《極寒の地で拠點作り》第二回イベント その二
「うわああぁぁぁ!」
「あああぁぁぁぁ!」
「ユズ……相変わらずエグいね」
「そうかなぁ?……『奈落の』!」
「えっ……ぁぁぁぁ」
ハープにそう言われつつ、また落とした。
ハープは引いているけど私が何も思わないのは悲鳴を聞きすぎて覚が鈍っているのかもしれない。
さて、今日は二日目。昨日の勢いのまま、張り切って中規模ギルドに向かったらこんなじだ。面白いくらいに落ちてくれる。暗転と奈落のは相が良い。
「ほらほら、絶マシンだと思ってさぁ!」
「思えるかよおぉぉぉぉ!」
「うわぁ……」
ハープが更に増してドン引きしてるけど止めることは無い。
「そんなんだから、恐怖の魔なんて呼ばれるのよ……」
「何か言った?」
「何でもないよ。あとさ、ユズなんか格変わってない?」
「そう? 私は至っていつも通りだよ? 『奈落の』」
四つ分の悲鳴が混ざったが私とハープの耳に屆く。それにしても、落とすのは気持ちいいね。
「それだよ、ユズ……今もどうせにやにやしてるんでしょ?」
「ふふっ、私そんなにやにやしてないよ?」
「あー、この聲絶対してるよー……」
失禮な。私はただ久しぶりにお客様にアトラクションを提供してるだけだってのに。もし無表だったら、それこそ恐怖だよ。
「んー。じゃあ、ほら、ハープも戦ったら?」
「やだよ。巻き込まれたくないし……」
「大丈夫、落ちても痛くないから!」
「落とす気満々じゃない。そんなに私の悲鳴聞きたいの?」
「はは…………どうかな?」
「何なのよ、その間は!」
「ふふ、でもハープどうせ落ちないでしょ?」
一緒に過ごしてて、元々のプレイヤースキルで覚が研ぎ澄まされてるのがよくわかる。暗転してても目を瞑って行出來てるし、落とせるとは到底思えない。
「……はあ、わかったよ。んじゃ、信じてるからね」
そう言い殘してハープは闇のドームの外側に出る。既にドームに突っ込んでくる相手さんはいない上に私が落としを使いまくるので距離を取られている。なのでハープは充分に警戒態勢を取っている集団に正面から突っ込んでいく形になる。
しかし、疾風の如く闇から現れたハープに対応出來る人はおらず、正面の人達は一瞬にして蹴散らされてしまった。それに気づいた反対側の人は私が何もしてこないのを確認して離れつつ、協力して囲もうとする。
「あー、やっぱり眩しいね」
「クソっ!」
だけど捕まえられない。
袋叩きにしようとしても、囲みの薄い所を突いて逃げてしまう。
「そんなんじゃ捕まらないよ!」
「頑張れー、ハープ!」
「……ッ!」
私が、避けたり集団の隙を突いて戦うハープを応援したら相手ギルドの方々は総じて悔しそうな顔をされた。私達がここに來た時は、
「えっ?」
とかそんなじで突然の襲撃に驚いているというより、何処か舐められている様なじだった筈。何人かは私を知っていた様で、私の顔を見た途端驚いた様なし怯えた様な顔を見せてきた。そんな何ヶ月も後を引く様な恐怖を與えたつもりは全く無いというのに。まあ、どちらにせよ不愉快な反応ではあった。
「よっ、と」
「くっ……おい、お前ら引くなよ! 全員でかかれ!」
「當たんなきゃ意味無いだろ!」
「なら、どうすれば…………ん?」
「おい、あれ!」
ハープによって振り回されていた剣や槍を持つプレイヤー達は総じて一人が指を差した方向を見る。そこには、ぞろぞろと私と同じ様な格好をした人達がこちらに向かって歩いてきていた。
「何事?」
「おおっ! お前ら、帰ってきたのか! ……すまない、力を貸して頂けないだろうか」
先程まで威勢よく剣を扱っていた男の人は、そう言った後頭を下げた。その杖使いの人達の先頭にいるの人は、まだ私やハープが見えていない様で訝しげに首を傾げている。
「貴方達が手こずる相手って……いったい何処の中規模ギルドの軍ぜ……い?」
一旦、戦闘は止まったと思ったので暗転を解いてやったら丁度良く私の所への道が開けてそのの人の驚く顔がよく見えた。あれ? この人、何処かで見たことあるような……?
「あっ! この前のイベントで私に……ポイズンシャワーだっけ? それ掛けてきた人だ!」
「ひぁッ……!?」
「え? 何? 知り合い?」
私とそのの人が対面している所にハープが戻ってきた。驚きからしの怯えへと表を変えた彼とは一応、これで二回目の遭遇である。前イベントにて、私が暗転やら心の闇やら奈落のやらを使うもので、接近戦では葉わないと思った人達が遠くから攻撃しようとしてきた時の最初の三人の一人があの人だ。
「いや、知らないと言ったら噓になるけど知り合いでは無いよ」
「へぇ、そうなんだ」
ハープは自分から聞いといてやや興味なさげに応えを返してきた。
「と、とにかく! 貴方達は下がってて! ……今度は簡単にはやられないわよ。さ、皆散らばって!」
そのの人は剣や槍使いの人達を下がらせると、彼の後ろにいた杖使いの人達を前に出して私を大きく囲んだ。
「どうする? ユズ」
「うーん……とりあえず暗転していい?」
「ああ、うん。いいよ」
という訳で再び私とハープを闇のドームが包む。やっぱりこれ落ち著くね。まあ、安心持ち過ぎるのはいけないからある程度張は持っておくけど。
「なっ!」
外からまたも驚く彼の聲が屆き、想定だったろうから驚きの表はさっきより弱めだ。
「それで、私も試してみたいことがあるから杖使いの人達は任せてほしいんだけど……」
「ああ、何かあるならやってもいいよ。私もまだあっちの人倒しきらなきゃいけないし」
「ありがとう。じゃあ、ハープには杖使いの一人の後ろを通りつつ、剣とか槍の人をやっつけてほしいんだ」
そうして闇のドームから出ていこうとするハープにアレを唱えて待つ。
「……っ! おい、そっち行ったぞ!」
「わかってる! 皆、構えて!」
しかしハープは何をする訳でもなく、ただ単に一人の杖使いのすぐ橫を通り抜けてそのまま曲がってさっきの人達の方向へ向かう。その時、ハープは私に向かって微笑みかけていたので恐らく功だろう。
「はっ? ……フェイントか!」
幸い、何をしたかは気づかれていない様なので良かった。まあ、元々気づかれるとは思ってなかったけどね。とりあえずはこれで回避の方は大丈夫な筈。
「大丈夫!?」
「ああ! こっちはいいから、そっちをどうにかしてくれ!」
近接武の人達のリーダーさんはハープに襲われつつも彼にそう言う。
「わかった……皆、準備して!」
すると、杖使い全員に再び指示を出して構えさせた。
全員、ちゃんと闇のドームから距離を取れていて奈落のの設置可能域の外側におり、彼らは私を囲む様にしている。私のAGI値が遅いことは殘念なことに萬人の知るところなので、ここから私に向かって遠距離系の技を使って逃げられなくなった所をそのまま仕留める気なんだろう。うん、よく対策出來てると思う。
でも、そういうつもりなら囲んだ時點でどうするか決めていた。私は、ハープが出ていった方向へ走る。
「……っ! 皆!」
地面を踏みしめる音を聞きつけたのか、彼は全員にそう指示を出す。そして私がドームから抜けた所で、
「『火炎弾』!」
私を囲んでいた杖使い達が口々にソレを唱えた。
斜め前に見えた一人の杖の先には火魔法Lv.1のファイアボールの巨大版とも言える火の塊が浮かんでいた。アレを私に向かって放つつもりなのだろう。
そう思った剎那、私は前方の杖使いの方向に向かってこうんだ。
「お願い、シャード君!」
すると、正面の杖使いが突然後ろに向かって倒れてし足をバタバタさせて青いエフェクトを散らして消えた。
突然の出來事に戸いつつも止める訳にはいかない杖使い達から巨大な炎の球が放たれ、一つの球は他の球とぶつかりつつも推進力を失わずに巨大な一つのの様にしてこちらに向かってくる。
「ありがとね、シャード君」
しかし、一人、杖使いが撃てずに倒されたおで炎のに隙間が出來た。徐々にまるその隙間を何とかすり抜けると、また一人いなくなっている様な気がした。流石だねぇ、シャード君は。
今、私が試そうとして無事功したのは、シャード君を影に忍ばせて襲わせる、そんな実験だった。
機として、さっきの囲まれた狀況をどうするかで、ハープに頼りっぱなしなのもどうかと思った私はふと思った。
「……シャード君って、影に溶け込めそうなしてるよね」
そして私は何を思ったか、それをシャード君本人にも確認せずにそこからはもうぶっつけ本番で、大丈夫大丈夫、何とかなる、と思いながらやってたけど上手く行ったみたいだ。
それから、何とかシャード君の所まで走り切った私はシャード君に謝の言葉を伝え、引っ込んでもらった。
「さて、と」
「……っ!」
私は近くにいた杖使いに向き直った。その杖使いは再び杖を構えて使ったばかりのあの魔法を唱えようとしたけど私の後ろは木、燃え移った大変だし、何よりその更に後ろではハープと戦っている仲間達がいたのだ。仮に私が避ければ邪魔をすることになると考えただろう彼は、杖を振りかぶって私に襲いかかってきた。
奈落のやらで私は倒しまくっているけど、忘れてはいけない。私の武は魔法だけじゃないのだ。眼には眼を歯には歯を、杖には杖だ。
という訳で、
「ほい、っと」
「……はっ?」
振り下ろしてきた杖を、下から十字になるように振り上げた。すると相手の杖は手から離れて、遙か上方に吹き飛んで森の何処かへと消えた。
「……ごめんね?」
「えっ? あ、やめ」
私は丸腰になって後ずさる彼の頭を思いっきり毆った。すると、散って消えるまでの間、彼の頭は潰され削られ消し飛んで、首から上が無いような狀態になった。自分で言うのも何だけど、これがリアルさを求めるスプラッタ系のゲームじゃなくて良かったと思う。
「ひぃぃぃ……!」
そんなオーバーキルを見かけた杖使い全員は、ポイズンシャワーの彼の所まで撤退しようとする。しかし、私の近くにいた二人が出遅れて早速杖の餌食となった。
「た、隊長……」
「わ、忘れてた、恐怖の魔がとんでもないSTR値の持ち主だって噂…………」
そう嘆いている間にも私は後ずさる杖使い達に迫り、頭、肩、腰などを容赦無く毆って削る。
「くっ、こうなったら……」
「よせ! 線上に仲間が……!」
「『奈落の』」
何らかの遠距離系魔法を放とうとしてきた後方の杖使いを落として、安堵のため息を吐いた、巻き込まれそうになった方も毆り倒す。
暫くの間、同じ様に毆り倒していたらいつの間にか數もなくなってきたので、私はリーダーである彼の所へ向かった。
「こ、來ないで!」
「ごめん、無理かな」
座り込んでしまった彼の頭に正面から杖を振り下ろす。ゴシャッ、と音がしたかと思えば例の如く頭を削り取られ、は散って消えた。一対一では意外と呆気なかったね。まあ、しでも苦しくなくなるのは嬉しいけど。
そして、リーダーがいなくなった杖使い達をやはり足が遅いながらもシャード君の力も借りて全滅させることが出來た。
「ふう……さて、と」
「あれ? 杖の人達は?」
「あっ、ハープ。えっとね、私がやったよ」
「凄いじゃん! こっちもね、一対多はやっぱり大変だったけど、意外となんとかなったよ」
「なんとかなったねぇ……」
「……あー、私もユズみたいに変なあだ名著いちゃうかなー」
「……それってどういう意味?」
私はハープを睨みつけるけど、ふと前々から気になってたことがあったのでそれについて続けて聞いてみた。
「あはは……」
「そういえばさっきの言葉で思い出したんだけど……ハープって何で他の人にあまり顔を知られてないの?」
ハープは第一回イベントの際にも中間で四位で最終でも四位で終わった。四位というランキングの高さは、その分だけPKをしていたことになるので顔を複數人に見られていてもおかしくない筈。そしてその様子も現実世界で配信されているので尚更だ。それに対してハープはというと、
「あー、四位って微妙な數字だからじゃない?」
なんて、曖昧な返事が帰ってきた。
「えー? もっと的なの無いとおかしいでしょ。理不盡でしょ!」
「あはは、ユズ、必死だね…………まあ、アレじゃない? 私はに隠れながらちょいちょいやってたし、直線的なきでスピード緩めずにやってたから配信の方も顔がぶれてわからなかったんじゃないかな。何より、私はあの表彰臺乗ってないから」
表彰臺かぁ……なんか嫌な思い出しかない。思えば、あんなこと言わなければここまで恐怖の象徴として怯えられることも無かったかもしれない。まあ、戦闘中に數え切れない程そういう言葉は言っただろうから変わらないだろうけども。
「そんなものかねぇ」
「そんなものだよ。さ、ほら、中ってさっさと擬似石像壊しちゃおうよ」
「……そうだね」
そうして私は蟠りを殘しながらもハープに連れられて部に潛する。部の戦力は外に比べればどういう訳か低かったので、割と難無く倒しきることが出來た。
その後、私達はさっさとその中規模ギルドから引き上げるのだけれど、そのギルドのメンバーから『毆打の魔』やら『トラウマの権化』やら、あることないこと刷り込ませた、私のあだ名が流行り出すのをこの時の私はまだ知らなかった。
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