４

人気を匂わせる闇の中を、ストレートフラッシュが駆け抜ける。

和裝の上に白を纏った二人は、前後で挾む様に人事不省に陥った有島を運んでいた。

ちなみに擔架の代わりとして、源がを隠していた葭簀を勝手ながら拝借している。

腹部を細い線狀に貫かれた有島は青白くグッタリとしていて、生気を欠片もじさせない。

正に瀕死狀態だが、帰還すれば全快の見込みがある。

しかしながら、応急処置を行った源は有島の狀態に驚いていた。

んだ胃とくすんだ肝臓。

その間に膽嚢を避ける形で引かれた創傷の線は、生を完璧な時限裝置に変えていた。

太い管を一本だけ切られた彼のは、出量こそ多いものの、臓諸には一切の損傷が見られなかったのだ。

「即死はしねぇが放っときゃ致命的になる狀態だな。胃のみ合からして飯を食ってる様子もねぇ……力減衰でタイムリミットの下拵えって訳かよ」

処置を施した源は業腹な口調でそう言った。

いずれにしろ、今優先すべきはこの場を離れる事だ。

それは勿論、有島の容態が危険な為、と言うのもあるが、それ以上に、この時間に住む者達の関心が怖いからだ。

蔵の所有者宅には麻酔をかけてあるが、他の人々は違う。

彼等に事を悟られた瞬間、最も悪い想定か、それ以上の事が起こる可能がある。

そこで絵が発案し、二人が実行に移したのが、白姿での移送だった。

これは眼視認化拡張現実ナナフシと言う変裝技に頼った案で、視覚誤認報を発する學迷彩カメレオンに白のフィルターを重ねる事でり立っており、これで二人は“患者を醫局に移送の為に近所の葭簀を拝借した醫者と看護婦”というシチュエーションを作ったのだ。

川村マリヤを確保するまでの裝もこれに由るで、フィルターを外した二人の姿は、ライダースーツの様な繋ぎになっている。

これにより、概ね二人の行指針には障害がなくなった。

しかし、有島の損傷合は偽りなく危険だ。

「紫姫音、急時信號を発信しろ！時間がねぇから急げ!!」

「わかった！」

D-28地點が視認出來る場所まで來て、先行する源がWPに向かってんだ。

紫姫音も狀況を理解しているのか、即応する。

インジケーターが即座に開き、チャンネル検索を始めた。

負けじと絵も適材適所を模索する。

「源、マリヤの運搬は私よりアンタの方が向いている。エリちゃんとの通信は代わって！」

「あいよ、紙園に川村と同じ場所に葭簀置いといていぃか聞ぃといてくれ」

「分かった」

「源！急信號送ったよ！20秒後に返信來るって！」

「だとよ、紫姫音ごと渡すから、後ぁ頼んだぞ」

WITを放った源は、そのまま有島を引き摺って民家に消える。

回転するそれをキャッチし、絵は頷く。

「じゃあ繋げ……大丈夫？」

「め……まわった」

「……頑張ろう紫姫音ちゃん」

ウェッと嘔吐寸前の嘆息を吐き、紫姫音は固定化完了を宣言した。

「いけるよ」

紙園エリの聲が流れ出す。

「T.T.S.No.2いかなはじめ源、何故貴方は毎回毎回急信號で通信されるのですか？軽挙は慎めと骨に染みる様に教え込んだのに、何をやっているんですか貴方は？馬鹿ですか？愚図ですか？白癡ですか？死んで頂けませんか？」

「……えと、ごめんねエリちゃん。私、絵なのだけど、本當に急事態なの。作業分擔で源と代わっていて……」

「絵さん？では、この通信は……」

「詳細は後で。ともかくTLJを早急に跳躍させて。重要參考人を確保したのだけど重傷を負っていて……このままでは命があ「ぶないよねえ」……え？」

「絵!!」

突然、自の言葉に割り込んだ誰かと紫姫音の聲を聞いた。

直後。

脇腹にけた信じられない力に呼気と吸気を全て奪われ、絵のが高々と飛んだ。

これまでじた事のない浮遊。

それはザラザラ巡る視界の中で肩にけた別の衝撃により逆転。

絶的な落下に変貌する。

だが、それも剎那の事。

すぐに焼ける様な痛みが背中に走り、風が止んだ。

瞬く間に起こった出來事に、理解はおざなりにされたまま。

漸く開けた目に、満天の星空が広がる。

三半規管が狂ったか、未だに浮遊が拭えない。

呼吸の仕方が分からない。

全てが一瞬だったのに、患部が熱に脈し、現実なのだと糺す。

「ガハッ…………ゲホッ…………」

咽返りで復活した心肺が、全の鈍痛を際立たせる。

「…………ぐ……」

奧歯を噛んで痛みに耐え、を起こそうとする。

だが。

「慌てないで」

強い力でを押さえられ、絵は再び仰向けに戻された。

激痛が意識を揺さぶる。

『ヤバい……どこでもいいから、をかさなきゃ……意識が、飛ぶ……』

気合とで手をばす。

の強い圧力を摑み、それが何者かの腳だと分かった。

『誰だ……コノ！』

怒りと共に瞼を開く。

ソレを見た瞬間、脳裏に源の言葉がリフレインした。

“今回の相手はマジでヤバい！ヤバ過ぎる!!”

「はじめまして、だね。彼はどこだい？」

そこに、金糸で刺繍をあしらった藍地の直垂を纏う翁面があった。