズさん、綺麗です!」
「そう? なんか自分じゃないけど嬉しいよ」
「一先ず、功ですね。じゃあ、一旦戻ってみましょうか」
「わかったよ。んじゃ、『解除』」
変裝を解く時は暗転とかの時と同じ様に解除と言えば解けるらしい。そして私は再びにを包んで元の姿に戻った。うん、やっぱこれだね。私はこの恰好が一番合ってると思う。
「さて、演技と言いましたが、この後作業に戻って後日話し合いするか、それとも今話し合いをしてから作業するか、どっちにしましょう」
「どっちにしろ、今日も作業するのね」
「當然です」
もう當日まで二週間とちょっとですからね、とケイ君は言う。そっか、もうそんななんだ。
そして多數決の結果、後者に決まったのでこの流れのまま早速、話し合いを始めたいと思う。
「うーん、迷子とかいいんじゃない?」
「一応私、もう高校生だよ? そういうのなら、リンちゃんにやらせた方が……」
「わ、私ですか?」
「いいね、それ! 『うぅ……ぐすっ……あ、あ、あの、私、お姉ちゃん達とはぐれちゃって……ぐすっ……すみません、い、一緒にお姉ちゃん達を探してくれませんか?……お兄ちゃん』とかさ!」
「ハープさん、なかなか気合いった演技ですね。得に最後の上目遣いとか」
「でしょー?」
「えっ、いや、私、そんなの無理ですよ!」
「リンちゃんなら出來るよ! ……ほら、ユズの様に後先考えずに思考を放棄すれば、ね?」
「『ね?』……じゃないですよ! 私、ユズさんじゃないですし」
「あれ? でもリンちゃんこの前、ユズさん的思考がどうのこうの言ってたなかったっけ?」
「そ、それはケイさんが……」
「リン。人に押し付けるのは良くないよ?」
「ええっ!?」
「よし、皆の了解も得られたことだし。リンちゃん、迷子役決まりね!」
「なんでそうなるんですか! ほんとに無理ですって!」
「頑張れ、リンちゃん!」
「応援してるよ」
「ふぇぇぇ……」
そんなじで話は弾み、ケイ君もノリノリだったせいか止める人間は誰もおらず、結局その日は最後まで話し合いのみをして終わるのだった。
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