《複垢調査 飛騨亜禮》魔王の使者

(ライト君、<刀撃ロボパラ>で地下迷宮に潛ってほしいの?)

時が止まったモノクロの世界で、薄桜を纏まとった<常世岐姫命とこよきひめのみこと>が妙な依頼をしてきた。

思念波のようなものが伝わってくる。

(え? それが命を助けた見返りですか?)

ライトは驚きを隠せなかった。

あまりにも意外な依頼だったからだ。

(そうです。私と一緒に行ってほしいのです。もうひとつサービスして、エリィちゃんも取り戻してあげますよ)

(え?)

あまりにもライトに都合がいい話に、逆にし警戒する。

(私はを持たない神霊なので、この世に干渉するためには憑代よりしろが必要なのです)

(それって、エリィは大丈夫なんですか?)

ライトの顔がし曇る。

(それはもちろん、大丈夫ですよ。何も無ければ彼の意識はそのままです)

微笑みながら<常世岐姫命>は斷言した。

(なら、いいけど)

ライトは不安に思ったが、拒否する選択肢もなかった。

(では、契約立ですね)

(……はい。それでお願いします)

まるで悪魔との契約に応じてしまったかのような居心地悪さをライトはじた。

(この辺りでいいのかな? <常世岐姫命>さま?)

ライトはSSSRトリプルエスレアクラスのボトムドール<紅くれない>で地下迷宮を降りていった。

この機はネットゲー<刀撃ロボパラ>に一機しかないもので、最難度イベント<スケルトン中華ロボ>討伐戦で生き殘った僅かなプレーヤーがガチャを引いた時に、天文學的確率で出る超レアで希なものであった。

その名の通り真紅に輝く機に白銀の雙眸、背中に聖槍<神ルーの槍>を裝備している。

(そうです。巖に隠れて、ここで待っていて下さい)

コクピットの前方座席にいるエリィの姿をした<常世岐姫命>はそう答えた。

そこは地下迷宮の最深部に広がる約1キロ四方の巨大な空間<ジオフロント>だった。

その中心には緑の淡いの魔方陣が描かれていた。

ライトはしばらく指示に従って巖に潛んでいた。

(いまさらですが、あなたは、一、何者なんですか?)

ライトは暇つぶしの気持ちで疑問をぶつけてみた。

(そうですね。私は古き神です。常世とこよ、常夜に住んでいる神です。常世とは死後の世界、黃泉の國、海の彼方の『ニライカナイ』、『竜宮城』、妖たちの住む『常若とこわかの國』、時が止まった永遠の楽園とも呼ばれている。どれもが正解で、どれもが間違っているとも言えます)

(その神さまが何故、僕の力が必要なのですか?)

それが一番の疑問だった。

(私のような常世の住人の神霊は、基本的にはこの世に干渉は出來ません。このあなた方の星は、最も古き神、大地母神<ガイア>によって治められています。彼の定めた法が絶対なのです。そこでこの星の住人の中で今回の任務に最も相応しいのが、あなた、ライト君なのです)

(大変な任務ということですよね。それは喜んでいいことなんでしょか?)

(そうですね。でも、ライト君は<刀撃ロボパラ>では最強プレーヤーのひとりですよね?)

<常世岐姫命>はライトの自尊心をくすぐる。

の瞳が妖しくまたたく。

(確かに僕は現実の世界では憐れなものですが、<刀撃ロボパラ>では最強に近いです。紅の閃ライトニングクリムゾンと呼ばれています。デタラメ和製英語ですが『Flash of Red《フラッシュ オブ レッド》』が正しいんでしょうが、この呼び名の方が気にってます)

ライトは誇らしげに語った。

現実の世界では足の不自由な障害者だが、ネットゲーの世界では皆に頼られその力を賞賛される。

それがライトがこのネットゲームにのめり込んだ原因なのだが、それは他のプレーヤーにも同じことが言えた。

ネット小説投稿サイトで流行している『異世界転生小説』もこれに似ている。

現実の世界ではいじめられっこであったり、ニートや派遣社員だが、ネットゲームの中では最強の主人公になれる。

『異世界転生小説』に皆がはまるのも、同じような理由なのかもしれない。

(<常世岐姫命>さま、僕の任務はどういうものなのでしょうか?)

自尊心を巧みにくすぐられ、すかっり<常世岐姫命>の中にはまってしまってるライトであった。

(そうですね。その転位魔方陣は<刀撃ロボパラ>の『火星ステージ』に繋がっています。そこにあるゲームエンジン<TOKOYO DRIVE>をあなたに破壊してしいのです)

(ゲームエンジン<TOKOYO DRIVE>?)

ライトは思わず訊き返した。

(それこそが諸悪の源なのです)

(一、それは何なのですか?)

ライトはを乗り出すぐらい興味をそそられた。

(そうですね。話せば長くなりますが、あなたに語っておきましょう)

<常世岐姫命>は高くて低い聲で歌うように言った。

この後、現実世界の存亡に関わるような謀をライトは知ることになるのだが、そんなことなど知らずに平和に暮らしていた方が彼には幸せだったかもしれない。

そういう意味では<常世岐姫命>はライトにとって魔王デーモンの使者だったのかもしれない。

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