《複垢調査 飛騨亜禮》ハッキング~『作家でたまごごはん』の一番長い日 後編~
「だけど、パスワードに誕生日を使うのは推測されやすいので、いけないんじゃなかったかしら?」
神楽舞が疑問を挾む。
マリアもようやく分かったようだ。
「そこが飛騨さんの狙いというか、あの人のやり方は常に二段構えなんです。<プロフェッショナルキラー>という仇名があるくらいです」
「どういうこと?」
「舞さんの誕生日である『19XX0210』を僕が持ってる暗號変換ソフトに力すると、それをキーボードを経ずにパスワード力できるんですよ。キーボードのログを記録するウィルスソフトはハッカーは大、持ってますから、ID、パスワードのみならず、クレジットカードの番號までダダもれです」
「何でメガネ君がそんなソフト持ってるの? それと、結局、IDは何なのよ?」
マリアが訊いてきた。
「『Mag Air Auk』は並べ替えると、『kaguramai』になるでしょ。で、パスワードは『19XX0210』と思わせておいて、実は違う。ハッカーはこのパスワードを設定した飛騨さんを素人だと馬鹿にして、逆に罠に落ちるんです。僕はリアルの飛騨亜禮とは面識はありませんが、IMT.COMのネットゲーム<刀剣ロボットバトルパラダイス>の『飛禮』とはもう何年も付き合いがあります。僕は飛禮隊の副隊長として、いつも彼のそばにいましたからね」
懐かしい、本當に懐かしい名前をメガネ君は久々に言葉にした。
<刀剣ロボットバトルパラダイス>のラスボスである<スケルトン中華ロボ>討伐戦以來、飛禮はネットから姿を消していた。
メガネ君は生き殘りのメンバーと新規メンバーで部隊を再編し、飛禮の帰りを待ちわびていたが、彼は一年間待っても帰って來ることはなかった。
それが、こんなところで、飛禮のリアルの姿である飛騨亜禮から連絡をもらうことになるとは。
しかも、阿吽の呼吸で全幅の信頼を持って「メガネ君ならわかるはずだ」と言ってもらえたことにししていた。
「ネット繋がりなの? なるほどなるほど」
マリアもやっと納得したらしい。
「では、とりあえず、ウィルス駆除に全力を挙げて。<作家でたまごごはん>のサイトは第二サーバー経由で再立ち上げして、ユーザーをそちらに導してね」
マリアはてきぱきと指示をだした。
先日の事件以來、気落ちしてたからメガネ君も心配していたが、どうやら回復してたらしい。
「さて、それでは、頑張りますか」
チャラ夫君も気を取り直してパソコンに向き直る。
<作家でたまごごはん>サイト消滅の危機は去った。
と、全てのメンバーが思っていた訳ではなかった。
†
ウィルスの駆除は翌朝までかかっていたが、朝方には何とか片がつきつつあった。
マリアは煙草を吸いに<作家でたまごごはん>のビルの屋上に來ていた。
「はい、社長ですか? IDは分かったんですがパスワードはまだです。でも、手方法は判明したので、すぐわかります。第二サーバーの位置も特定しましたので、いつでもハッキング可能です」
マリアは煙草を吹かしながら、謎の社長とスマホで會話していた。
その様子をドアの隙間から見ているふたりがいた。
(やっぱり、マリアさんがスパイだったか)
メガネは殘念そうにつぶやいた。
(そうね。でも、飛騨さんの作戦は大當たりね)
神楽舞は最初からスパイを炙り出すために<作家でたまごごはん>に來ていた。
メガネ君に<刀剣ロボットバトルパラダイス>のメッセージで事前メールをしていた。
(殘念ながら。飛禮の作戦は常に三段構え以上なので、常人というか、常に彼の作戦を見ていた僕でさえ、一年ぐらいして本當の意図に気づくということがあったりしました。<プロフェッショナルキラー>の二つ名は伊達ではないですね)
坂本マリアに見せたIDの謎解きも暗號解読も全てダミーであり、第二サーバーの存在も実はダミーである。本當のサーバーは別の所にある。バックアップサーバーも複數存在する。
暗號解読ソフトはメガネ君の頭の中にあり、飛禮隊のメンバーはみんな非常時の暗號を記憶していた。
それは<刀剣ロボットバトルパラダイス>のギルドには、規模が大きくなるに比例して常に他のギルドのスパイが潛していたので、そういうスパイを炙り出す技、機管理スキルが進化していたからだ。
その中でも、飛禮は本當に底が知れないプレーヤーだった。
だから僕はあの人に憧れて、背中を追っていたんだよな。
(殘念だけど、メガネ君にはマリアさんの監視をお願いするわ)
神楽舞も申し訳なさそうに言った。
(了解しました。引き続き任務を遂行します)
メガネ君は自分が好きになるのは悪ばかりだと思った。
好きな人が犯罪者や詐欺師、メンヘラばかりで、もうしまとも普通のにも出會いたいと思っていた。
まあ、自分の期の育ち方が悪かったのかもしれない。
ネット小説投稿サイト<作家でたまごごはん>の危機はひとまず終息した。
坂本マリアという火種を殘して。
そして、メガネ君は更なる混とネット小説サイトの戦國時代に巻き込まれることになるのだが、それはまた、別の話である。
(あとがき)
ちょっと謎解きがあれでしたが、『24』の第一シーズン的展開にしました。
「ブラウザ三國志」というネットゲーしてましたが、200人規模ぐらいの同盟、ギルドには常にスパイがいて、報ダダもれのことが多かったり、重要拠點に隣接領地を持ってるプレーヤーが寢返ったりで、結構、スパイ戦は基本でしたね。
スケルトン中華ロボ討伐戦/安倍晴明と安東総理のやり直し転生譚
http://ncode.syosetu.com/n3265cr/15/
今回、こちらで張った伏線を回収しまして、第三章でまた伏線をあちらに張り返すことになります。
次回「焼きパーティー」でマリアのちょっといい話をやって、ひとまず、第二章は終わって、第三章『ネット小説投稿サイト三國志』編になります。
安倍晴明と安東総理のやり直し転生譚
http://ncode.syosetu.com/n3265cr/15/
こちらの方も今日中に続きを更新する予定です。
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