５ ８月２０日　朝倉醫院

朝倉醫院と呼ばれる比較的には小さな規模の総合病院で、太は目を覚ました。

規模は小さい病院ではあるが、醫師である先生の対応と実績により、地域では評判のいい病院である。

太は白い壁に囲まれたベッドからを起こした。

最初はここがどこなのかわからなかった。

しかし、意識がはっきりしてくるにつれて、なんとなく病院であるということがわかってきた。

太は再びベッドに寢た。窓の外を見ると、夕焼けが見え、既にそんな時刻なのかと心の中で思った。

自分はいったいどうしてここにいるのか、はっきりとした意識のなかでも、それだけは未だにわからなかった。

そのとき、がらっと病室のドアが開いた。

「気が付いたかい？」

相も変わらない嫌みったらしい目つきで、口元に笑みを浮かべながら、霧島がやって來た。

「安心して。疲労が溜まっていただけだろうって。醫者によれば、キミが平気なら、すぐにでも帰宅していいらしい」

手にはペットボトルのお茶を持っていた。

彼は、ホラと差し出してきて、椅子に腰掛けた。

「霧島？　どうして俺は病院に？」

太は率直に尋ねた。

「覚えてないのかい神谷君？キミは急に乙黒さんを突き飛ばしたんだよ。そして、そのあとにキミも倒れてしまって」

太は目を見開いた。

そうだ、自分は、まるで#が奪われたかのように__・__#意識がぼんやりして、そして、乙黒の首を……。

「わからない……どうして、あんなことを」

太は目に手を當てて、俯きながら呟いた。

「キミは……乙黒さんに何か気に喰わないことでもされたのか？」

「い、いや……なにも……されてないはず」

「なら、どうして……？」

太は思い出したようにはっとして、霧島に尋ねた。

「霧島！　乙黒さんは！？」

「安心してくれ。別の病室で寢ている……ただ……」

「ただ……？」

「勿論、命に別狀なんかないし、もいたって健康だ。だが、どういうわけか意識が戻らない。常に眠っているみたいな狀況だ」

太は愕然として、俯いた。

「そ、そんな……どうして」

「大丈夫だ。問題は無いよ」

霧島は微かに笑ってそう言ったが、眼の奧は笑ってはいなかった。

霧島なりに、自分に下手な心配をかけないようにしているのだろうと、太はすぐにわかった。

「仕方が無いから……あとは僕の父親に頼めば、影浪子のことは調べてくれるだろう」

「そんなこと、できるのか？」

「絶対にやりたくはなかったが、僕が頭を下げれば、どうにかいてくれるだろう」

「影零に聞いたら、教えてくれたりは……」

「しないだろうねえ。彼が僕たちに協力してくれるとは思えないし。そもそも別れたの繋がってない母なんて、最早他人だろ」

「……」

冷たく無機質な言葉。

しかし、影零の気持ちを察するには、「他人」という表現は生易しいものだろうなとじた。

太は再び不安げに俯いた。

いったい自分を襲ったあの現象はなんだったのだろう？

「まるで自分が自分じゃないみたいだ……」

思わず聲に出てしまった。

霧島はその言葉を逃さなかった。真剣な表を浮かべ、霧島は尋ねた。

「……神谷君、キミはいったい？」

「……わからない」

「こんなこと、今回が初めてかい？」

「……ああ。初めてだ」

太は噓をついた。

霧島にそう尋ねられた瞬間、以前のことを思い出した。

そう以前にも、あれは夢だと思っていたが、自分が自分でないような錯覚に襲われたことがあるような気がしたのだ。

そして、そのときにあの『影零』と會っているようなデジャヴを抱えていた。

あれは夢じゃなかったのか。あれは夢じゃなかったのか。

また、審判のときにもあった。ときに襲ってくる覚。

自分の意識ではない意識が自分のなかに存在している覚。

【自分はいったい誰なんだ？】

まるでそれは、いうなれば、自分自の知らない闇の面……

dark side

なのかもしれない。