２ ９月２日　偽り②

９月。

殘暑のあるはずなのに、寒々しい夕焼けが校門から出てきた太と霧島を覆った。

３年１組はしばらく、とはいっても２日間ほどだが閉鎖という形で収まった。

生徒たちへのメンタルケアに休暇を與えて努めるというわけだ。

霧島が過去に挙げていた『審判』の法則すら無視した『審判』が繰り広げられている。

なんとしても、今すぐにでも食い止めなければならない。

そう思っていた矢先の出來事だった。

浮かない顔をして歩く太の前を橫切っていく生徒が見えた。

太は顔を上げ、聲をかけた。

「影、零……」

影零は立ち止まると、ゆっくり太と霧島のほうを振り向いた。

「なにかしら。神谷太」

機械的でを抑えたような聲。

「お前、今日の審判で、俺たちを……俺と桜を助けてくれたのか？」

影零は太から視線を外した。

霧島はそのきをじっと眺めている。

「一応禮を言う」

「私は……別に貴方たちを助けたかったわけじゃない」

影零はなびく髪を耳にかけながら言った。

太は影零をしっかり見據えていった。

「だが平森君は死んだ」

「ええ。そうね」

「……」

影零は太の目を見て続けた。

「でも死んで當然の人間だったとは思わない？」

「！　お前――」

霧島が太を止めた。

「神谷君。落ち著いて」

「彼は兄さんの審判を自分のために利用して、そのを満たそうとしていただけ。無様で、お似合いの末路でしょ」

「……絶対に俺たちが審判を止める」

鼻で笑うようにして影零は続けた。

「どうやって？　充兄さんを供養でもする気？　無理に決まってるでしょ。呪いは止められない、これからも加速する」

太は苛立つように眉間に皺を寄せ、拳を固めた。

「ここでお前を殺せば、審判を止められるんじゃねえか？」

「なんですって？」

太と影零が睨みあった。

「お前が審判を起こしている……諸悪の源かもしれない」

影零は再び鼻で笑った。

「さあ？　証拠はどうかしら？　邪推で人を殺せるの？　貴方にはできないわ。神谷太」

影零は道の端に寄り、自販売機の前で財布を取り出した。

ボタンを押し、出てきた缶ジュースを取り出し飲み始めた。

「私は、本當はあの教師を裁きたかった」

「！」

太と霧島に揺がはしった。

「なんだと」

思わず霧島は聲をあげた。

「あの教師だって一応は３年１組のメンバーのはずでしょ。だったら、どうにか投票を募って審判で殺せるかもしれなかったのに」

「だから靜間先生を教室に留まらせたのか？」

「そうよ」

影零は再びジュースを一口飲んだ。

「アイツは充兄さんを救わなかった。アイツこそ死ぬべき人間」

太の脳裏に靜間の姿が思い浮かんだ。

悲しそうに、悔しそうに俯き涙を流す姿が。

太は以前まで、確かに靜間のことが嫌いだった。

だが、今の靜間は変わろうとしている。

昔の、影充に教師として手を差しべてあげることができなかった過ちを償おうとしている。

それなのに『死』だけでしか償えないことはないはずだ。

いや『死』こそ償いにはならない。

影零を太は鋭く睨みつけた。

ふっと笑い、影零はまだジュースの殘る缶を地面に落とした。

そして、勢いづけて缶を踏み潰した。

「次の審判で必ずあの教師を殺す」

そういうと振り向き太たちに背を向け、去っていこうとした。

「靜間先生は殺させねえ」

その背中に太は告げた。

「神谷太。貴方、変わったわね。あの教師のこと、嫌いだったはずじゃない」

「もう昔の話だ。よく知ってるな」

「ふん。推測よ。私は貴方のことなんて何も知らないわ、『神谷太』」

激しい怒りの形相の太を影零は橫目で見た。

「今の貴方の顔を見たら、貴方の母親はどう思うでしょうね」

「……なんだと」

「どうも思わないのが、影浪子……あのよ」

そう言い殘し影零は去っていった。