石畳の急な階段を登る。村の人が隣を通ったので端っこによると、手れのされていない雑草が足に當たってこそばゆい。

「英たけしさんかなぁ……」

隣の結姉さんが呟いた。今日は花姉さんはいなくて、雙子の結姉さんと千姉さんと一緒に參拝に行くのだ。

「英さんって？」

僕が尋ねると、結姉さんが言う。

「小路英さん。うーん……なんて言うかなあ」

「花姉さんの友達のお父さんよ」

そう千姉さんが付け足した。

「そうそう！　良樹さんとお父さん！」

二人はそう答えたっきりその人達の話で盛り上がってしまった。僕の方など全く見ない。

「ね、ねえ、上で待ってるから僕先に行ってもいい？」

「いいよ！　行ってらしゃい」

結姉さんが手を振ってくれたので、僕も手を振り返して駆け上がった。

見えてきた鳥居に向かって、僕はいっそう速く走った。一応、る前にお辭儀をする。ちょっとくすんだ赤い鳥居の端っこからり、僕は辺りを見渡した。

全く持っていつもの景だった。村の人が參拝に來ている。

逢園村では、特に時間に決まりは無いが、毎日ここ紫首しこうべ神社に參拝しに來なければならない決まりがあるのだ。

僕は參拝をしに並ぼうと思ったが、ふと見えた木の影にいる人に、どきりとした。

「スミレさん……！」

僕が小走りに近寄ると、スミレさんも気がついたようだった。

「こ、こうじゅさん？　いけませんよ、私と一緒にいるところを誰かに見られたら……」

「そんなことないですっ。どうせ梅園家だし。スミレさんはなんでこんな木の影に？」

スミレさんがほんのしだけ俯く。ゆるい風が吹いて長い黒髪が舞い、表まで見えなくなってしまった。

その様子で自分の言ってしまったことの酷さに気がつき、僕はスミレさんにかける言葉が見當たらなかった。いくら梅園家の立場が低いとはいえ、スミレさんは村中の人に『災をもたらす』と忌み嫌われているんだ。

「スミレさん、ごめんなさい……。あ、あの、人がいなくなったら、僕と一緒に參拝しませんか？」

その時、村の人達の會話だろうか。キンキンと猿のような話し聲が耳にってきた。

「あーんな奴と喋っていたら、縄垂らしが來ていつか首を括らされますよ」

松園家の奧さんのあいさんと、竹園家の奧さんの子あいこさんがクスクスこちらを笑っているところだった。