《極寒の地で拠點作り》眠る
「あー、買った買った」
「良かったんですか? こんなに買ってしまって…………」
「いいのいいの。お金普段あんまり使わないから発しないと勿無いからね」
私は殆ど使わないし、と続けるハープ。何気に私もMP使わないんだよね。弱いモンスターは毆打でどうにかなるし、その度に使ったMPもアメジストのブレスレットで回復しちゃうし。
だからこれはケイ君とリンちゃんの分。特にリンちゃんは私達の中でも唯一の回復役だから大事にしないといけない。一応HPポーションも買っといたけれど道中はまあ私とハープがいるし何とかなるかな。
そうして用心に用心を重ねた遠征はちょっとのいざこざを越えてようやく始まった。
第二の街は、ここから東に真っ直ぐの所にあるっぽいので騒ノ會のギルドホームの近くを抜けていく。この間は見慣れたもので、何ら異常は無かった。ちょっとだけ問題となるのはその先だ。
「この辺から先は行ったこと無いから気をつけてね」
「はい!」
行ったことが無い。ただそれだけのことだけど未知の土地な訳だから油斷しないに越したことは無い。
「そういえば第二の街って元々あった土地の上に出來たのかね」
「いえ。どうやら完全に新マップみたいですよ」
「へえ、じゃあ前はこの辺なんだったんだろうね」
言われてみればそうだ。私達が常識を持ってないだけなのか、マップの端の話は全く以て聞くことは無い。噂だとワールドの反対側、つまり東の端は西の端に繋がってるっぽく、南北も然り。見えない壁がある、とかいう話は聞いたことが無いので多分繋がってる説で正解なんだろう。
「それにしても景変わんないね。もうちょっと見たことないじの土地にしてくれても良かったのに」
「何。つまり、よくわかんない植がいっぱいのジャングル何これすごーい、ってじの?」
「あっ、ユズさんがまた頭の中メルヘンしてる…………あ、いえ、ナンデモナイデス」
私の演技力高い例えをメルヘンとか言って馬鹿にするケイ君を咎めると固まって謝ってきた。
それは置いといて、ハープの言う通り、代わり映えの無い風景が広がるだけだ。まだ舊マップと新マップとの境目からそんなに離れてないだけかもしれないからかもしれない。
だけど、まあ実際こんなものなのかも。南にせよ、西にせよ、ここ東にせよ三方向は気候や地形は違えど何処でも木が生い茂っていた。なお、北は生い茂るどころか生えてること自珍しいレベルだ。
「敵も弱いし……」
「良いことじゃないですか。第一、こんな普通の森で強いのなんて居ないですよ」
「そうですよね。それこそ、ダンジョンとかに居ると思います」
「まあいいじゃん。イベント明けだし、あんな大規模な戦闘したばっかだし。ちょっとハープもゆっくりしてもいいんじゃないかな」
「うーん、まあそうなんだけど。こう、辺りを見回しても木、草、木、木、花、人、鳥、木なんて…………ん?」
あれ?
「え?」
「はい?」
「ハープ。もう一回」
「木草木木花人鳥木」
うん、聞き間違いじゃない。
「人だよね、確かに」
「倒れて、ます?」
リンちゃんの指差す方向、そこにはパジャマ姿とでも言えばいいかな?
まあ、そんなじの子が地面に伏していた。
「あのー、大丈夫?」
「う、うぅ…………」
「良かった。反応はあるね」
し起こして揺さぶってみたら、き聲がしたので大丈夫そうだ。そこで気づいたんだけれど、このの子はNPCだった。辺りには特徴的なは何一つ無い。ハープの言う通り、草木が生い茂るのみ。これはもしかするともしかしなくてもアレかもしれない。
「ここは……? あたし、どうしてこんな所に居るのかしら……? 貴方達は、知ってる?」
「知る訳ないでしょ」
クアイさんの途切れ途切れの喋り方とはまた違った、眠くなる様な途切れ途切れな喋り方で初対面なのにそんなことを聞いてきたので、ハープがドライに返す。
「そっかぁ…………じゃあ、おやすみぃ」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ!」
しかしはハープの冷たい返答にもじず、あろう事か再び就寢制になってしまった。
「何ですかぁ?」
「どうしてまた寢ちゃうの?」
「……?」
制止をけて、起き上がったけれどその問いの意味がよくわからないみたいな顔で可らしく首を傾げる。
「だーかーら、放っておける訳ないでしょ? だから私達としてもどうにかしたいから、貴方がどーしてこんな所で眠ってて、尚且つまた寢にっちゃうのかなって」
「……?」
「っ!」
「わわっ!」
「あっ!ハープ、抑えて抑えて……ね?」
「そうですよハープさん。こんな子にそんな怒っても仕方無いじゃないですか」
NPCだから反応のバリエーションが乏しいのかもしれないけれど、その反応にイラッと來たらしいハープが摑みかかりそうなものだからこれはいけないと思って抑えさせた。
リンちゃんの時にせよ、ハープはとことん初対面というか知らない人に厳しい。しでも危なかったりこんな態度だったりするとこうなっちゃう。まあ、そのリンちゃんの時はバリバリ首筋にダガーだったから優しいと言えばまだ優しいけど。
「あっ…………ごめん」
するとハープは申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「……?」
「でもまあ、ハープの気持ちはわからないでもないよ」
それでも、今言った様に気持ちはわかる。相変わらず首を傾げるだけで狀況が変わらない。
「確かに、これじゃ埒が明きませんよ」
「で、でもっ! この方もきっと頑張って伝えようとして……」
「……?」
「……して、ると、思い、ます」
この通り、ケイ君は勿論のこと、リンちゃんまでもが庇えずにお手上げだ。
どうしようかと考えた時、ふと辺りに何か忘れたけれど何処かで聞いた様な音が響いた。
『クエスト:眠る』
「ひゃっ!?」
靜かな森にいきなり響く効果音と開くウインドウに素っ頓狂だけどやっぱり可い聲で驚くリンちゃん。
「あー、やっぱり來たね」
「ユズも來ると思ってた?」
「そりゃあね」
こんな何も無い所にの子のNPCが獨りぼっちなんて絶対何かあるに決まってる。その何かがクエストだった訳だ。
連鎖系のクエストかもしれないし、場所も場所だからレアな奴かもしれないので、こんな容でも『YES』を押す。
「それで、どうしましょう?」
「つまりこれって、起こせってことでしょ? NPCだからとりあえず話しかけ続けてみるっていうのはどうかな」
「アテも無いしね。ユズに賛」
「私も賛です」
「賛です。では早速……あのー」
そこから十數回に及ぶ靜かな闘いが繰り広げられたけれどどれも応えは、
『……?』
で、何の変化も見せない。この方法は失敗だったね。ただ、何度か起こし続けるに寢言を言う時があるのが確認出來た。その容を聞くと、
『んぅ……るーちゃんのお菓子、勝手に食べちゃったけど、許してぇ……』
『ふふぃ……るーちゃんてばぁ……』
『るーちゃん……待ってぇ……』
と、『るーちゃん』という人が頻繁に登場した。
「これってつまり、その、るーちゃんを連れてこいってことなんでしょうか」
「いや、連れて行け、かもしれない」
「何にせよ會わせなきゃいけないってことだね」
その子……いや、歳はわからないけど、るーちゃんとやらを見つけた時にこの子本人が居ないと二度手間になる。そうやって考えると、連れて行った方がいいかもしれない。
「うーん、じゃあ連れて行こう。その方が々と楽でしょ? この子、NPCだけど移不可能なオブジェクトって訳じゃないみたいだし」
ハープはそう言うけど実際NPCを何処かへ連れて行くのって普通出來るのかな。
聞いた話だとある程度までは押していったり引っ張っていったりで進ませられるけれど、その範囲を抜け出すと強烈な押し戻そうとする力が働いて進みにくくなるみたい。
どういう拠かは知らないけれどハープは移に問題は無いって言った。まあ、見えない力が働いたら働いたらで待っててもらえばいいからそれでいいか。
「いいですけど…………誰が運ぶんですか?」
「そりゃあ勿論、ケイ。アンタでしょ」
「やっぱりそうですか……」
ハープの決定に対して一応聞いてみちゃったであろうケイ君は、案の定押し付けられてがっくりしていた。
「何よ。男でしょ?」
「いやぁ、力だったら俺じゃなくて明らかに…………」
「何か言った?」
「い、いえ! 何でも、無いです。ハイ」
反論虛しく、威圧されたケイ君は渋々納得してを負ぶる。
「……で、何処に行くんですか?」
そして連れて行くにしてもなければならない、肝心のクエストの目的地を考える。
「うーん。この子のクエストは明らかに今回のアップデートで追加されただろうから、探すなら第二の街かなぁ」
流石に森の中を隈無く探せ、なんて酷いクエストではないと信じたい。
「むにゅ…………」
「あ、ケイ君、大丈夫?」
「ええ。大丈夫ですよ、これくらい。っしょと」
「ケイさん、ファイトですっ!」
「っ! あ、ああ、頑張るよ」
リンちゃんに激勵されてし狼狽えるケイ君。やっぱり微笑ましい。
「ふふっ、じゃあ行こっか」
「そうね。ケイもリンちゃんに応援されて元気出たと思うし」
「なっ」
「?」
結局、第二の街に向かうことに変わりは無かったのだけれど、それからの道中でもよく理解していないリンちゃんに応援され続け、ケイ君はちょくちょく揺しなければならなくなるのだった。
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