《複垢調査 飛騨亜禮》私怨
「ちょっと訊きたいんだけど、飛騨君はどうやって複垢を見抜くの?」
神楽舞はいつもの調子で雑談をはじめた。
いや、外注スタッフの能力把握も業務のうちだと言えなくもないと自分自に言い訳してみる。
「いや、何となくピンと來るんですよ。ほら、人ごみで知り合いの顔が浮かび上がって見えて、聲かけるということがあるじゃないですか。あれって、人間の無意識の知覚能力の『暗黙知』というものらしいですよ。上手く言葉にできないけど、何となくわかるというやつです」
モニター越しの飛騨亜禮は、最近、買ったらしいサイバーグラスを直す仕草をしながら、キーボードに何か打ち込んでいる。スモークグラスになってるので表は窺い知れない。
「IT企業に勤めてるのに、飛騨君は意外とアナログ派なのね。それ、『ナレッジマネジメント』とかに応用されてる『暗黙知理論』でしょ?」
神楽舞も最近、買ったピンクのサイバーグラスをかていたりする。
ふたりとも、敢えてそのことにはれない。
ちょっと、気まずい。
「舞さん、意外と知りですね。人間って自転車に乗るときなどに、無意識のうちに無數の筋を調節して乗ってるらしいんです。最初は苦労するけど、コツをつかむと無意識で自転車に乗れるようになる。つまり、意識できない無意識の力によって人間は生活してるとうことになりますね。だから、ハンドルネームが変わっても、小説の文章や作風、コメント欄のやりとりで何となく相手のことが分かるというのも『暗黙知』のお蔭なんでしょうね」
うーん、そんなものなのか。
何となくわかるわ。
これが暗黙知?
「それで、非常に言いにくいだけど……。『お嬢様は悪役令嬢』に変な評価ポイントがってるのよ。たぶん、複垢なんじゃないかと……どう思う?」
舞は以前から気になっていたことを尋ねてみた。
「―――舞さん、あなた、ついにやっちまいましたね!」
飛騨はキーボードを打つ手を止めた。
見えない視線が舞に突き刺さる。
「違うわよ。私じゃないわよ。どうして、複垢を取り締まる側の運営スタッフがそんなことしなくちゃならないの?」
「いいんですよ。舞さん、ここだけの話にしておくから、正直になりなさい!」
「だ・か・ら、違うんだって!」
無実の罪なのに、何故か焦ってしまう。
「―――冗談はさておき、それ、複垢ですよ。確か一か月前ぐらいからありますよね」
「気づいてたの? 何で教えてくれないのよ!」
思わず、聲を荒げてしまった。
「泳がしておいたんですよ。ちょっと面白いきをしていたので。舞さん、最近、誰かに恨みを買ったことは?」
意味深な発言である。
「どういうこと? 飛騨君ぐらいしか思いつかないわ」
つい本音を言ってしまった。
「自覚はあるんですね。たぶん、これは私怨による複垢なりすまし案件です。舞さんの作品をBANさせるために、わざと舞さんの文を真似たコメントとかを想欄に殘してますし、間違いないでしょう」
それこわーい。そんなことあるの?
今日の飛騨君、サイバーグラスで表が読めないので不気味だわ。
「うそ、でも、飛騨君以外で恨みを買った記憶がないわ。まさか?」
今日は何故か口がりまくる。
仕事のストレスかも。
「違いますよ。そんなことしても僕は楽しくないし。私怨というより、嫉妬に近いんでしょうね。舞さんの作品がたまたま評価が高いのでそうしただけで、別に誰でも良かったんでしょうね。つい最近、黒子のバスケ事件というのもあったし、そういう話だと思います。サーバーのログと照合して処理しときますよ。それと気を付けた方がいいですよ」
「気をつけるって、どうすりゃいいのよ?」
舞は飛騨に詰め寄った。
「活報告で『日間ランキング200位!』とか書かないことです」
いや、すいません。
タイトル『日間ランキング○○○位!』ばかりでした。
申し訳ないです。
今日から謙虛になります。
三月下旬、春のBAN祭りも佳境である。
今年も大した事件は起こらないでしいな。
先日の案件の推移も気になる。
そんな彼の願いも空しく、小説投稿サイト『作家でたまごごはん』最大の事件が起こることになる。
とはいえ、それはもうし先の話である。
(あとがき)
黒子のバスケ脅迫事件 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E5%AD%90%E3%81%AE%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%B1%E8%84%85%E8%BF%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6
自己承認求がこじれたテロ事件のようなものなんでしょうかね?
格差社會が可視化される時代特有の犯罪なんでしょうね。
押井守監督のパトレイバーのシリーズ構に學んで、短編連作の最後は『首都決戦』とか、『特車二課の一番長い日 前後編』みたいなイメージで考えています。
http://patlabor-nextgeneration.com/
『匿名捜査タグ』でこういうシリーズ構やりたかったんですが、エタってたりします。
http://ncode.syosetu.com/n3966bx/
まだ、最終話は何も思いつかないですが、10話ぐらいで終わる予定で、何とか無事完結したいですね。
第六、七話のタイトルは『まとめサイト』『組織票』です。
ちょっとグレーな話なんで、上手く書けたらいいですが。
【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
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