《極寒の地で拠點作り》ダンジョン再突
「えーっと? なんだっけ……ユズわかる?」
「ダンジョンでしょ」
「あー、そうそう!」
私達は今、街の出り口辺りにダンジョン探索に向かう為に居る。
驚いたことに、皆してダンジョンのことをすっかり忘れていたらしい。あの時は元々報酬の件が終わったらログアウトしようって決めてたから自然な流れで終わったけど、あの後ダンジョン行こうって決めてたらどんなことになってたんだろう。
「それにしてもどうして忘れてたんでしょうか」
「不思議ですよね。行ったばかりなのに」
「こればっかりは考えてもしょうがないよ。それに過ぎたことだし別によくない?」
「そうだね。じゃ、この話終わり!」
「さ、皆。準備大丈夫?」
「HP良し、MP良し、裝備良し! 問題無いです!」
「ポーションは大丈夫か?」
「はい!」
「良いみたいね。なら、もう出発しようか」
若干の疑問を殘しながら、とりあえずあのダンジョンらしき窟に私達はもう一度向かってみることにした。
そして、目印になる様なは何もなかったから的にどういう道かは覚えてないけれど、何となくで例の橫に辿り著くことが出來た。
「改めて見ると見つけづらいね」
「ルミナちゃんもよく見つけたよこんな」
「しかもその先に何があるとも知らずにですからね」
そういう設定、と言われれば終わりだけれど、それ言ってたらキリが無いし、第一雰囲気を壊すものじゃない。
そんなことを考えつつ、相変わらず狹苦しい橫を抜けてとっとと窟にってしまう。
「ふぅ。あ、腰が……」
「そんなまだ私達十六……って首が……」
「はは。二人共、いつの間にご老になって、大変で……いっ! 肩ぁっ」
「皆さん大丈夫ですか?」
三人しての何処かが痛くなってしまうのは、背の問題なので仕方無い。周りからして長はそんなに高くない、寧ろ低めと言えども、低い天井を無理な勢で暫く進むには低さが足りないと言える。まあこれ以上低くなっても困るんだけど。
でも絶対これ、一回目通った時より狹くなってるよね。まだ通れる様にしてる辺り嫌がらせかな、って思う。
「と、とりあえずあの立て札の所に行こうか」
リンちゃんに今回はフラッシュをしてもらい、そして首の痛みが和らいできた頃、気を取り直して提案する。例の立て札についてだ。
「立て札って、前に言ってた奴?」
「そうそう。それに何か書いてあったんだよ」
「リン、見てないか?」
「すみません……ああでもっ、最後にっていった方と逆側に向かって矢印がびていたのは覚えています」
そういえば、リンちゃんにどうしてあの場所に居たのか聞くのを忘れてた。それも多分、謎の忘れがあったからだと思うけれど、もうし早く思い出していれば良かった。
「リンちゃん。聞き忘れてたけど、どうしてあの場所に居たのか覚えてる?」
という訳で今、立て札の方に向いながら聞こうと思う。忘れてたら仕方無い。この道で立て札じゃない方、つまり逆方向で橫にらずに道なりに直進していく形で下っていこう。
「はい! あの時は……その、必死、だったので斷片的ですが覚えています」
リンちゃんは『必死』の所でチラッとハープを見て確認した。あ、駄目だリンちゃん、思い出させちゃいけない。
「ん?」
しかしハープは何事も無い様ににこにこするばかり。うーん、まあ良しとしよう。
「窟にった後、すぐに落としに落ちてり臺に乗せられて……そうしたらこの坂の更に奧、あのを通らずにです。そこのちょっと広がっている所に連れて行かれました」
そうだったんだ。というか窟ってすぐってのもアレだけど、り臺って…………私達三人すっごい雑な扱いだったんじゃない?
「それで登ってきたってじ?」
「いえ。皆さんの予想していた通り、かなりり組んで迷路の様だったというのと、そこに居るようにと仰ったのでそこに留まることにしました」
へぇ、やっぱり複雑なんだ。そこに行くとしたら時間掛ければ何とかなりそうだけど、ちょっと大変そう。
リンちゃんは続ける。
「しかし、私も何かしら行を起こさないと皆さんと會えないと思いました。なので、敵が居ないことを確認して道の一つを選んで進みました。その結果があの時のことになります。でも良かったです。あの時ああして決めてあの道を選んで進んでいたので會うことが出來ました」
「そうだね。あの二人を追いかけてたら外に出ちゃってたもの」
まあそうだとしても第一目標はリンちゃん捜しだったけど。
そうやって、事の経緯を聞いていたらいつの間にか分岐點に著いてしまった。
「さてさて立て札はー?」
私が先頭へ行き、覗き込む様にしてそこに書かれているであろう文字を読む。そこにはなんと……
『この先、出り口
              ←             』
「なんと……何とも無かったよ……」
がっかり。『この先、中心部』とかだったら手っ取り早くて良かったのに。
「まあまあ。り口じゃなくて出り口なんだからなくともそこから出は可能なんでしょ? それが見つけられるならそれでいいじゃん」
「ちゃんとしてなきゃ意味無いですけどね」
「細かいことは行ってから。それだけの価値はあるでしょ。いざと言うときの為にさ?」
「ハープの言う通り。それじゃ、確認したら今度はさっきの所より奧。リンちゃんの言った所に行こう」
「大丈夫でしょうか…………」
「大丈夫大丈夫。寧ろ私達は進む為に來たんだから!」
そうして私達はもう片方の道から出り口へと歩を進めたのだった。
その後無事に坂を上りきり、そこが、走り切ってその先が崖だった、なんてそんなことは無いちゃんとしただということを確認出來た。
ちょっとの休憩をれた後、私達は張り切って奧へと下ろうとするのだけれど、その休憩でわかったことがある。
出り口はわかったし、外に出れば転移の石で跳べるので本來なら必要無いんだけど、さっき言ったみたいにここまで走り切る様な出來事。例えば何かに追いかけられたり、押し出されたり。
そうした時、必死で何処かへ逃げるだろうから冷靜に確認出來る今のに念には念をれて現在地くらい調べておこう、ということになった。
そこでだ。ケイ君があることに気づいた。
『あれ? ここ、何処かで…………』
地図をじーっと見つめて唸るばかりのケイ君だったけれど、暫くしてから、目を大きく見開いて顔を上げた。
そこからケイ君が言ったことには、このダンジョンが神様の言っていた、『邪の毒杯』のダンジョンである可能が高いらしい。どうにも説明してもらった時の侵口とやらがここに當たるっぽい。
さっきから、可能が~とか、っぽいが付くのは、ほら、神様って実じゃないから指差すとか出來ないんだよ。地図で説明するにしても口頭。大雑把にしか教えられない。
続けてケイ君は、その説明で大そこって言ってたし、口頭でしか出來ないことを神様も知っているだろうから他のダンジョンが近くにあるなら紛らわしいので気をつける様に言ってくれるだろうと思ったみたい。なので、これらの點からここが『邪の毒杯』ダンジョンであることに間違い無いと、そう纏めた。
そんな訳で、ここがそれなりの難易度であることを理解して気持ち改め、たった今、あの時リンちゃんが落ちてきたという空間に辿り著いた。
「やっと著いたぁ」
「これでもスタート地點なんですがね」
來る途中も一度目と変わらず、到著するし前から今この空でもほんのちょっともやがかかっているけど、気にする程じゃないし狀態異常にもなっていないので演出ってことで放っておいた。
「それで? リンちゃん、何処に沢山分かれ道があるの?」
ここはただ広場っぽく空になっているだけで、今來た道と更に奧に進む道がそれぞれ一本あるだけで迷いどころが何処にも無い。
「え、ええっと…………おかしいです。確かにここにはもっとがぽこぽこ出來てた筈、筈なんですけど」
「そもそも空への道を間違えた……なんてことは無いよね」
「ではこれもダンジョンの仕業と考える他ありませんね」
「でも、それなら何の為に?」
そうだとすれば、目的がわからない。自我を持っているとしても完全自だったとしても、わすようにしてある造りを態々消す様なことは無意味なんじゃないかな。
「諦めたんじゃない?」
ハープが笑みを浮かべてそんなことを言う。
「それは無いんじゃないですかぁ? もっとこう、あると思いますけど」
突然、珍しくケイ君がハープの冗談に煽り気味に食いつく。珍しくというか基本的に今まで無かった。
「ならどうする? 悶々と理由を考える?」
私としては、ダンジョンさんがこうしてくれた以上やることは決まってる。というか変わらないかな。
「ユズはどう思う?」
「? そりゃあ進むでしょ。それ以外無いよ」
ちょっとケイ君が変だけど私は私の考えを伝える。するとハープはニヤッと私に笑ってからケイ君を見遣ると、ケイ君は溜め息を吐いて肩を竦めた。
「ユズさんならそう言うと思って聞きましたね。ええ、でもいいんです。別に最初っから反対するつもりなんて無いですから」
「…………じゃあなんで煽る様な言い方で続けてきたのよ」
らしくも無い巫山戯た態度で応えたケイ君に対して、同じくいつもならこんなことではまだ笑ってるハープが、完全に怒りモードになって怒気を放って問うた。
「それは……どうしてでしょうか。ふっ、煽りたくなったから?」
「わわ……」
明らかに違うケイ君がストレートなことを言うとリンちゃんは慌てる。ここで私は、ようやく二人がおかしくなっていることに気づいた。そして同時に嫌な寒気が私を襲う。私自はどうってことないけど、この変化のしようは何処と無くアレに酷似していたからだ。
私は反的にぶ。
「二人共! リンちゃん! とりあえず奧に進むよ!」
「ふぇ……はっ、はい!」
「チッ……」
「ふふっ」
この変化の原因であろう、立ち込めるもやはこの空の壁から吹き出ていることがわかった。だとすればさっさとここから抜けてしまうのが良い。奧の道は上り坂になっていて、下に溜まるらしいこのもやを溜めておくためっぽいのでますます原因がもやだと思えてくる。
そうして私達はもやの無い所まで走り切ることが出來た。全く以てタチが悪い。いや、こればかりはタチが悪いじゃ済まされないよね。これで、私とハープは……ああ、思い出すだけで嫌になってくる。
「どうして俺はあんなことで……すみませんでした……」
「ケイのせいじゃないのよ。悪いのはこのダンジョンなんだから」
二人は元の様子に戻ってくれた様で安心した。ハープは落ち込み気味のケイ君の肩に手をかけてめている。
唯一の救いは、アレ、つまり神様のダンジョンでやられた黒いもやは問答無用で襲いかかってきたからあんな目に遭ったけれど、今回のはアクションをこちらから起こして初めて発する形だったことだ。
それでも、許してはいけない。私は神様については割と心許してる方だと思うけど、その件だけは今でも完全に許してはいない。それと同じだ。もしかしたら、私達の間にを作っていたかと思うと、怒りで私の中のどす黒いが湧き上がってくる。
「ユズさん!」
「うぇっ!? な、どうしたのかな、リンちゃん」
突然、じゃないか。このじだとずっと呼びかけてくれていたみたいだ。
「い、いえ、とても怖い顔をしていらしたので…………」
「あ、そう? あはは、私そんな顔してたんだー。心配かけてごめんね」
そうだ。確かに許せないことではある。
けれど我を忘れるつもりでやるのは良くない。それに、相手の本意じゃなくとも、今みたいな狀態になっていたら対象は違えど怒りに支配されるという點では、結局もやに侵されているのと同じことになる。
私は再び気を取り直してリンちゃんと一緒に心配してくれる二人に大丈夫と言う。ハープは私の気持ちがよくわかっているので、特に心配してくれた。優しいね、皆。
「ありがとう、三人共」
「なーに言ってんですか。俺はユズさんに救われたんですよ?」
「そうそう。私もこの手のは二度目だってのにまんまと引っかかったんだから!」
「私は慌てるばかりで……ユズさんのおです」
何も知らない人からすれば、あんな小さなめ事で大袈裟な、と思うかもしれないけど今回は本當に危なかったのだ。ほんと、『些細なこと』で終わらせることが出來て良かったと思う。
「よし! じゃあ、皆、元に戻ったことだし。奧に進んじゃおう」
「はいっ!」
そうして私達は無理矢理にでも明るさを取り戻して雰囲気を良くしながら、気をつけて最奧へと向かうのだった。恐らく次の罠は同じでは無いだろうけど、今の私達ならどんな神攻撃でもきっと乗り越えられるだろう、そう思った。
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