《極寒の地で拠點作り》依頼の続き
「あぁ……」
「うわぁ、こりゃ相當だね」
「そうね、手加減なんてしなかったもの」
「はわわ……」
たった今、一人の男が後ろ手に縛られて椅子に座らされている。彼は虛ろな目で何処か遠くの方を見ている。
さて、この見るも無慘な男の人はさっきまで私達が戦っていた八人組の生き殘り、ローズィさんの初手攻撃で真っ先に退場した彼である。元々一人では抜け出せない深さだったのと、例の立方が蓋の役割になってしまったことも相まって結局最後まで助けられることもなく、やっと出られたと思ったら捕まってしまったというじだ。
勿論、別にこれはたまたまこうなったという訳ではなくローズィさんの意図によるものだ。では何故生き殘らせたかと言うと、リザさんがし前に言っていた様に『お話』を聞くため、要するに何故襲ってきたのか、他にも襲ってくる人間が居るか等々聞き出すということだ。
ただ最初は、普通に聞いても知らん顔されるだけで埒が明かなかった。そんな訳でローズィさんとリザさんは同じく言っていた様に話を聞いて『あげる』ようにするために々工夫を始めたのだった。
『貴方、高い所は好きかしら?』
まず初めにローズィさんは、作り出した背もたれ手すり付きの石の椅子に拘束した彼に一つだけ質問をした。
答えはイエスでもノーでもなく曖昧なもので、私は何をするのかわからなかったけどとりあえず高さが関係しているんだろうというのはわかった。
ローズィさんはそれに対し、興味無さそうに返してから何やらリザさんと話し合っていた。數回相槌を打ったりした後、答えが出たらしくそして何故か二人は私に下がるように言った。
瞬間、彼の座っている椅子が縦にびた。それも尋常じゃない長さに。ぽかーんとしているにもグングンびるソレは最早椅子ではなく天の柱と化していた。
そしてそれがようやく止まったと思った時には、それなりの高さになって彼はかなり小さく見える程になっていた。
どういうことか何となく理解出來たけれど一応話を聞いておく。
『人間誰しも本能的に高い所では恐怖をじるものよ。彼が普通の人間だったならこれだけでも充分怖いとじるでしょうね』
ローズィさんが行ったのは彼を高所に置いて恐怖に曬すという至ってシンプルなもの。因みにこの時、リザさんが私に見なくてもいいよ、と配慮してくれたけれど私は大丈夫と言って斷った。あの人はもう居ない訳だし、私の周りには皆さんが居るから。
まあそれはさておき、ただ高い所というだけでは時間がかかり過ぎるというので工夫があるらしい。
『た……て、れ!』
今日は風があまり吹いていないけれど距離が離れているので途切れ途切れにしか聞こえないけど、助けを求めている様だ。よく見たら彼のは徐々に前に傾いていっている。どうやらこれが工夫みたいだ。
『これ自を傾けなくても面の角度は自由に変えられるの。因みにちゃんと固定してあるから例え逆さまになっても彼は落ちないわよ』
と、ローズィさんの安全設計でしっかり聞き出すことが出來そうだ。見てみれば既に垂直に近い角度になっていた。彼は今も何かをんでいる様だった。
それから……私、気づいちゃったんですけど、そもそも聲ちゃんと聞こえないのってこの場において致命的な問題じゃ?
そう思ってローズィさんに聞いてみたら、
『これは予定通りよ。私を襲撃しようと企んで実行した上に、こちらが勝ったのだからその後の処置をどうするかは私の勝手。一度潰すのは決定事項。話を聞くのはその後でも問題無いでしょう?』
私に手を出せばこうなるって思い知らせてあげる、と変に意気込むローズィさん。それに反対するつもりも無いのでその方針に従う。
しばらくすると男の人はすっかり大人しくなってしまった。その様子に満足したのか、再びリザさんと話し合ってから椅子を元の狀態に戻した。
「あぁ……」
そして最初の場面に戻る。
元に戻ってからも変わらずグロッキーな彼は、リザさんに肩を叩かれてハッとしたかと思えばガタガタと目に見えて震え出して、何でも喋るから許してと懇願し始めた。
そこからはかなりスムーズに話が進んだ。
ローズィさんが聞いたことと言えば襲撃の機。こちらは例の記事に載っていたことが起きた後、ローズィさんの力をした彼らが無理矢理にでも自分達のギルドに引き込もうとして今回の件に至ったということ。寄せ集めと言っていたけど、この人とあのよく喋っていた人、それから案をしていた人がそのギルドのメンバーで、殘りの人はお金を報酬に募集で集まった人らしい。
それから、バックに何か大きな存在が居たりしないか。答えはノーで、完全にそのギルドだけで計畫されたものだという。
他にも々聞いた後、ローズィさんは彼にギルドを代表して二度とこんなことをしないという誓いを立てさせ、掲示板の記事を消した上で自分の存在をこれ以上外部に洩らさないことを約束させた。
「助かっ……ぐふっ」
そしてローズィさんはリザさんに目配せして、彼を解放した。無論、解放という名の一突きだったけれど。
「いやー、疲れた疲れた」
「お疲れ様。悪いわね、こんなことに付き合わせて」
「問題無いですよ。私はこういうことに慣れてますから。あ、それにしてもリンちゃん、ナイスプレイだったよ!」
「ふぇ? あっ、ありがとうございます!」
突然の褒めにし驚いてしまった。私はそれを素直にけ取っておく。
「さて、帰りましょう」
そうして私達はローズィさんの家に戻ることにした。それからちょっとしたことだけど、到著するまでがし長くなった様にじた。多分、行きは張やら意気込みやらであんまり心の余裕が無かったからだと思う。
ローズィさんは家に上がるなり、元のとんがり帽子の魔法使いの姿に戻っては未だに掃除をしていたケーフさんに罵聲を浴びせていた。
私とリザさんは初めの様にローズィさんに促されて椅子に座り、彼もまた機を挾んで対面に座る。そしてローズィさんから依頼について延長を求めてきた。
「人が來るのも珍しいのよ。だからもうしだけ居てくれないかしら」
「あ、はい、それは構いませんが……その、そんなに踏み込んだりしませんけど」
そんな風に言って頼むローズィさんに私はちょっと失禮かもしれない一つの疑問が浮かんだ。
「歯切れが悪いわね。何、言ってみなさい?」
「ええ、あのその、ローズィさんって現実世界に周りの人……その、お友達とか居ないんですか?」
「うぐ……ぁ!」
するとローズィさんは珍しく苦しそうな顔で苦しそうな聲を発して蹲った。
「えっ、ローズィさん?」
「リンちゃんは『一言必殺』を覚えた!」
「そんな技要らないですよ! ってああ! ローズィさんごめんなさい!」
リザさんがふざけて謎のアナウンスをして、それから戸う私を笑ってくる。
「リン、謝らないで、慘めになるから……」
「えっ? あっ、すみません……ってごめんなさい! 言っちゃいけないんでした!」
「ぐふっ……」
「あちゃ、これもう無限ループだね」
リザさんは他人事みたいに呑気に笑う。
高校生とか大學生になったら、獨りぼっちがどうのこうのっていうのは見たことがあるけどちょっと失禮どころじゃなく、まさかここまでとは思ってなかった。だってリザさん含め、周りの高校生の人達がそういう雰囲気を出していなかったんですからしょうがないじゃないですか。
「……そうよ。中學で周りが恵まれていたから高校でも行けるだろうと思っていたらこのザマよ。高校はまだマシだったけど、大學と來て職に就いてからもプライベートな會話には殆ど踏み込めていないわ」
「あ、あの」
「笑いなさい。ふふふ、笑えばいいわ!」
私が止めようとした所でローズィさんのキャラが崩壊し始めた。それをリザさんがまあまあ、と宥めた時、ふとリザさんは何かに気づいた素振りを見せる。
「ローズィさん、そういえば最初に比べて喋るようになりましたね」
「そうですね。表もよく変わるようになりましたし」
「ええ、いつもこうなのよね。いつの間にか……」
「うーん、ローズィさんってアレだよね。典型的な、親しくなればとことん親しくなるけどそこまで行くのが大変なタイプ」
思い當たることがあるのか、ローズィさんはし考えて、そうなのかもしれないと呟く。
「あれ? ならどうして私達はこうまでになったんですかね」
こう、とは今言っていた様な過程をじさせずに自然に話せるようになったことだ。そもそもそうなるにあたって何かとくべつなことってありましたっけ。
「ん、それ多分……てか絶対だけど、原因あの戦闘でしょ?」
「何、つまり戦闘の中でお互いの心が通じ合ったって言うの?」
そんな如何にも年漫畫みたいに、と呆れるローズィさんだけど経過を殆ど終始、客観的に見ていた私としてはあながち間違いだとは思わない。
「私自、割と良い経験になったと思いますよ。連攜こそそんなに出來なかったけど、聲掛け合ったりしましたし」
「信頼が生まれたってことになるんでしょうか」
「うん。なくとも私はローズィさんを信頼してるから」
躊躇いもなくリザさんは言い、そしてちらっとローズィさんと目を合わせる。數秒後、折れたローズィさんは一つため息を吐いて口を開く。
「そうね。私も貴方達のこと、信頼してるわ。まったく、恥ずかしいわね……」
そうして帽子のツバを引いて顔を隠そうとする。そんな仕草も、最初は有り得なかったことだったろうからし嬉しい。
「ま、そんな所ですよ。要するにローズィさんは人と仲良くなるにはきっかけがあればいいってことです」
「きっかけ、まあ結局はそこよね。最初は、ゲームの中で、しかもこういうジャンルのだったら簡単に出來るだろうと思ってたら全然駄目だったわ」
「そんな的じゃ駄目ですよ!」
「行は起こしたわ」
「どんな?」
「……南部の草原に力試しの意も加えて開けたり巖落としたりしたのよ」
「えっ?」
とすると、謎の大とか立方とか騒いでたアレってつまりただ単にローズィさんの囁かな意思表示だったってことになるんでしょうか。それはそれでミステリー出るから良いのかもしれませんけど。
何にせよ、そういう目的でアレらを造ったのは驚きだった。
「まだです、まだまだ消極的ですよ」
「ええ、だから話しかけるというストレートな戦法に出たんじゃないの」
「あ、私達ですか?」
そう、とローズィさんは頷く。
「ならあの調子で行けばいいじゃないですか」
「同年代だとし……ね」
「あーそういうじかぁ」
うーん、とリザさんが深く頷いて考えているとローズィさんが口を開いた。
「ええ、でもいいの。私も一応、學生時代の友達は居ることには居るし、今でも流はそれなりにあるから」
「え、でも……!」
最初、苦しそうに見せたけれど実はそんなでもない、とローズィさんは私の言葉を制して小さく笑って言う。
「それに私、無人島に住んでるんじゃないし人との関係に飢えている訳じゃない。ゆっくりある程度作っていくわよ」
「ローズィさん自が言うならこちらからは何もないですよ。でも大丈夫ですか?」
「問題無いわよ。仮に出來なくともゲームを楽しめばいいじゃない。せっかく手にれたこの特別な力、埃を被せておくのは勿ないわ」
まあし納得は出來ない所もあるけれど、リザさんの言う通りローズィさん本人がいいと言っているのだから別にいいのだろう。確かにこの世界は流の場もあるけどそれ以前にゲームだから、何とかなることもあるかもしれません。
そういえば今の何とかなる、で思い出したことが出來たのでローズィさんにそういえば、と聞いてみる。
「その力ってユニークシリーズですか?」
「ええ、多分そういうものにるんでしょうね」
そうでなきゃ、あの戦闘で見た様な技は見られないと思う。そしてローズィさんは続ける。
「ゲームを楽しむにしてもあんな技使ってたら私の存在に誰かが気づくのも時間の問題ね。私、人気者にはなりたくないけど不本意ながらそうなるかもしれないわね」
そうなれば友達も、と冗談気味に言いつつも夢を見るローズィさんに私とリザさんは苦笑いするしかなかった。
何故ならそういう技を持って、不本意ながら恐怖の対象として有名になってしまった人が私達の近くに居るから。誰とは言いませんが。
「ふふふ……」
「あはは……」
そこから暫く、その希の篭った笑いは私とリザさんを困させ続け、こちらも苦笑いを続けるしかなかった。
そんな狀況になりながらも、リザさんが機転を利かせて話を盛り返したりしてその後も特に問題無く楽しく過ごすことが出來た。
気がつけば頭の上に居た太も既にそのを遠くの山にを隠し始めていた。
「はは…………んじゃ、もうこんな時間だし、そろそろ帰ります」
「わ、私も洗濯とか……」
「そう。今日はせっかくの土曜日だったのに悪かったわね」
「いいんですよ。どうせ今日も何処かのプレイヤーに喧嘩売ってたと思いますし、丁度良かったです」
「私もローズィさんと出會えて良かったです!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
そうして、私とリザさんはローズィさんとケーフさんに玄関先まで見送られ、その後リザさんとも別れて転移の石でギルドホームに帰った。
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