《フェンリル》ホワールウィンド
真夜中、北海道に新設された基地の軍港に志禮達が鹵獲した船団が港した。
火虎「お、お疲れ様。」
志禮「ただ今帰還しました。」
志禮を出迎えたのはフェンリルフォースの隊長である火虎忠影大佐と作戦立案のベルナルドだった。
志禮「被害報告書です。」
志禮は表一つ変えずに報告書を火虎に渡した。
火虎「戦死者0、重癥15名、軽傷34名、重が1名。思ったよりも被害が出なかったな。敵の損害は?」
志禮「皆殺しです。」
火虎「やっぱりお前がいるとそうなるわな。」
火虎は笑いながらタバコに火をつけて吸い始めた。
息を吸って煙を吐くと、火虎は笑いながら志禮に歩み寄った。
火虎「今回のことはあくまでも俺の獨斷だ、告げ口するなよ?」
志禮「心得ています。」
志禮は丁寧に返事を返した。
報告書を提出し、やることを終えた志禮は兵舎に帰ろうとしていた。
既に真夜中、大規模作戦がなければ見張り以外はみんな寢ている時刻だった。
志禮はその場を立ち去ろうとしたが、火虎に呼び止められた。
火虎「しだけ新設された施設に來てくれ。」
志禮「なんですか?」
火虎「悪いが、ここではまずい。」
火虎が來いと言ったのは新設された巨大な施設だった。
そこには何があるかわからないが、貨船から運び出された積荷がそこに運び込まれたのを橫目で見ていた志禮はそれかと思った。
何せコードネームがつくほどの裝置がその船団に運ばれていたからだ。
志禮はすぐに施設に向かった。
施設にると巨大なドーナツ狀の裝置が置いてあった。
全高は6~7メートル程ある。
志禮「こ、これは?」
火虎「コード名アメリカンAAホワールウィンドつむじかぜ。つむじ風はその意志のままに好きなように吹き、好きなようにを舞わせる。」
志禮はそのホワールウィンドを見てただ黙り込んでいた。
驚きのあまり聲も出なかった。
火虎「九十九つくもが自衛隊の無線や電報、通信網を完全に監視した上でやっと見つけた輸送システムだ。上層部は輸送システムだとたかを括っていたが、あの老害連中はこいつの恐ろしさを知らないんだ。」
火虎はそう言うとホワールウィンドの橫に増設されているタンクを指さした。
志禮「あのマークは!!」
タンクには放線を意味するマークが記されていた。
火虎「こいつの力源は放線、それも臨界點ギリギリのウランだ。」
志禮「連中、こんな危険なものを。」
火虎「危険なのは放線ではない、ホワールウィンドこいつの能だ。」
火虎は吸っていたタバコを捨てて続けた。
火虎「俺も理解に苦しむ、こいつは人間などの輸送目的の細胞や粒子を傷つけないように分解し、それを放線でに近い速度まで加速させ、それを目的の場所に飛ばすというものらしい。」
この突拍子もない話に勿論志禮は著いていけていない。
火虎「それで輸送するだけならまだしも、こいつはアメリカンAA社の説明によれば過去にもを飛ばせるらしい。」
志禮「信じられない。まるでファンタジーです。」
火虎「そうだろう、俺も信じられなかったよ。でも開発元のアメリカンAA社が公表してるんだ。それだけじゃない、ちゃんとした論文まで発表されてる。」
志禮は溜息をつきながら兵舎に今度こそ戻ろうとした。
火虎「ホワールウィンドこいつが屆かないことに気がつくのは奴らの力だと三日後位か、そこから更に敵の特定で1週間以に自衛隊やつらが攻め込んでくるぞ。」
志禮「分かっています。」
志禮は相変わらずぶっきらぼうな返事を返して兵舎に戻っていった。
火虎「は良い奴なんだが…」
志禮「はぁ…」
兵舎の自室に戻った志禮は即座にパンイチになってベッドに寢転がった。
し経つと志禮の頭の中で聲が聞こえた。
???「………カエシテ……」
志禮「な、何だ。誰だ。」
???「………ユウザイハンケツトスル。」
その聲は次第にハッキリと聞こえるようになっていった。
???「弁護のしようがありませんね。」
志禮「??」
???「被告人は前へ。」
志禮「このじ、どこかで…」
志禮は何となくどこかでじたことのある雰囲気をじていた。
志禮「まさか、このじ…」
志禮は気が付くと変な臺の上に立っていた。
目の前には何人もの初老の男達がスーツを著て座っている。
何か書いた板が男達の前に立ててあった。
志禮「検察?これ、裁判か?」
裁判「被告人は前へ。」
裁判の聲につられて志禮は前に出た。
裁判「被告人、雪風志禮。君が彼を殺したのか?」
裁判の質問に志禮は黙っていた。
この質問がいつのことを表すかはわかっていたのに聲が出なかった。
検察「裁判長、答えられないというのは事件を犯してしまった思春期の青年にはよくある話です。もし本當にしていなかったらすぐに否定できるはずです。」
志禮「………」
検察はすぐに証拠寫真を出した。
これも見覚えがあった。
寫真には顔面が完全に潰された學生服を著た男の死と、眉間にナイフが突き刺さった子高生の死。
その他にも6人分の男の死の寫真が提示された。
検察「彼らには被告人をめていたという共通點があり、彼らはそれを楽しそうに見ていたとのことです。」
志禮「待て、こいつらは俺から金を奪って、命さえも奪おうと…」
裁判「もういい、この事件は殘忍が高すぎる。明確な殺意を持って犯罪を犯したとみなし、被告を死刑とする!!」
志禮「待て!!そんな馬鹿な裁判があるか!!やり直せ!!ふざけるな!!俺はまだ死にたくない!!こんな終わり方は嫌だ!!」
そのび聲は裁判には屆かなかった。
志禮「嫌だ!!いやだぁぁ!!」
倉須「起きてください!!」
志禮「はっ!?」
気が付くと志禮は自室のベッドにいた。
志禮はボタボタと冷や汗をたらし、目からは涙が滴っていた。
倉須「どうしたんですか?これまで以上に酷かったですよ?」
同じ部隊の隊員である倉須が志禮の寢室にってきて志禮の安否を確かめに來ていた。
倉須「顔も悪いですし、今日は休暇をとってはいかがですか?」
志禮「心配してくれてありがとう。
もう大丈夫だよ。」
優しい聲で倉須にそう伝えると志禮は軍服に著替えて部屋から出ていった。
志禮が真っ先に向かったのは食堂だった。
朝は無理矢理にでも何か食べないとが持たない。
黒崎「あれ?先輩、どうしたんですか?」
志禮「ん?二日酔いだよ。」
黒崎「何言ってるんだが、まだ19歳でしょう?桜木に連れ回されたんですか?」
志禮「そっちの方がましだな。」
志禮は力のない返事をした。
志禮「全く、俺の苦労もじてくれ。19歳で部隊の指揮系を任せられ、喋らない部下、ぽん刀振り回すスキンヘッド、後輩、関西人。更に何故こんな騒な所で働いているかわからない隊員が2人ときた。」
志禮が食堂で世間話をしながら朝ごはんを食べていると、志禮のすぐ後ろで一人の男が黙ってたっていた。
志禮「まぁたあんたか?今度は何いちゃもんつけに來た。」
志禮の後ろにたっていたのは志禮と同じタイミングで隊した時津風柊亜だった。
時津風「今度の作戦も大層な暴れようだったらしいじゃないか。」
志禮「別に。」
時津風「何人殺した?」
志禮は黙っていた。
答えるとろくなことにならないと分かっていたからだ。
時津風「何人殺したと聞いている。」
志禮「なくともあんたの通算スコア以上だな。」
嫌味な返しに時津風は勿論キレた。
時津風「どうしてそう躊躇いもなく人を殺せるんだ!!」
突然時津風が志禮のぐらを摑んだ。
力いっぱいにぐらを摑んで離そうとしなかった。
黒崎「ちょっ、やめてくださいよ!!」
志禮「構うな、こいつは俺の客だ。」
時津風「幾ら敵といえど命があるんだぞ!!なぜ人を殺す!!」
時津風の怒號に怯むことなく志禮は返答する。
志禮「それが命令だからだ。」
時津風「それなら、隊長が俺を殺せと言ったらお前は俺を殺すのか!!」
志禮「ああ、殺すね。そうしないと俺はここにいられないんだ。銃を持って殺したくない殺されたくないなんて蟲が良すぎるんだよ。」
時津風「っ………」
志禮はぐらを摑む時津風の手を無理矢理に外した。
時津風は一瞬だけ力を抜いていた。
志禮「人を殺したくないならここなんかよりも銭湯の番臺でもしてりゃいいんだよ。それなら死の山よりものを拝めるぜ?」
まさに時津風はぐうの音も出ないと言ったじだった。
志禮はそれに構わずに再び朝ごはんを食べはじめた。
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