１ ９月２日　偽り①

平森隆寛は搬送された病院で死亡が確認された。

厳に言えば、搬送されている時點で既にだった。

助かる一縷のみさえ、そこにはなかった。

おぞましい現場は、生徒たちと靜間の証言から平森隆寛が図った自殺として警察に処理された。

太も桜も、霧島でさえ、『審判』という言葉は口が裂けても言えなかった。

きっと神病院に連れて行かれるか、集団薬中毒として処理されるのが目に見えていた。

宵崎高校３年１組の生徒たちが次々と不可解なことから死亡している慘事。

そして、遂に太たちが警戒していた平森隆寛までも。

おかげで平森が『審判』を企てている犯人ではないということはわかったとはいえ、事態は深刻だった。

太と霧島が桜を保健室に送り屆けると、保健教諭は桜の衰弱合から病院に向かわせた方がいいとのことで車で病院へと向かった。

兎にも角にも、桜が『審判』に裁かれることがなくの安全が保障されたことから、太ののちからが抜けてしまった。

足に力がらず、腰が砕けてしまった。

け無いことに霧島に支えられたが、霧島は何も言わなかった。

「わるい。大丈夫だ」

太は頭を振り、霧島から離れた。

「さすがに疲れた」

太は霧島に背中を見せたままそう告げたが、霧島のほうはやはり何も言わなかった。

そのまま太と霧島は職員室に向かった。

そうすると自らのデスクで椅子に淺く腰掛け項垂れている靜間を発見した。

まわりの教師たちは逆に気を遣ってか、靜間には聲をかけずにいた。

おそらくだが、宵崎高校の理事たちは変な噂を掻き消すのに忙しいだろうと太は思った。

職員室のり口で止まっていると、背後から聲をかけられた。

「大変だったな」

振り向くと育教諭の海藤が立っていた。

わかっているはずはないが、そのような臺詞を吐いてきた。

いつもの厳しい熱漢から想像もできないような強張った顔をしている。

「キミたちもだと思うが、靜間先生もかなり疲弊している。何かあったら他の教師でもいいから頼りなさい」

太たちは軽く會釈をして、職員室のり口を開けた。

『影充』という名前を思い出すと教師を信用する気になどなれなかった。

どうせ他人事。頼っても守るフリしかしてはくれないだろう。もう気休めはいらない。

進んでいくと靜間が顔を見上げて太と霧島の顔を覗いてきた。

「ああ、キミたちですか」

と頭をかき、椅子に座りなおした。

靜間の短い髪にはないが白髪が混じっているように見え、いつもはシワひとつ無いスーツにもどこかしら汚れが目立った。

まるで靜間の神狀態を語っているように窺えた。

「大丈夫ですか」

太は尋ねた。

「先生よりも、自分たちのことだけを心配しなさい」

靜間は疲れた笑みを浮かべた。

太たちに心配をかけないようにしているのがバレバレだった。

「神谷君に霧島君。キミたちは今まであんなに壯絶な現場に立ち會ってきたのですか？」

「……はい」

霧島が表を崩さずに答えた。

「そうですか……」

靜間が心痛な面持ちでいった。

「あれは何なのですか」

「……」

太も霧島も返答に困った。その様子を見て靜間が続ける。

「『Ｍの悲劇』……まさか本當に影充君の……」

「『呪い』の現化だと、僕たちは考えています」

霧島が答えた。

靜間は嘲笑するように笑みを浮かべた。

「けないですね。そう言われても否定できない。それに先生は勿論、彼の母である影浪子先生を含めた當時の教師たちが本當にけない」

俯いた靜間の目元から涙が流れたように見えた。