《極寒の地で拠點作り》第二回イベント その三
彼らのギルドを落とした後、ちょいちょい小規模ギルドを襲ってはPK數を稼いで中規模ギルド並の行力を見せていると、いつの間にか日は頂上を通り過ぎていた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん。でも、ごめんね?」
「だーかーら! 気にしなくていいって言ってるでしょ?」
「ありがとう、ハープ。でも何度も思うんだけど自分でも変なことしてるって自覚あるんだよ」
「……まあ、それはね」
「防衛設備である迷路に、折角だからって理由で敵を引きれるなんて…………クリアされたら駄目なのに、そのリスクがある中でわざわざ挑戦してもらうってのはね」
そのための溫泉とでも言うんだろうけど、事が事なのでやっぱり何度、問題無いと言われてもどうしても申し訳無くなる。
「あー、もう! らしくないよ! ユズは後先考えずにいればそれでいいの!」
「わ、わかったよ……って、なんか貶されてる?」
「あはは、気のせい気のせい」
手を振って誤魔化そうとするハープは、それより、と笑みを浮かべて話を続ける。
「……楽しみにしてるからね?」
心做しか、その笑みには意地悪っぽさが滲み出ていた様にじた。
二日目の今日は午前中がポイント稼ぎで午後からはいよいよお客さんを呼ぶことになっている。よって今日は私が例のアレをやる日ということだ。元々リンちゃんがやる役だったけど本人が來ていないので、私がやることになったのだ。
他の手段が無い訳でも無いけど、この場に本人がいないとはいえノリノリで演技の練習させたとして、ここで私が辭めたらリンちゃんに悪い気がしたから私がやることにした。
「でも、抵抗あるよねぇ……」
「……? 何か言った?」
「あっ、ううん! 何も無いよ?」
「そう?」
決まったなので仕方無い、と私は私に言い聞かせ、無理矢理覚悟を決めて一旦帰路についた。
裏口からり込んでギルドホームに著いたけど、やっぱり他所の人はいないみたい。
「おお、帰ってきたか」
「ただいまです、神様」
「ただいまー」
するとケイ君が右側の通路から出てきた。
「おかえりなさい、二人共。どうでしたか?」
「ただいま。えーと、中規模一つと小規模二つだったっけ?」
「うん、合ってるよ」
「……なんか、凄い行力ですね」
ケイ君がそう褒めてきてくれた。
まあ、その行力はほとんどハープのなんだよね。私といえば暗転して毆るか、ここぞとばかりに奈落の使うだけであまりかないし。まあ、MPのこと考えれば一番いいのは毆り続けてたまに何かなんだけどね。
「そうだろう、そうだろう」
そして何故か自慢気な神様。
「なんで神様がそんな自慢気なんですか」
「む? お主らに力を與えたのは、他でも無いこの私だろう?」
「まあ、そうですけど……って、こんな話題どうでもよくて! ユズ!」
「えっ? あ、うん……ケイ君、今からおびき寄せにるから、よろしくね?」
「こちらこそ。なかなかに暇だったものですから丁度良かったですよ」
期待してます、とケイ君は言うけど割とんな意味で諸刃だから不安だ。怪しい奴め、と言われて斬られるかもしれなければドン引きされて更なる悪評が…………でも、もう決めたことだ。単にたった一回だけのこと、もう當たって砕けよう。
「それじゃあ、ユズ、行くよ」
「……うん!」
大丈夫大丈夫、と自分に言い聞かせてハープについていくのだった。
いつもの様に川を渡って、これまたいつも通りに荒野気味の土地から離れて木々が生い茂る森にる。やっぱり予想はしてたけど、人が全くいないね。
「いなさそうだね」
「うーん、気配がいつも通り無いね」
「ここら辺何も無いもんね」
何度も言う様だけど、めぼしいはこちら側には何も無い。もういっそのこと私達が作っちゃおうかな。溫泉も作ったし、観施設みたいな?
「出來るだけ男の人がいいんだけど……」
「うう、不安だなぁ……」
「大丈夫だって、需要あるから」
「そういうことじゃないよ!」
確かに需要があったとしたら不名譽なあだ名が増えることは無いのだろう。でもいざやるもなると大前提として、私がそんなキャラを演じることに抵抗があるんだよね。
そうして暫く歩いていると、その時は突然やってきた。
「……!」
ハープが立ち止まって腕を橫にばして靜止のサインをしてきた。
「……いるの?」
ハープは、コクン、と頷く。
耳を澄ましてみれば確かに話し聲は聞こえてくる。ここら辺にギルドも何も無いのを確認した上でそうしているのか、割と大きな聲で喋っている。
「……しっかし、団長。こんな所まで來てどうするって言うんですかい?」
「そうですよ、何も団長まで來なくたって」
「小規模ギルドなんだから仕方無いだろう。お前らばかりにやらせる訳にもいかないしな」
どうやら、男の人二人にの人一人で男の人の一人は団長をやっているらしい。
「で、何処に向かってるんですか?」
「ああ、それなんだが、このまま西に突っ切って山の麓の森の外れにある小規模ギルドに行こうと思う」
私は咄嗟に地図を頭に思い浮かべた。
恐らく彼らが向かうのは私達が昨日最初に落とした、あの小規模ギルドだろう。三人で大丈夫かな、と思ったけど私達は二人で行ったのだから何も言えない。どちらにせよ、彼らは実力者だろう。
「えっと、俺は賛っすよ」
「私も賛です」
そして後の二人も団長さんの意見に賛した様だ。今ならまだ私達のギルドホームに曲げて導するのも問題無い。
「……よし。ハープ、行ってくるよ」
「頑張って!」
私は覚悟を決めて彼らの進行方向にしだけ先回りする。
「えっと……し転がっとこうかな」
今回の演技は予定通り迷子で行く。
ローブが汚れるのはちょっと嫌だけど、土とか付けてれば彷徨いました出ると思ったから我慢してやる。という訳でごろごろする。
「……っと、これくらいでいいかな?」
準備が完了した私は彼らが辿り著く前に、なるべく気づかれやすい所でうつ伏せに倒れておく。
「……うーん、とりあえず俺達は西に向かって進んでる訳だが」
「奇襲っすか?」
「偵察で盜み聞きした話ではこの時間帯は人がないみたいでしたけどね」
すると、三人が來たみたいでどうやら作戦を立てている様だった。
「俺としてはだな…………ん?」
「どうしたんすか?」
彼らの団長さんが私のことを見つけたみたいだが、私はくことを許されないので確認は出來ない。あ、なんか駆け寄ってくる。
「おい、どうした? 何があった。おい!」
こちらに近づいてきたのは団長さんだった様で、倒れ伏している私の肩を揺らして聲をかけてくる。
「……う、うぅ」
それに対してしいてを震わせながら肘と膝をついて立ち上がろうとする。
「あっ、無理に立ち上がらなくても……」
「大丈、夫……です」
団長さんはそんな私を見て心配そうにしてくれる。私はフードを被っているけどしっかりと相手の顔を見ている。この服裝と顔でバレていないのは単に私のことを知らないだけなのか、何にせよ今の所は何の問題も無い。
「あ、貴方、大丈夫?」
「HPは……減ってないみたいっすね」
他の二人も追いついてきて、私の心配をしてくれた。やっぱりその二人にも気づかれなかった。
自惚れるつもりは無いけど私を知らない人がいるとは……まあ知ってる人は殆ど私に良いイメージを持ってないだろうから、自惚れた所で意味は無いけど。場が場なら良い人アピールして行きたい所だ。
「お気遣いありがとうございます……」
「で、何があった?」
「あ、じ、実は……仲間とはぐれちゃいまして……」
「つまり……迷子と?」
「は、はいぃ……」
私は恥ずかしがるフリをしてフードを引っ張って俯く。
「地図はどうした?」
「ち、地図ですか……私、方向音癡で、地図見ても何故か迷ってしまうんです……」
勿論これも噓だ。地図見て、ポツンと一軒だけ建っているギルドホームを見つけられないなんて有り得ない。
「他の奴らと連絡は?」
「そ、それなんですけど、不合か何か知りませんが送信出來なくて……」
これも噓。
「そうか……何か、ついてないな……」
「は、はい、そうなんです……」
団長さんからは同の目が向けられ、特に怪しまれてはいない様子だった。
「うーん、とは言ってもなぁ……俺達はこれからギルド制圧に行く途中なんだよ」
「そうですね。相手ギルドの人達が帰ってくる前に片付けたいですからね」
ここで私はハープと、とある約束をしたのを思い出す。『変裝』無しのそのままの姿でやるのもそうなんだけど、ある一言と仕草を必ずれるように言われている。需要云々言ってたのもそういうことだ。
「まあ、助けてやりたいのは山々なんだが……ここからし南に向かった所に開けた所がある。そこに行けば誰かしらに會えるだろう」
「そんなぁ……私、私、無理なんです、一人じゃ……」
「そんな、泣かなくても……っ!?」
私は嗚咽混じりの聲で泣いているフリをして、泣き始めた私にしオロオロしている団長さんに抱きつく。
この時點で相當な覚悟を決めているけど、私は更に今日數回目の覚悟を決める。
「お願いします……あ、貴方じゃないと、だ、駄目なんですっ……お兄ちゃんっ!」
『お兄ちゃん』……それがその一言である。
元々はそれが似合う年齢のリンちゃんに言わせる予定だった言葉だ。リンちゃんは練習の時でも何故だか結局言ってくれなかったので、本人のは私も聞いてないけど。
それにしても恥ずかしい。ならまだしも、赤の他人にお兄ちゃんとか言うのはやっぱり抵抗があった。一瞬、そこの茂みがガサッと言ったけど睨みを効かせたら黙った……後でやらせようかな。
そうして、抱きついて低めの長からの涙目上目遣いで、何の罰ゲームか、魔の言葉を放った訳だけど、
「はぅあっ!」
「だ、団長……?」
思いの外効いた様で、たじろぐ団長さんの姿がそこにはあった。良かった、需要あったんだね。これで白い目を向けられてたら絶対泣いてたよ。
「あ、ああ! いいぞ! ちゃんとギルドホームまで送っていってやるよ!」
「あ、あの真面目な団長が……」
二人もそんな団長さんにし引き気味で呆然としている。何か悪いことしちゃったなぁ。でも、とりあえず功かな。
その後は普通に演技するだけで初回ながらも導に功した。
「ここだよ。ありがとう! お兄ちゃん!」
「あ、ああ、そうかぁ! 俺も良かったぞ!」
「あぁ、団長がどんどんおかしく……」
それにしても……『お兄ちゃん』は偉大だね。
そうして私は、ハープの言っていた意味をよーく理解するのであった。
- 連載中162 章
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