《複垢調査 飛騨亜禮》常世岐姫命

「ライト君、気がつきましたか?」

薄桜を纏まとった天のようながライトを見つめていた。

黒髪を結い上げていて、鼈甲べっこうのかんざしが左右に三本づつ刺されている。

花魁おいらんのような容姿にも見えるが、桜の神的な瞳を持っていた。

人というより神のようにも思えた。

「え? 僕は助かったのですか? エリィは?」

ライトは永い眠りから突然、目覚めたように、その神のようなに尋ねた。

「殘念ながら、助かった訳ではなくて、し時間を止めました。私は常世岐姫命とこよきひめのみことと申します」

常世岐姫命は軽く會釈した。

「それって、どういうことなんですか?」

し嫌な予がしたが、ライトは聞かずにおれなかった。

「ライト君の選択次第で未來が変わるということです」

常世岐姫命さらりと答える。

「ある約束をしてもらえれば、あなたとエリィちゃんの命を助けましょう」

「約束って、どういう?」

ライトは張しつつ聞き返した。

「いや、簡単なことなんですよ。ライト君、ひとつだけ私の言うことを聞いてしいの」

「それって、どういう?」

「今はまだ。時が來れば分かります」

「雲をつかむような話ですね。わかりました」

「ありがとう。では、あなたを助けます」

常世岐姫命は幻のように消えていった。

巨大な龍の足に踏み潰される直前だったライトの前に、黒い人形の機が浮かび上がってきた。

<ニンジャハインド>が左手の漆黒の盾で巨大な龍の足をけ止めていた。

次の瞬間、右手の聖刀が一閃して、龍の右足を膝下から両斷していた。

右足を失った龍頭のボトムウォリアーはバランスを崩して地面に倒れた。

大地が揺れる。

「夜桜! 大丈夫か?」

ハットリ隊長から通信がる。

「何とか、間に合いました」

迷彩裝甲ステルスを使って機を消して、ライトたちを護衛してくれていたらしい。

ライトはしハットリ隊長を見直した。

でも、そうなると、あの常世岐姫命との約束とやらはどうなるのだろうか?

最初から助かるのが分かってて約束させられたということ?

(まあ、細かいことはあまり考えないことね。助かったのは事実でしょう)

常世岐姫命の聲がライトの頭の中に響いた。

(何か騙されたような気持ちなんですけど)

(それは気のせいよ)

という幻聴が聞こえるのだが、やはり、気のせいだろうか。

「エリィ、大丈夫?」

エリィはこくりとうなづく。

常世岐姫命の幻聴は置いといて、エリィが無事でよかった。

「ライトさま、が……」

エリィはライトの頭の傷にハンカチを當てて気遣った。

「ありがとう」

ライトはエリィの頭をでた。

<APアンドロイドポリス>の活躍により、事なきを得たエリィとライトであったが、後日、ふたりは<AP本部>に召喚された。

今回の事件の真相、今後の対策についてハットリ隊長から相談があるというのだ。

「ライト君、エリィちゃんもそちらに掛けてください」

ハットリ隊長が隊長室のベージュのソファを勧めた。

言われるままにエリィは席に著いた。ライトは車椅子のままだった。

ハットリ隊長がふたりの正面に腰掛けて、ダークグリーンの軍服姿のがコーヒーを三人分テーブルに置いた。

お盆を抱えてそのままは出て行った。

「今回の事件、大変だったね」

ハットリ隊長はメガネの向こうに微笑を浮かべた。

「はい、エリィがお世話になって。ありがとうござます」

ライトは深々と頭を下げた。

「ライト君、頭を上げて下さい。これが僕たちの仕事だから當たり前のことをしたまでです」

「いや、だけど、本當にありがとうございました」

ライトはもう一度、深々と頭を下げた。

「それで、今後の相談なんだが、エリィちゃんを預からせてもらいたんだ。何故、ボトムストライカーに狙われるのかはエリィちゃん自があるはずとしか考えられない」

ハットリ隊長はメガネをクイッと上げる仕草をしながら話を切り出した。

「それは……」

「ライト君もつらいと思う。だけど、これはエリィちゃんのためでもある。<AP本部>に居れば襲われる心配はないからね」

ハットリ隊長の言う事ももっともだった。

確かに、原因が分からないかぎり対処のしようもない。

「わかりました。エリィをお願いします」

ライトはハットリ隊長に全てを任せることにした。

エリィの小さな掌を握って、しばし別れを惜しんだ。

「エリィ、元気でね」

なるべく明るくいったつもりだった。

「はい、ライトさまもお元気で」

心なしか碧の瞳を潤ませながら、エリィは小さな手を振った。

ライトはハットリ隊長の執務室を後にして、車椅子で<AP本部>の一階ロビーまで下りた。

母親のべスが玄関まで迎えに來てくれる手筈てはずになっていた。

(ライト君、ちょっと話があるのだけど、いいかしら?)

常世岐姫命の聲が聴こえた。

周囲の人々のきが停止していた。

何となく世界がモノクロに黃昏たそがれて見えた。

あの出來事は幻覚ではなかったらしい。

時間が停止した世界で、ライトは薄桜を纏まとった天のようなに再會した。

の神的な瞳が妖しく瞬またたいていた。

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