聖治は堪らず聞き返してしまう。黙って聞いていようと思っていたのだが、疑問につい口がってしまった。

しかし、それだけに腑に落ちない話だ。世界を左右するほどの組織の存在を認めろという話すら現実離れしているのに、その組織が、たったの三人のはずがない。

それはたった三人で國をすらかすことも同然だからだ。

「実質的には違うんだけどね。その三人それぞれが、多大な規模の勢力を持つリーダーなの。一つの勢力だけでも、その規模は大國に匹敵するとか。だから彼らの衝突は避けなくちゃならない。ゼクシズはいわば実態の伴わない不戦協定だけが目的の魔結社。ゼクシズそのものが何かを起こすことはないわ」

それぞれが多大な規模を持つ勢力のリーダー。それならば名前があるのは三人だが、その背後には數えきれないほどの人數がいることになる。

「それで、その一人が天上てんじょうの魔師と呼ばれるアンデルセン。もう一人が悪魔召喚士の首領、魔帝ソロモン。最後の一人が、魔卿まきょう騎士団団長、かつて剣聖けんせいと謳われた、グレゴリウス」

「グレゴリウス……」

聖治は呟いた。それが魔卿まきょう騎士団と言われる組織のトップ。

聖治たちを襲ってきた謎の男も魔卿まきょう騎士団と名乗っていた。ならば自分たちと関係が深いのはそのグレゴリウスだ。

「魔卿まきょう騎士団とは、古くから武と魔を組み合わせて戦闘に特化させ、それによって勢力を拡大してきた組織なの。

魔が存在する以前の武組や、新規に魔を修めようとする人たちを取り込んでね。

それでかつては栄華を誇った魔卿まきょう騎士団だったんだけれど、実は団長であるグレゴリウスは、百年も前に戦いに敗れて死んでいるの」

「え？　でも、さっきほどゼクシズの構員だと」

「亡霊なの。は滅んだけれど、零として未だに現世に殘り続けている。そのためゼクシズに名前は殘っているの。でも、敗北した団長、加えて亡霊でしかない彼にはかつての威はなくなり、求心力は著しく低下した。魔卿まきょう騎士団は廃れ、今ではゼクシズでもその立場が危うくなっている」

彼の話では魔卿まきょう騎士団とは力の向上、いわば強さを求める組織のようなものだ。

その団長が敗北しているとなれば、人が離れていくのは當然のり行きだ。

「だが、それならなぜ仲間のから新しく団長を選任しないんだ？」

「いないの。グレゴリウスに並ぶ実力者が。亡霊になって生前よりも力は落ちてはいるらしいんだけれど、それでも見合う相手がいない。亡霊にも勝てない魔卿まきょう騎士団というレッテルは、衰退すいたいに拍車はくしゃをかけたわ」

香織かおりさんの説明に聖治は無言ので納得していた。

魔卿まきょう騎士団から教えをもらっても、結局は亡霊となり弱化した人にも勝てないのかと失した人から抜けて行ったのだ。

「このままでは魔卿まきょう騎士団はゼクシズから外され、不戦協定としての抑止力は無くなってしまう。そうなればアンデルセンとソロモンとの抗爭に発展しかねない。世界中で、戦爭になるかもしれないの」

「戦爭だって？」

香織かおりさんの口調に僅かながら熱が籠る。特に、戦爭と言う単語が力強く伝わった。それは言外に最大級の危険が迫っていると、そう告げていた。

「魔卿まきょう騎士団には一刻も早く新たな団長、復興を起こすほどのカリスマが必要なの。だけど現狀ではおらず、苦悩の末に辿り著いた答えが、いないのならば作ればいいという、至極単純なものだった」

そこで、香織かおりさんは気迫のった表から辛そうに目を細めた。意気は沈み、頭はさらに項垂れた。

その様子から聖治は察した。何故彼が悲しそうにしているのか、星都せいとや力也りきやが剣を出現出來たのか。それらがパズルのように合わさって答えを出した。

「それが、星都せいとや力也りきや、香織かおりさん。三人が新たな団長となるべく作られた存在だって言うのか？」

「君もだよ、聖治君……」

「俺も……？」

そう、槍を使う男は聖治を新りと呼んでいた。聖治も皆と同じ団長候補の一人なのだ。

「しかしどうやって？　魔なんてもの今知ったばかりの俺が、そんな組織の団長なんてなれるはずがない」

「確かに、私たちは弱いわ。夕方襲撃をけて負けたように。でもね、それは私たちが完していないからなの」

「完？」

聖治は聞き返す。

それで香織かおりさんは答える。それは槍よりもするどい衝撃だった。