４ ９月２日　第４の審判③

ガララ――

平森が太の名前を言おうとしたとき、教室後方のドアが開いた。

そして、そのドアから桜が顔を出し、そのまま倒れた。

桜の顔は凄い熱があるようで赤く、汗で髪のが張り付いている。

息も荒く大きく肩で呼吸を繰り返している。

「桜……」

太は呟いた。

生徒たちの視線が一斉に桜へと向けられた。

「桜！」

太が聲を上げ桜に駆け寄ろうとしたとき平森が笑った。

そして、太の前を遮るようにして桜のもとに駆け寄った。

「胡桃沢さん。辛そうだね、可哀相に」

「桜から離れろ」

太が平森を睨みいった。

「ふふふ」と低い笑い聲を発して、平森は桜の髪のを摑んだ。

「いっ……」

桜から苦痛の聲がれる。

「やめろ！」

太が聲を荒げる。

桜の髪を摑んだまま、平森は教室の中央へと桜を引きずり込んだ。

「いやぁ……痛いっ」

悲痛な聲を上げる。

「平森、お前！　桜から手を離せ！」

平森は太と桜を互に睨みやって、そのまま桜を投げ捨てるように髪を離した。しかし以前として太から桜を遮るようにして立つ。

「桜に手を出すんじゃねえ」

「ははは。神谷太。キミのそのじが、僕は凄く嫌いなんだ」

太は怒りの表で、平森に近づこうとした。

「僕に近づかないことをお勧めする」

太が平森の手に目をやると、彼はポケットからカッターナイフを取り出していた。

「！」

太の足が止まる。

「平森君。今ならまだ間に合う。もうやめにしよう」

霧島が宥めるように告げた。

「間に合う？　まるで犯罪者にでも使う言葉だね。寧ろ僕こそが正義だというのに」

平森はしゃがみ込み、息をするのも辛そうな桜の頬にカッターナイフをあてがった。

「胡桃沢さん、いや桜さん、弱いね。それに頼りない友人に囲まれて不幸だ」

「はあ……はあ……」

桜は怯えているようにをびくつかせている。

「でもさあ。僕はこんなにの弱い人間もクラスにとっては、これほどない足手まといだと思うわけだよ……」

平森は桜に顔を近づけ告げた。

「他よりも一歩遅れて著いて來ることしかできない人間は進歩を妨げるからね。僕にとっては邪魔でしかない」

「……」

「平森てめえ！」

太は激昂し平森を睨みつけたが、平森も橫目で太を睨み返した。

「一歩遅れることが許されるのは伴だけだ」

平森は無表でいった。

「……なんだと？」

太の顔からの気が引いた。

次の瞬間、平森は桜のに顔を近づけ、自らのをわらせた。

「！」

力。

太のから全てのちからが抜けていった気がした。

桜は嫌がり、必死のちからで平森を突き放した。

そして、必死にをり、拭いている。

「ははははっ！」

平森は自らのをぺろっと舐めて言った。

「僕さ。桜さんのことが好きだった」

「！」

平森の一言に衝撃がはしった。

霧島でさえも驚きを隠しきれない表をしている。

「なにを……」

太は拳に力を込めていた。

桜を人質に取られていなかったら、何も構わずに平森を毆っているはずのようであった。

桜は疑の目を平森に向けた。

「う、そ……」

「本當さ」

平森は屈託無い笑みを浮かべる。

「だけど。桜さんは、神谷太のことが好きみたいだね」

「……」

桜は黙り込んだまま、平森を睨み佇む太のことを見つめた。

平森はそんな桜の表から全てを察したらしく冷徹な眼差しへと変貌した。

「でもね。僕は、僕以外に目を向けているようなクソビッチはいらないんだよ！」

平森は桜の顔を踏み押さえた。

「いゃっ……」

「平森いいいいい！」

太の激昂を霧島が抑えた。

「神谷君、危険だ！」

平森はカッターナイフを太の方へと向けた。

そうしたままで、桜を見下ろし告げた。

「桜さん。キミに選ばせてあげるよ」

「……え？」

「僕と神谷太。どちらが自分のために、ふさわしい人間か」

「……なにを、言っているの……」

桜は息を切らしながら小さく聲をらした。

「神谷太を選べば、キミは人の告白を殘酷にも踏みにじった罪人だ」

「……」

平森は太を睨みつけた。

「僕を選んだら、キミは功者の伴だ。僕がキミを一生、罪人という隷屬な悪の手から守ってあげるよ」

平森は不敵にを指でなぞり、釣り上げた。

「そして神谷太は罪人になって死ぬ」

太も桜も、驚愕し、絶した。

「きゃははははははははははは！」

教室中の全てが、平森の狂気とともに邪悪な空気に包まれていた。