１ ８月２０日　夏季休暇

蟬時雨が炎天下を舞う夏空のある日。

神谷太は宵崎高校へと向かっていた。しかし、いつもの制服ではなく、ラフに纏めた私服である。

７月下旬から宵崎高校は長期夏季休暇に突している。

今學期にってから、『審判』と呼ばれる謎の事件によって、沢山の生徒が死亡している。

そんな太たちのクラス３年１組にとってこの夏季休暇はかなりの助け舟であった。

宵崎高校には３年験生の勉強合宿といった行事は存在しない。各々の責任で勝手に、というのが學業方針である。

つまり、太はこの８月にってからクラスメイトと顔を合わせる機會などほぼ皆無だった。

それにしても誰かが『審判』によって裁かれたという話は太の耳にはってきてはいない。

『審判』とは學校教室限定の『呪い』のようだ。だとしたらこのまま永遠に夏季休暇が続いてしいと思うばかりであった。

そんな太が何故、夏季休暇真っ只中に宵崎高校へ向かっていたかと言うと、それはある男との待ち合わせをしている為だった。

「やあ。神谷君。久しぶりだね」この灼熱の暑さの中、霧島響哉はあっけらかんとした顔で宵崎高校校門前にやって來た太を迎えた。

「わりい。待たせたな、霧島」

「そんなに待ってはいないよ。おで最近お気にりのネット推理小説を読破したところだ」

「結構待ってるじゃねえか」

太は霧島と『審判』そして『影充・零兄妹』に関する調査のため、宵崎高校校舎前にして今日日約束をしていたのだ。

勿論、胡桃沢桜もその約束をしていたわけではあったのだが。

「あれ？　そういえば胡桃沢さんはどうしたんだい？」

「ああ、あいつ元々が弱いから。夏休みにる前に俺たちと一緒に々無茶したからか、最近調崩しがちなんだ」

初耳だとでも言わんばかりに霧島は目を丸くした。

「そうなんだ、それならしょうがないね。でも休みの日に男二人で待ち合わせなんて、超絶に気持ち悪いね」

「てめーが呼んだんだろが」

脇に公園があり、親子連れや年たちが遊びほうけている。

噴水から放たれた水飛沫が太に反し、キラキラと輝いては墮ちるのを繰り返していた。

そんな様子を眺めながら太はこの一ヶ月のことを考えていた。

８月第一週目、二週目は怖かった。

怯えていた。

いつか自分や桜のにも罪人の稱號が訪れるのではないかと。

しかし何も起こらなかった。

どうやら『審判』は學校でしか起こらないようであると確信した。

それからというもの久しぶりに恐怖の日常から解き放たれたように過ごすことができた。

「夏休みのおか學校にいるよりも安心ではあるよな……」

「安心？　神谷君、危機は持っておいてほしいね。僕たちは今でも命を狙われていると言ってもいい。『影充』を倒さない限りはね」

「わかってるよ。倒すんじゃなくて供養だろ。それで今日は何すんだよ」

「うん。最近乙黒さんを通じて々と調べてみたんだ。だからその調査結果を聞きにでもいくところから始めようか」

「そういえば霧島。夏休みにる前、影零さんと話したときに々わかったって言ってたよな？」

「ああ」

「まさか影零さん自が……何か恨みを持って……『審判』を？」

「否定はできないけど。だとしても非現実的すぎるね。彼一人でここまでの超能力作的殺人事件を起こせるとは」

「うーん。だよな」

「僕が気になったのはそこじゃない。まず一つ目『影充』と『影零』はが繋がっていないこと。そしてもう一つは『影零』が言っていた『あの』とは誰か」

オレンジに輝くあの７月下旬の校舎廊下で影零は確かに言っていた。

『あの』と。

「『あの』……。誰のことを言っているのかわからないな」

「僕たちは影充をめて死に追いやった人間、つまりいじめの主犯は男子生徒だと思いこんでいた。子生徒だったという可能はあり得るね」

「『あの』イコールめの主犯である可能か……」

「もしくは……母親、とか」

「母親って……影充と影零のか？　まさか、どうして影零が母親を恨むんだよ」

「どうあれ離婚したことは事実であるだろうし、結果として影充は死んでしまった。となれば……母親の管理不屆きを恨んでもしょうがない、かな？」

太は腕を組み、考え込んだ。

母親が離婚をし、自分が捨てられたとじた影充は自殺へと追い込まれた？

本當にそうなのであろうか。

「……」

「まあその線から行けば、僕たちができる影充への供養ってのは、『あの』を殺してあげることじゃないかな？」

「おい！　霧島、お前！」

「ふふ。冗談だよ。それにこの推理は『影充』ではなくて『影零』の思い込みが真実であると仮定した際の可能だ」

「……」

「兎にも角にも、影充の家族構の調査は既に乙黒さんに依頼しているから、安心してくれ」

霧島の作り笑顔は相変わらずであった。

「ただね。『あの』とやらが影充をめていた奴だとした場合、今回の『審判』で裁きを與えたいであろう『あの』とやらは……『３年１組』に関係しているんじゃないかな、って」

太は背筋に悪寒が走り、じわっと汗が湧き出る覚を味わった。

「いや……でも１０年も前の話だぞ？　いったい誰が……？」

霧島はそんな太を見て、爽やかな笑みを浮かべた。

「神谷君。若返りって信じるかい？」

太は、自らのからじわっと汗が吹き出るを味わった。

「もしくは不老」

「そんな……うそだろ？」

そんな太を見て、霧島は鼻で笑った。

「冗談だよ。そういう展開があったら面白いかなって思っただけさ」