《仏舎利塔と青い手毬花》第三章 託された手紙 第一話 報告
「ママ!ただいま!」
九條唯は、來たときと同じように長嶋校長が運転するバスに乗って家に帰ってきた。
玄関は空いていたので、そのまま家に上がって、母親を探す。
いつもは、パソコンが有る部屋に居るか家事をしているのだが、今日はどこにも居ない。
「あれ?ママが居ない?」
「唯。おかえり。早かったな」
九條くじょう進すすむ。
唯の父親だ。今日は、仕事が休みで珍しく家に居たのだ。
進の仕事は、船大工で主に漁船のメンテナンスをしている。あとは、メカ音癡の為に魚群探知機やオート舵のセッティングを行っている。
漁が多いこの時期には、進の仕事はないのだ。メンテナンスは、船を休ませる必要があるために、漁がある時は行う事ができない。応急措置なら可能だがそれでもできることは限られている。その他の調整に関しても同じで船を丘にあげて作業するが多い。海上で行う事もあるが、それは最終調整だけになってくる。
「パパ!お仕事は?」
「今日は、お休みだよ。唯。キャンプは楽しかったか?」
「うん!ユウキちゃんと鳴海ちゃんと沢山お話できた!」
「そうか、ユウキは・・・あぁ桜の子供か?」
「え?うん。そう。あとね。タクミくんも一緒だよ!」
「克己の所の子供か・・・あいつらが一緒だと何もなかった事が不思議でならない」
進は、同級生の二人の顔を思い出す。
憎たらしいが信頼はできると思っている。
「パパ。ママは?」
「ママは、しお出かけしている。夜までには戻ってくるぞ!」
「本當?」
「あぁ本當だ!そうだ、唯。今日は、丸大飯店に行くか?」
「え?!焼きそば!食べていい!」
「あぁいいぞ!」
丸大飯店・・・の、説明は必要ないと思う。桜も克己も子供の時から好きでよく行っていた、中華飯店だ。
唯が言っている焼きそばは、かた焼きそばの事で、唯は小學生になる前から丸大飯店のかた焼きそばが好きなのだ。最初は、固くてパリパリしている麺が上にかけてある”あん”を吸ってらかくなっていくのが好きなのだ。
鈴は、警察に呼ばれていた。
當日の様子をもう一度説明してほしいと言われたからだ。家に行くと警察には言われたらしいのだが、すずは警察で説明することをんだ。夫である進には事を説明してある。警察も、すずが犯人だとは思っていない。手がかりが何もない狀況でしでも捜査を進めるために、話を聞きたいと思っているのだ。
警察の捜査は難航している。頓挫して居ると言ってもいい。
14人の死がありながら現場にはの一滴も殘されていない。それだけではなく、兇も見つかっていない。
証言や殘されている監視カメラ映像や、當日の參加者のスマホやデジカメに殘されている映像や畫から被害者たちが數分前まで生きていたことは間違いない。そのために、警察は何が起こって、14人が首を切られた狀態で見つかったのか公式に発表できないでいた。
警察は、集団催眠や全員で口裏合わせの可能を考慮したが、矛盾した証言は出てこなかった。
マスコミの注目度が高い事件だが、流せる報が非常にすくないのも特徴なのだ。
その上、上層部から、須賀谷真帆に関する報の匿命令が出ている。マスコミにも須賀谷真帆に関する報の自粛を求める嘆願命令がとある筋政治層から出されている。
數ヶ月が経過した現在は、報道も行われなくなり、元々靜かな港町に靜かな日常が戻りつつ有った。
---
進は、唯を乗せて丸大飯店にやってきた。
元々はバイバス沿いに有ったのだが區畫整理で店舗を隣町にできたショッピングセンターに移している。
「パパ!早く!」
「解っている。ちょっとまて・・・。おっママから電話だ。唯。先にって注文を頼む」
「わかった。パパは、いつもの?」
「あぁ」
『進さん』
「今、唯と丸大に來ているけど、お前はどうする?何か買って帰るか?」
警察署から丸大飯店までの移手段を唯が持っていない事を進は理解している。
『あっそれなら、炒飯をお願い』
「了解」
『それで、進さん。須賀谷那由太さん。真帆のお兄さんとは同級生だったわよね?』
「那由太が見つかったのか!」
『ううん。違うの。警察で、”須賀谷那由太を知っているか”と聞かれて、”夫の同級生です”と答えただけ』
「そうか・・・。那由太の奴が疑われているのか?」
『ううん。違うみたい。那由太さんはもう見つかっていて、アリバイもあるみたい』
「それならよかった。それで、鈴はなんで呼ばれたのだ?」
『なんか思い出した事があるか?とか、殺された人たちに付いて何か知っているか?とか、小學校のときのいじめに関してとかを聞かれただけ』
「そうか・・・。一度、桜の所に相談に行くか?和も居るから何かできると思うぞ」
『うーん。そうね』
「わかった」「パパ!まだ!」「唯。もうしだから、先に座っていなさい」「はぁーい」
「悪いな。唯がしびれ切らしている」
『いいわよ。私も、菜摘と軽くお茶を飲んでから帰るね』
「わかった」
進は電話を切って、ポケットに手をやる。
(そうか、煙しているのだったな)
タバコを一本吸って落ち著こうと考えたのだが、自分がいい出して煙を始めている。
すでに3ヶ月だが時折ポケットを探ってしまうのだ。
妻からの電話でわかった事は、警察の捜査が進んでいない事、那由太が犯人ではない事、未だに妻たちが疑われている事だ。
話を聞いた時に、最初に思い浮かんだ考えは、突拍子もない事だった。
進は、真帆が復讐をしているのだと思ったが、真帆は小學4年の時に行われたキャンプの日から行方不明だ。それが今になって復讐してきているとは考えにくい。
(俺が考える事じゃないな)
進は、娘が待っている丸大飯店のドアを空けて店にる。
飯時ではないので、客はまばらだ。テーブル席を見ても、娘の姿が見えない事を確認した。
(二人だけだからテーブルでも良かったのだけどな)
いつも家族で座る座敷に向かう。
店員も顔なじみになっている。進の顔を見ると、指で座敷の方を指し示す。個室になっている座敷席が6部屋ある。法事や小規模な宴會に使えるようになっている。
進は、店員に會釈をして、座敷に向かう。小上がりになっている所で靴をいだ。
「唯。九條は?」
「パパ?もうすぐ來るよ」
(ん?誰か居るのか?)
個室になっている襖を開けて中を見る
「桜!?」
「おぉ進。遅かったな。お前の分の注文は唯がしたぞ。な」
「パパ。遅いよ!」
「悪い。悪い。なんで、桜が?和とユウキはわかるけど、なんで沙菜さんが一緒に居る?克己とタクミは?」
進が不思議に思うのも當然だ。
沙菜は、タクミの母親で克己の妻だ。桜と和が一緒なのはわかる。
「あぁ克己とタクミは、おふくろに呼ばれた」
「はぁ?どういう事だよ?」
進の疑問は當然だ。
克己の両親はすでに他界している。桜が行っている”おふくろ”とは、桜の母親の事だ。
「しょうがないわよ。穂さん。克己くんの方が好きだから・・・ね。あっ今は、タクミの事が好きだったわね」
「まぁその方が俺に連絡が來なくて助かる」
「桜。お前・・・」
進も和も沙菜も、桜と母親の穂の関係があまり良くないのを知っている。結婚には賛していた。ただ一つ、桜が警察學校に黙ってったのが許せないでいるのだ。
「進さん。鈴さんは?」
「鈴は・・・」
進は、桜をチラッと見た。聞いた、沙菜もそれで事がわかってしまった。
「そうか、進。お前、車か?」
「そうだ」
「そりゃぁ殘念だな」
「え?」
「おまたせしました!タンメンと餃子を3人前とソース焼きそば紅生姜抜きとライスと麻婆丼とかた焼きそばとチャーシューメンと半炒飯セット。あと、ビールを2本」
ユウキが、半炒飯セット。ラーメンと半炒飯のセットだ。
唯はかた焼きそば
桜はソース焼きそば紅生姜抜きとライス
和がタンメン
沙菜が麻婆丼
進がチャーシューメン
見事に好みが分かれている。
ビールは、桜と和が飲むようだ。帰りは、沙菜が運転していく事になっている。
丸大飯店の特徴だが、6-7人位までなら、一度に注文した品は同時に持ってきてくれるので、家族や子連れで行くときには都合がいいのだ。
「親父さん!」
「お!なんだ!」
「炒飯持ち帰りで1人前頼む。あと、餃子を1人前」
進は、鈴に頼まれた炒飯を頼んだ。眼の前でビールを飲まれたので、家に帰って鈴の話を聞きながら餃子をツマミに何は飲むつもりになった。
「あいよ!」
そして、全品持ち帰りができるのだ。
皆で食事を食べながら、ユウキと唯からのキャンプでの出來事を聞いている。
大人たちは、事件が有った後だし、同じキャンプ場を使っている事から、心配をしていたのだが、子どもたちの話を聞いて何も問題がなかった事を喜んでいた。
「でね。パパ!」
「あっうん。聞いているよ」
進は、唯から”タクミのご飯が味しかった”や”肝試しが怖かった”や”歩くのが大変だった”という話を聞いている。
ユウキの補足がるが、補足で余計にわからなくなっている。ユウキの話の半分以上が擬音なので臨場はあるが、容は一切伝わらないし補足にもなっていない。
「パパ・・・」
ユウキが、セットの炒飯を桜の所に持ってきた。
”ゴン!”
個室にそんな音が鳴り響いた。
桜がユウキの頭にげんこつを落としたのだ。
「いたぁぁい」
ユウキが持ってきた炒飯は手を付けられていない。
「タクミ・・・は、いないのか?しょうがない。和」
和は首を橫に振る。
「しょうがないな。ユウキ!解っているな」
「うん。ごめんなさい」
「和。あぁ克己とタクミに、餃子二枚を土産に持っていく、あと、これも頼む」
「はい。はい」
和は解っていたのは、襖を開けて、店員に頼んでいる。
餃子二人前を土産に頼んで、ユウキが食べられなかった炒飯を包んでもらう事にしたのだ。
「和さん。それなら、あと唐揚げもお願いします」
「そうだな。和頼んできてくれ」
「わかりました」
沙菜は、ユウキの表から今は話しながら食べているから、お腹がいっぱいになったと思っているけど、1-2時間もしたら何か食べたいと言い出すのが解っている。桜も和もそれが解っている。克己とタクミは、桜の母親の店カラオケ・スナックで何か軽く食べて來るだろうから、餃子だけで大丈夫だろうと判斷した。
ユウキが、タクミの家に泊まると言い出して、克己とタクミが餃子と炒飯を食べているのを見て、自分も何か食べると言い出す時に出されたのがこの唐揚げになる。
そのやり取りを見ていた、進はしだけ複雑な表をしている。
「どうした?進?」
「いや、なに、お前たちいつもこんなじなのか?」
「そうだな。まぁタクミが居れば、全部タクミに任せるのだけどな」
「はぁ?10歳の男の子に何をやらせている?」
「それこそ、”なん”でだよ?なぁユウキも唯もそう思うよな?タクミなら大丈夫だろう?」
「うん!」「うん!」
「ほらな」
「”ほらな”じゃねぇよ。まぁいい。唯。それで?肝試しはどうだった?」
進は、自分に不利だと思って話をし強引に戻した。
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