《極寒の地で拠點作り》第二回イベント その四
「ね、ねぇ、貴方、ここの人なの?」
「そうですけど……何か?」
私は不思議そうに首を傾げる。
恐らく彼は私達が作り上げた防衛設備に驚いているのだろう。無理も無い、地図上では小規模ギルドと表示されているのだから。それにしても、こういう反応をされると作った甲斐があるね。
「それでは、どうもありがとうございました!」
「おう! また頼ってくれよな!」
そうして私は迷路のり口へとっていく。し進んだ所に専用通路が隠れているので、さっさとって彼らが見える所まで戻る。
「お疲れー……っ」
そこで私達を見ていたハープが合流してきた。けど、私の顔を見た途端に吹き出しそうになってるし。
「もう、大変だったんだからね?」
「あー、うん。良かったよ、完璧だよ完璧……っ、あはは!」
棒読みで褒めてきて、とうとう耐えきれなくなったハープは外の彼らに聞こえそうになるくらいの聲で笑い出した。
「ちょっと、ハープ!」
「ご、ごめん、ごめ……あはっ、抱きついて、上目遣いで、甘えた聲で、『お兄ちゃん』、とか……っははは!」
思い出しただけで恥ずかしい演技を、ハープは丁寧に説明してくれて腹を抱えて笑っている。どうしよ、ほんとにやらせようかな…………私の都合とはいえ、それはそれ、これはこれだ。
「そんな何時までも笑ってないでさ。ほら、早くしないとどっか行っちゃうよ!」
彼らは元々、西の小規模ギルドに向かう予定だったので同じ小規模でもってきてくれるとは限らない。何とかして迷路にってもらわないといけない。
「あっ! すみません、遅くなりました……」
「全然大丈夫、まだいるから」
ケイ君が來たので準備完了だ。
という訳で私とケイ君はこっそりと見張り臺の上に上って匍匐前進して、彼らの姿を確認する。どうやら、まだ迷っている様だった。
「……行くよ」
そこで私はケイ君に合図をして、伏したまま杖を構える。
「『闇の眷屬』」
「……!」
「お願い、シャード君」
私はシャード君を呼び出して、下に降りるようにお願いすると床に溶け込んでそのまま落ちる。そして、見張り臺の影を伝って無事気づかれずに彼らの背後に忍び寄ることに功した。
「ケイ君、お願いね」
「ええ、わかりました」
そうして私は見張り臺から手を出してシャード君に合図する。
「……?」
「どうした?」
「い、いえ、ただあそこに手が一瞬見えた様な気がしまして……」
「怖いこと言うなよ……」
の人の方に手を一瞬だけ出したのを見られてしまったが、全く問題無い。シャード君は影から現れて実化して団長さんの肩をちょんちょん、とれる。
「誰だ……っ!?」
「どうしたんす…………って、敵!?」
「……みたいですね」
振り返ってシャード君の姿を確認した三人はシャード君の様子を窺ってそれぞれの武を構えようとするけど、態勢は整えさせない。
「うっ!」
「団長! こいつ、いったいどこから……っ!」
突然現れて攻撃してきたシャード君に対応しきれずに、彼らは別方向に逃れることも忘れてり口の方に後退してくれている。元から見張り臺の影が屆く程度の場所にいたので追い込むのも容易だった。
そうして、三人全員がり口の側にり込んだことを確認すると私はシャード君に攻撃止めの合図をする。
「今だよ、ケイ君」
「わかりました、っと。『壁』」
ケイ君がいつものソレを唱えると、真下からズズズ、という重厚な音がしの揺れと共に聞こえてきた。揺れが収まってから見張り臺からを乗り出してり口を見下ろしてみると、り口の所がピッタリと長方形の石の壁で埋まってしまっている。外側には誰もいないので、一先ずらせることは功したみたいだ。
「あー、なんとか功したねぇ……」
「ほんとですね。壁はそんな早く生えませんから、乗り越えて逃げられてしまいますからね」
だけどほっとしている暇は無い。まだ始まったばかり、まだまだやることはある。
「功した?」
「うん、ばっちりだよ。あ、そうそう、ハープは戻ってていいよ」
「わかった、気をつけてねー?」
そうしてハープと私達は別れる。というかハープ、萬が一の付き添いだったけど終始笑ってただけじゃない?
まあそれは今、置いておく。
「で、ケイ君、あの人達今何処にいる?」
「はい。えっとですね……ここ、一つ目の丁字路の右側、つまり行き止まりですね。あ、引き返してますね」
そう、ウィンドウを広げてケイ君は言う。何故、フレンドでも無い他人の位置がわかるのかというと、第一回イベントの時に記念品と一緒に貰った三位以上への賞品の効果が、四點で囲んだ側のプレイヤーの位置報を専用の地図で確認出來るという代で、幸いギリギリで限界範囲に収めることが出來たのだった。
悪い所といえば、一人しかその専用の地図を所持出來ないというだけで他は特に何も無く、限りなく最高に近い恩恵をけている。
「うーん、確かこの後すぐ罠あったよね?」
「ええ、落としがありますね」
「……それってってるじ? 可哀想に」
「まあ、そのための溫泉ですし。それより、満足してお帰り頂けるように早く行きましょう?」
ケイ君の言う通りだ。という訳で、彼らの真橫の専用通路まで來た。
「うう、どうしてこんな迷路が……団長、もうそこら辺の壁の木折って抜けましょうよ」
「やめてくれ、下手にそんなことやって天井が落ちてきたりしたらどうしてくれるんだ。それに、そうした所でどうする。遠くから見たじかなりの規模だぞ」
「小規模ギルドっすよね…………小規模って何でしたっけ」
そんな聲が壁越しに聞こえてくる。いやぁ、そんなこと言って下さるとこちらとしても有難いです。
「あー、もう、それにしても寒い。何ですか、この微妙な壁の隙間は! 風がってくるでしょうが!」
「そうっすよね、ほんとここら辺寒いっす」
「こんな所にギルドホーム建てるなんて、好きもいるものだな」
好き、ねぇ……私、そんな特殊な持ってないんだけどなぁ。
この際それは置いておくことにして、
「ケイ君、今だよ」
「了解しました。『作』」
「なら早く抜けちゃいま……ってうわぁっ!」
「大丈夫か!?」
驚く聲が聞こえた同時に何か大きなが水に落ちた様な音がした。
「お、落としです……」
「そりゃ見ればわかるが……中のは、毒か?」
「え? い、いえ、違うと思います。ただ……」
「ただ?」
「滅茶苦茶冷たいです! お願いします、団長! 早く上げてください!」
そう。落としにっているというのは、水魔法Lv.3で覚える、熱湯/冷水の冷水の方だ。因みに、『作』とケイ君は言ったけど、『掘り』を使って落としを作っていたら任意スキルを手にれたっぽかったんだけど、あくまで任意と言うのか、出來た落としも落とすには『作』と言わなければならないらしい。
「お、おう……よいしょ、っと」
「大丈夫っすか?」
「だ、大丈夫よ……それよりも、ささっ、寒い……」
冷水を思いっきり浴びた彼は、柵作りの壁の隙間から吹く風も相まって、その震えた聲を聞いただけでかなり寒いだろうことがわかる。
可哀想なことだ。まあ、私達のせいだけれど、これも溫泉の為。それにまだ用意している罠は々あるので頑張ってもらわないといけない。
そうして彼ら三人を様々な罠や仕掛けつつ、ある程度神を削ってやった所でやっと迷路を抜ける直前の所まで來た。ここまでだいたい一時間は過ぎている。この間、勿論のこと新しい侵者さんはいなかった。
とりあえず、ここでまた私の出番である。
「あー…………やっと、終わり?」
「そうらしいな」
「まだあったら大変っすよ。なんすか、あの冷水の中、泳いで進まなきゃいけない仕掛けは……落としよりキツいっすよ」
「はは。まあ、何とか乗り切ったって訳……あれ、あれって」
「あっ、お兄ちゃん達じゃないですか! どうしたんです?」
「あ、え、えっとだな…………何か、襲われたんだよ、影みたいな敵にな」
団長さんはし狼狽えた様子でそう答える。不可抗力とはいえ、迷子で助けてあげた、自分のことを『お兄ちゃん』と言ってくるのギルドに侵したことになるんだから仕方無い。
「そうでしたか……それはお気の毒に。あっ、ということは私達の迷路を通り抜けたということですか?」
私はさも驚いた様な顔をして見せる。
「あ、ああ。そういうことになるな……ああ、別に謝らなくてもいい。実際に侵したのはこちらだからな」
そしてし申し訳なさそうにしてみると、そんなことを言ってきた。罠や仕掛けも含めてこちらに悪意があってやったとも知らずにね?
「あっ、では、これと言っては何ですが、大したおもてなしも出來ませんしお禮として溫泉にって行って下さい!」
「溫泉?」
ここぞとばかりに手を差し出して、後方の建を差してやると、彼ら、特にの人の表が変わった。そういえば、一番用心してたのに一番落としに落ちたのは彼だったっけ。
「ねぇ、りましょうよ!」
「うーん、でも何か怪しくないっすか?」
「何処がだ? あの子が俺達を騙す訳無いだろうが!」
「その理由は何処から……あの子の何が団長をそこまでにするんすか……」
「とにかく! って損は無いだろう?」
「はあ……わかったっすよ」
「決まりましたか? ではこちらへ」
そうして私は溫泉の建へと案する。ってすぐにカウンターで次に談話スペース兼休憩スペース、そして所で大浴場、巖風呂の天風呂付きだ。私は付のカウンターの所で々やりとりをして溫泉にってもらった。
その際、冗談っぽくその団長さんが一緒にらないか、とわれたけど、ここは生憎混浴で無ければ従業員が一緒にる様なそういう店でも何でも無い。
ほんと、変わり合が凄いものだから、口調が軽いじの男の人が言う様に私の何がそうさせるのか、私にはわからなければ、理解するつもりも無い。
「ふう……とりあえずお客様、第一號だね」
「意外と上手く行きましたね」
「それでユズ、次もやるんだよね?」
私は怪しまれない様にそのまま施設に留まっていると、ケイ君とハープが合流してきた。
「勿論だよ。でも出來るだけ多くとは言ったけど、やっぱりそんなに多くなくてもいいかな。だから、ペースはこのままでいいよ」
実際、彼ら三人だけで割と満足したので別にいいかな、と思ったからだ。
「そう? まあ、ユズがいいならいいんだ」
「俺も任せますよ」
「うん、ありがとね……あ、そろそろ上がって來るっぽい」
所の方から音がしたので、確認には行けないが念のためハープとケイ君にはまた何処かに隠れていてもらう。
「はー、いい湯だった。お、お前も丁度か」
「ええ、やっぱり冷えたには良いわね」
「やっぱりって損は無かったっす」
「だろう?」
「お気に召した様で何よりです」
「ああ、良かったよ」
「ふふ、ありがとうございます、お兄ちゃん」
満足した彼らはし涼んで休憩した後、帰る頃になって出口、ギルドホームに繋がってない方に見送りに行った。
「おう、々ありがとうな」
「いえ、して下さったことに比べればこの程度のことはどうってことはないですよ」
そうして私は営業スマイルで、出口であるに下りていく彼らを見送る。これで私の目的は、今回分は達した訳だ。さてと…………
「あとはよろしくね、ハープ」
「任せといて!」
うん。目的は達したけど、後処理はまだ終わってないからね。仕方無い、だってPK數もカウントされるのだから。
溫泉に毒をれるのはあからさまだし、私が直接手にかけるのは演技していたとはいえし気が引けるので、仕事がゼロに等しかったハープにやってもらうことした。
私は彼らをし気の毒に思いつつ、次はどうするかを考えながらPK數が+3されるのを確認するのであった。
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