《【お試し版】ウルフマンの刀使い〜オレ流サムライ道〜》一章04
狩る、狩る、狩る。
だがしかし、得られるものは全て『ボロボロの皮』のみ。
ダメージを顔面のみに収束させ、ボディが無傷でもボロボロの皮判定だった。
一どうしろって言うんだよ。
闇影はその間にふわふわを量産してくれているが、《品質:高》なのは最初だけで、あとはずっと《品質:低》が続いていた。
ちょっとタイム。ST切れだ。
納刀して、闇影と集合する。
もうHPもSTも盡きかけでござる。
あ、闇影の口癖が移った。
くそっ。
「いやぁ、全然ダメだわ」
「クエストクリアの道のりは一日にしてならずでござるからな。気軽に行くでござるよ」
「そうはいうが、金欠でな。ちょっとアテにしてる部分がある」
「そういえば結構死に戻っておったな」
「……それよりも痛手なのがコイツだな」
死に戻りという認めたくない現実に一瞬無口になり、再起してから腰にかけている刀をポンと叩いてカチャカチャと鳴らした。闇影め、痛いところを突いてくる。
なにせこの刀は種族特の《武苦手》と相反するモノだ。
確かにロマンは求めたが、その結果が悪い方に転がり続けるとは思わなかった。
初心者あるあるってやつだろう。
あとで幾らでも巻き返せる。そう思ってたんだがなぁ……
「ふむ?  それはいくらしたでござるか?  拙者の見立てではひどく稚拙な出來でござるが……」
「4500Zだった。ちょっと高かったが、門出に刀を攜えてスタート出來るなんて、と気分が高揚してな。一括で支払った。いい買いをしたなって武屋の親父もニコニコしてたぞ」
サムズアップしながら満面の笑みで答えてやるが、闇影の反応は最悪だった。
「…………」
「おい、なんだそんな殘念な人を見る目は。距離をとって他人のフリするなよ、おーい」
「いや、それは流石に吹っかけられすぎというか……もうし相場というを勉強してから……いや、ウルフの格変調が悪さしているでござるな。本來のマサムネ殿の聡明さが微塵も殘っておらん」
それは言い過ぎじゃない?
「待ってくれ、確かに高い買いだったが、あとで幾らでも取り返せると思ったんだよ」
「………それで死に戻っていたら世話ないでござるよ」
ごもっともで。
「……なぁ、闇影。これより楽なクエストってなかったのか?  初心者には厳しすぎると思うんだが」
雑談しながらホーンラビットの首を刎ね飛ばし、アイテムにボロボロの皮のストックが嵩増しされる。
この無限連鎖はいつ終わるんだろうな。ちょっと億劫になって來たぞ。
「殘念、これが一番楽なやつでござる」
「マジか……」
難易度がクソだとは聞いていたが、ここまでとは思わなかったでござる。
あ、またこの口調……長いこと一緒に居過ぎて毒されてんのかな?
ホーンラビットの討伐も大分慣れて來た。80%くらいは闇影のサポートあってのものだが、討伐速度は上がり、狩りは最早作業になっていた。
これを足がけにLVUPを図り、効率を上げたいと思うのは一般的解釈なのだが同LVのホーンラビットをいくら狩っても一向にあの高揚を得られることはなかった。
アイテム欄のボロボロの皮が3スタック目に突する。一貫してそれ以外のドロップが無いのは種族特な気がしないでも無い……無いよな?
闇影はそんなの実験でも報掲示板でも聞いたこともないと言ってくれたが、だいたいにして1枠(スタック)99個が3枠貯まるってどういうことだよ。
もはやドロップ品がこれに固定されているところまで見えたぞ?
これ以上は無理ってことで二人揃って街に帰ることにした。
ST切れなら休む事で回復できたが、EN切れじゃ本日の作業が無駄に終わるという事で引き上げて來たのだ。
なにせ途中で死に戻るとなったら高確率でレア素材をその場にドロップしてゴミだけが手元に殘るクソ仕様だからな。
闇影も引き際を見極めるのがこの世界で生き抜くコツだと言っていたっけ。
「せめてこのアイテムを供養してメシにでもしようか。消耗品をいくつか揃えられる額になればいいんだが……」
「……そうでござるな」
組合前の素材買取場で査定待ちをしながら雑談。しかし闇影の返事は暗いものだった。もしかしなくても相當ひどい結果なのだろうか?
「え、これっぽっち?」
組合の査定を終えた大量の皮の支払い代金はたったの280Zだった。
それも二人分。オレと闇影の分を含めてだ。
「ホワイトラビットだけなら普通でござろう」
「ホーンラビット産もあっただろう?  ちょっとボロボロはしてたが……」
「ボロボロの皮はゴミゆえ、どこも買取はしてくれないのでござるよ。それがどのモンスター由來でも」
「え、じゃあオレってゴミを量産してたのか?」
「そういうことになるでござるな。なのでこの代金は拙者の仕留めたホワイトラビット産でござろう」
「言ってくれよ!」
「マサムネ殿ならいつかはやってくれると思ってサポートしていたのでござるが……一向に芽が出なくてもはやかける言葉も見つからん」
「辛辣!?」
「マジか。どうしよう……オレ文無しだから査定金額をアテにしてたのに……」
「そういえばマサムネ殿は死にまくりでござったな」
「……」
「そう睨むな。今日は拙者が出すから」
オレと同じくらいのレベルの癖に、闇影はお金持ちだった。
店で不揃いに切りそろえたを焼いただけのもの二人前頼み、一つをオレに渡してくれた。
おいおい、これ一本300Zもするのかよ。それも二本も……
今日の稼ぎよりも上じゃないか。
思わず開いた口が塞がらなかったが闇影の「なにぼっと突っ立ってんだよ、食おうぜ」という言葉で我にかえり、よく噛んでから飲み込んだ。
特に味はせず、しだけENが回復した。
30%まで落ち込んでいたのが50%まで上がった。自己主張激し目の腹の蟲も治る。しだけ満足を得られた。
たった20%回復させるだけで300Zも使うのか。
オレは夢に、刀に拘りすぎて、いろんなものを見失っていたようだった。
……けないな。
口ではあーだこーだ偉そうな事を言っておきながら、所詮オレは口だけだったってことだ。
ちょっと他のゲームで優秀だからっていい気になっていた。だが、この世界では所詮この程度。仲間に頼り切って自分の仕事も果たせない愚か者だ。
「なんか悪いな。今日は足を引っ張ってばかりで」
「いいでござるよ。それで、このゲームはどうだ?  ハマれそうか?」
「現狀厳しいことばかりだ」
「それじゃあSkyに帰ってくるか?  みんなマサムネの事を待ってるぞ?」
「勝手にやめて今更どのツラ下げて會いにいくんだよ」
「強だなぁ……まぁいいや。ここで好きなだけ厳しい現実に直面して頭を冷やすといい。し時間を空けてからもう一度いをかける。それでいいか?」
「すまんな。闇影はずっと向こうか?」
「クランマスター故な。本當は迷宮に行く約束をしてたのに急用ができたって噓ついてすっぽかして來たんだ」
「おま……悪いな、オレなんかのために」
「気にすんな。お前はいつも通り、堂々としていろ。ここに來てから隨分とらしくないぞ?」
トン、とオレのを小突いて闇影は片手をあげた。どうやらログアウトする予定の時間が差し迫っているらしい。いつのまにかござる口調も抜けていた。ここではないどこかで活躍しに行く為に、ここでの活を終えるために……
「では拙者はここで」
「ああ、今日はありがとうな。隨分と助けられた」
「なに、構わんさ。なんといっても同好の志だからな?」
「ふっ、そうだったな」
苦笑し、拳を突きつける。
オレ達流の別れの挨拶だ。
闇影はもういない。フレンド一覧からは闇影の文字は灰になり、もうログアウトしてしまった事を示していた。
「……オレも帰るか」
街全が夕でオレンジに染まっていた。
このゲームでは現実と同じ時間を採用している。
晝頃からスタートして夕方という事は4時間近く遊び通していたということだ。
メニューからログアウトを選択し、意識が現実世界のに定著する。
フラフラとカプセル型のVRマシンから起き出して、寢起きのに水分補給。
しずつ意識がゲームから現実に返ってくる。
そしてあのゲーム、イマジネーションブレイブの評価をつらつらと重ねて行くと、だいたいクソゲーである事で落ち著いた。
だけど、常に考えてしまう。
あの時どうしていれば最前だったかを。
食事中も、浴中も、勉強中も、授業中も、ずっとずっと頭の端にこびりついていた。
今まで惰でやっていたゲームとも違う。
もっと楽な生き方だってあるだろうに、あろうことかオレはもう一度あのゲームの中で活することを選択していた。
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