《複垢調査 飛騨亜禮》戦國三國志
「萌さん、『戦國三國志』面白いですね。SF ジャンルの新人賞はこの作品にほぼ決定ですね。最初はSFジャンル一位だったけど、三文字小説『パレオ』のおで二位になってるけど」
飛騨亜禮は珍しくべた褒めである。
「確かに、品川駅S陣営が突如、自己増能力を獲得して上野駅Mに侵攻するかにみせかけて、実は大阪駅M陣営の謀叛をう罠だったという展開は史実を踏まえているし、歴史ファンには熱展開です。特に天下分け目の関ヶ原決戦シーンが秀逸で、品川駅S騎馬隊の突撃を一夜城『真田丸』が鉄砲の100段撃ちで壊滅に追い込んだと思ったら、実はそれは囮部隊で、背後の崖から義経、信玄、信長、謙信の品川駅Sの鋭騎馬隊が襲いかかかるのよ。ところが、大阪駅Mの天才軍師、諸葛亮孔明の<落としの計>の前に信玄が落としの底で憤死するんだけど『俺のを超えてゆけ!』という名ゼリフで盛り上がるのよ。そして……」
萌は『戦國三國志』の序盤の名シーンのネタバレを一気にまくしたてた。
「ちょっと待った! 萌さん! まだ、その小説、一話しか読んでないんだ」
飛騨は涙目になっていた。
歴史要素満載のSF『戦國三國志』は飛騨が読むのを楽しみにしていた小説であった。
好のおやつを最後に食べるタイプだったのが災いした。
「大丈夫よ。飛騨さん、ここから実に108回ものどんでん返しがあるし、ほとんど全編戦闘シーンが続いて、全く改行のない圧倒的な文章力、迫力に読者は飽きる暇もない。わたし、1100萬字を一気に読んじゃった」
萌さんが珍しく瞳をキラキラさせている。
いや、普通なら飽きるはずだが、それをここまで読ませるとは、作者の<イスパニアのユパ>の筆力は尋常なものではない。
「108回のどんでん返し、全く改行もなく一気に読ませる1100萬字の小説! 一、どういう小説なんだ? どうして三國志の英雄が大阪駅M陣営に混じってるんですか!」
飛騨はあまりの容に思わずんでしまっていた。
「いいのですか? ネタバレになりますよ」
その言葉とは裏腹に、萌の妖狐のような切れ長の瞳が猛烈に語りたがっていた。
「凄く気になるんで、是非、聞きたいんだが……」
飛騨は期待でごくりとのどを鳴らした。
「話すと長くなるんだけど、簡単に言うと、<SM効果>で中國大陸の駅Mが九州の博多駅Sとドッキングしてしまうんです」
「うわ! そう來たか! 博多駅Sは壊滅して、九州は無限増する駅Mの三國志勢に占領されてしまうのか! その後、東に進撃して行った駅Mと大阪駅Mとが同盟を結ぶ。確かにMとMは惹かれ合うからなあ。神武東征の歴史を再現してるとも言えますね」
「飛騨さん、わかってらっしゃる!」
『戦國三國志』ファン同士でなければ、意味不明なディープな會話がしばらく続いた。
飛騨はあくまで目次と一話だけ読んで勝手に想像してるだけなのに話が噛み合ってるのが不思議だが。
「飛騨さん、確かに面白い小説なんだけど、この作品が読まれてる理由は何なんでしょうかね?」
「たぶん、『SM効果』とか用語解説が必要なほど謎めいた世界設定がけてるのかも知れません。おそらくそれが『エヴァンゲリオン効果』を生んで作品に嵌る人が増えた。それに日本の戦國時代と三國志の合という夢の展開も僕のような歴史ファンを取り込んで人気に拍車をかけた。例えば、大阪夏の陣で非業の最期を遂げる真田信繁(幸村)ですが、彼の味方に天才軍師、諸葛亮孔明、劉備、関羽、張飛、趙雲、馬超、曹、夏候惇に夏候淵、さらに、孫権、周瑜、魯粛、呂蒙、陸遜も出てきますから、もう歴史ファンにはたまらない。中盤から董卓、呂布、司馬懿も登場して強力すぎる大阪駅M&駅M陣営に対して、坂本竜馬や新撰組が登場するシーンは日本人にはの展開でしょう。最後は卑彌呼、神武天皇、八百萬の神々の力を借りた品川駅S陣営が圧倒するわけですが、中盤の沖縄沖海戦でアメリカ、ドイツ連合軍の急降下撃機に苦戦する最前線原子力戦艦空母『真田丸』の直掩ちょくえんにゼロ戦が現れた時には僕は喝采しましたよ! もうこれだけ歴史小説の面白さを詰め込んだら1100萬字は仕方ないですね」
目次と一話だけしか読んでないのに、これだけ語れるのは飛騨亜禮の特技である。
「飛騨さん、大、合ってる。確かにそうかも知れないわ。『戦國三國志』ってツイッターで思いつきでつぶやいたものを小説にしていったらしいの。ツイッターで1日にフォロワーが1000人ぐらい増えたこともあって、本の理學者から設定のアイデアが出てきたり、ツイッター民に支持されて集合知によって完された『Twitter小説』とも言えるわ。『戦國三國志』のツィッターのまとめの閲覧數が120萬超えてるし、日本の人口の1%というのも凄い」
萌もいろいろとリサーチしてるらしい。
「文字制限があるツイッターで、斷片的なアイデアを出していって、それを小説にまとめるのはいいかもしれないね」
飛騨はネット小説投稿サイトの<作家でたまごごはん>にかに連載してる小説『聖徳太子の志能便しのび』という自分の作品作りに生かすつもりである。
「これって、<作家でたまごはん>のヒット小説の『あくゆう悪魔勇者』(作者:譽ももよ)の作品の誕生に似てますよね。あっちは巨大ネット掲示板<サブちゃんねる>に連載されたものが書籍化された。たぶん、『戦國三國志』も新人賞を賞して大手出版社<KAWAKAMI>から出版されるんだろうけど、この作品が<作家でたまごごはん>ではなくて<ヨムカク>に投稿されたのは非常にラッキーでした。運営としてこういう場所を作れたことは良かったなと思います」
最近、萌の瞳に元気が戻ってきていいのだが、逆に<作家でたまごごはん>の運営の神楽舞の機嫌が非常に悪いのだ。
今や、ネット小説投稿サイトで最強を誇るようになった<作家でたまごごはん>も4月からジャンル再編で忙しいようだ。
それは<作家でたまごごはん>のトップ人気作家をことごとく引き抜いて、その小説を大ヒットさせた大手出版社<KAWAKAMI>が、ついに新ネット小説投稿サイト<ヨムカク>を作ることで、<作家でたまごごはん>一強だったWeb小説業界に勢力変が起こると言われてるからだ。
とはいえ、<作家でたまごごはん>は最強のネット小説投稿サイトなのだが、大手出版社<KAWAKAMI>やネット出版社<メガロポリス>とは協力関係にあり、本が売れる→それが無料で読める<作家でたまごごはん>に読者が集まるという好循環が生まれていた。
だから、大手出版社<KAWAKAMI>が新ネット小説投稿サイト<ヨムカク>を、Hブックマーク、Hブログなどで有名なH社と組んで立ち上げた時、運営の神楽舞は「何じゃこら!」と思ったようだ。
大手出版社<KAWAKAMI>のK社長の戦略としては、<作家でたまごごはん>で流行ってる『異世界転生小説』ではないWeb小説の発掘を目的として新ネット小説投稿サイト<ヨムカク>を立ち上げていた。
最近の<作家でたまごごはん>出の<KAWAKAMI>作家のベストセラーでの活躍が目覚しく、K社長が経営する會社<ドランゴ>でも、ネット民を取り込んだ<サブサブ畫>が大ヒットした功験を持っていた。
その手腕が買われて、大手出版社<KAWAKAMI>の取締役社長にスカウトされたのだが、大手アニメスタジオ<シブリ>に行ってエンターテーメントを學んだりしていて、大手出版社<KAWAKAMI>をネットに適応した出版社に生まれ変わらせるのが使命であると考えていた。
その改革の一手が新ネット小説投稿サイト<ヨムカク>であったのだ。
まあ、そういうことだから、<作家でたまごごはん>と<ヨムカク>はある種の補完関係にあり、<作家でたまごごはん>から流れてきた小説家が活躍する訳ではなく、全く違う場所で生まれた異の小説家が活躍してる展開になってるので、神楽舞の心配は今のところは杞憂である。
「そうですね。僕はそろそろ上がらせてもらいます。萌さん、良い土日を!」
「飛騨さん、まさかこの土日に<作家でたまごごはん>の神楽舞さんのところにいらしゃらないわよね?」
飛騨亜禮はさりげなく退社しようとしたが、萌の追求は鋭かった。
「まあ、この前、ドーナツを陣中見舞いにくれたでしょう。お返しぐらいはしときたいですが、長居はしませんよ」
全く行かないというのは不自然なのでちょっと伏線と予防線を張っておいた。
「飛騨さん、お茶もう一杯れましょか?」
京都では「ちょっと上がっていきなはれ」「お茶漬け食べていきなはれ」「お茶もう一杯れましょか」は、全部『はよ帰れ!』の意味である。
萌の切れ長の狐目はしく、それがかえって怖い。
「――――」
流石の飛騨もここは三十六計逃げるにしかずを実行するしかなかった。
<ヨムカク>のビルの一階にエレベーターで降りた時には額に汗がにじんでいた。
ダークブルーのサイバーグラスを外して汗をぬぐった。
とりあえず、舞さんのところにお土産もって行ってみるかな。
<パティスリーエンドレス>のケーキにするか。
土曜日の朝からいい男が人気ケーキ屋に並ぶのも微妙なものもあるが。
しかし、<作家でたまごごはん>と<ヨムカク>は一、どんな変貌を遂げるのだろう?
ネット小説業界の行方も気になる。
だが、飛騨亜禮の予知眼でも、ネット小説の行方はまだ全てを見通せないでいた。
(あとがき)
※直掩ちょくえん……戦闘機が空母などの護衛にること。直掩機とは、味方の航空機、艦船、飛行場などを掩護えんごする航空機。直掩とは直接掩護の略である。
※『橫浜駅SM』ってツイッターで思いつきでつぶやいたものを小説にしていったらしいの。
http://togetter.com/li/766019
※本の理學者……Hal Tasaki@Hal_Tasaki 田崎晴明【數理理學者・私學教員】主たる「報発信」は古き良き web ページでやっています。
https://twitter.com/Hal_Tasaki
※Hal Tasaki@Hal_Tasaki 2015-01-07 01:28:25
しっかし、『橫浜駅 SF』(この仮題が正式タイトルになるのかな? 主人公は「ユバ」だよね)のまとめの閲覧數が 12 萬ってすごいね。日本の人口の 0.1 % じゃん。
こういう現場に(アホみたいな役回りとはいえ)立ち會えたのは楽しい。
togetter.com/li/766019
※ラノベ作家・橙乃ままれ、稅容疑で告発。みんなの反応
http://matome.naver.jp/odai/2142890349401158101
※ネット出版社<メガロポリス>……『複垢調査 飛騨亜禮 第三章 ネット小説投稿サイト三國志 第21話 ネット小説投稿サイト三國志』あたりに解説があります。https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720/episodes/4852201425154919404
※「お茶れましょか」の真意が怖い…京都人が“本音と建前”を使い分ける理由
http://spotlight-media.jp/article/93643103861631117(リンク切れ)
※土日月のみ営業の京都で人気のパティスリータンドレス
http://tabelog.com/kyoto/A2601/A260303/26003706/dtlrvwlst/39997521/?lid=unpickup_review
僕の小説は現在、note発なので『note小説』なのかもしれないが、noteは小説にリンク張れるのがいい。ブログ時代なのだからそういう小説があってもいい。
僕も『橫浜駅SF』マジで一話の半分ぐらいしか読んでないですが(時間がないので)、周辺報から容を推察しています。何か凄い小説らしい。10萬字超えたら読みます。
次回予告、『子保育園児二人がスマホゲームをする話~保育園落ちたの私だ!~』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880285310
次々回予告、『保育園児、分裂する』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880468173
二話、保育園児ネタで押してみようと。これで9萬字はい。
今、話題のネタも蒸し返してみる。
しかし、SFジャンル1~4位に注目作が集中してる。
この『複垢調査 飛騨亜禮』もSFジャンルですよ。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720
10萬字書けたら、僕が気になる作品をピックアップする『スコップ編』もやります。飛騨亜禮の非常にマニアックかつ、偏った作品批評が展開されます。
あくまで、このお話は平行宇宙パラレルワールドで繰り広げられるフィクションであり、全編が本格SFストーリーなのは言うまでもない。
ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】
【書籍第2巻が2022年8月25日にオーバーラップノベルス様より発売予定です!】 ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あの親のように卑劣で空虛な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め稱える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これは少し歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※カクヨム様にも掲載させていただいています
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