《T.T.S.》FileNo.0 The Christmas Miraculous offstage Chapter 2-5

『あれ?……なにこれ?』

どうにも妙なじがして、電子はおずおずと聲を上げた。

「……うーんと、ねえ源」

ただ、彼の言葉をガン無視して、主は煙草に火を點ける。

人通りのない落書きだらけの路地だけあって、倒れたダウンコートの男に注意を払う者はいなかった。

だが、すぐ橫にセンター街通りが走っているとあれば、いつ人が來てもおかしくはない。

長居が賢明でないのは、明らかだった。

にも関わらず、悪い顔をした主はクツクツと笑って暢気に紫煙を吐いている。

「まぁでも、ここらで一騒ぎ起こすのも一興だぁな、歯応えなさ過ぎて軽く萎えたし」

「ねえねえ、源……」

「んだよ、どした?」

「なんか……へん」

「変って何が?」

「んっと……」

どうしても歯切れの悪くなる発言に、痺れを切らせた主が命じた。

「裏返れアドゥヴェントゥ」

主の延髄に埋まったチップと連するコアを中心に、WITの分子構造が裏返り、理機構が比重の重い二酸化炭素を部注する。

それは風船が膨らむ様に似て、どこか非現実的な景ですらあった。

しかしながら、サイドテールの紫髪をクリームのダッフルコートの肩に流し、チェックのミニスカートから生足をばして飴の革のブーツに結んだ姿は、どう見てもローティーンのにしか見えず、ゆっくりと開かれる二重瞼から覗く碧の瞳も生気に満ちている。

だが、如何に生々しくとも、これ等は全て模造品イミテーション。

その実態は、WITを構しているゴム素材だ。

故に、その総重量は5g、顕現所要時間も3秒とお手軽な仕様になっていた。

張り詰めた12月の空気に音も響かせず著地した紫姫音は、主たる源を仰ぎ見る。

「気になんならテメェで調べろ、これ吸い終わるまでなら待ってやっから」

「……わかった」

先端で輝く橙が勢いを失い、源は興味なさ気にストリートアートの鑑賞を始めた。

すんなりと意を汲んで貰えた信頼が嬉しくも恥ずかしくもあり、紫姫音は俯きがちに頷き、ダウンコートの男の傍らにしゃがみ込む。

何度スキャニングしても、彼センサーは男の骨格をサンプルと合致していると判斷した。

それは、瞼を捲った虹彩でも同じ。

検証結果だけを拾えば、ほぼこの男が玄山英嗣である事は間違いない。

だが、たった一點。

「……やっぱり」

「どした?」

男の項を中指の背でで上げた紫姫音は、源に向き直る。

違和が確信に化けて指先にれる事が不快で、自然と表は歪んだ。

「ないの、エンズイのチップが……さっきから、なんどもなんども、アクセスしようとしているのに……ハンノウがないの」

「……あ?」

自分の言っている事に自信が持てなくて、どうしてもどもり気味になる言葉に、源の表は曇った。

當然だ。

その言葉の意味する所は、つまり。

「このヒト、クロックスミスとおなじヒトだけど」

源の煙草の先から、溜まりに溜まった灰がポトリと落ちる。

「ワタシたちのジダイのヒトじゃない」

その瞬間。

源がニヘラと笑った、気がして。

「……え?」

気付けば紫姫音は、強い浮遊と共に渋谷の上空200mにいた。

目の前に広がるのは、月と僅かな星をあしらった黒い黒い夜の帳。

「どぉなってんだ……ったくよぉ」

苛立たしくもどこか楽し気な源の言葉に目を向けると、抱えられた玄山の向こうに、しくり輝く渋谷の夜景が広がっている。

「わぁ……」

思わず零れたのは、嘆とと快の溜息。

一杯に広がるはち切れんばかりのの津波に、紫姫音の頭は空っぽになった。

だから、と続けるのは言い訳にしかならないが、源に釘を刺された。

しきりんとこ悪ぃんだけど、一旦戻ってくんねぇ?正直、今お前の嵩はキチィ」

「あ……ゴメン」

型に戻って行く最中、著々と近付くQFRONTの真下で、主の相棒が呟くのを紫姫音は知した。

「“あの…………馬鹿!”だって」

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