「だって、聖治君は遊んだこととか、街を歩き回ったことはないんでしょ？

私や皆森みなもり君や織田おだ君は一緒に遊びに行ったことはあるけれど、君は來てすぐにセブンスソードが始まっちゃったから……。

それって寂しいことだと思うし、だから、聖治君がむなら多はいいなって、私は思うよ？」

（違ったか）

殘念でした。

期待とは違ったが優しさは嬉しい。彼は本當に優しい人だなと聖治は改めて実した。

「いや、俺は大丈夫ですから。寂しいなんて気持ちはない」

彼の笑顔に向かって自分の気持ちを伝える。強がりでも見栄でもない、それが聖治の本心だった。

「本當に？」

「はい。確かに、俺は作られたばかりかもしれない。寮で別れた後、いろいろ思い出そうとしてみたんです。

だけど、思い出せなかった。たとえば中學の修學旅行や、どんな友達がいたとか、思い出そうとするとするほど思い出せない。

だが、一般常識なら迷わず出てくる。知識はあるのに、思い出はない。それがなんだか怖かった、不安にもなった。過去がないというのは、かなり怖かった……」

聖治は語るに連れて視線が足元に向かっていた。それと同時に気持ちもどんどん沈んでいく。けれど、聖治は顔を上げ正面を向いた。

「でも、俺には今がある。星都せいとや力也りきや、香織かおりさんがいる。それに今では此方こなたや日向ひなたもいる。

たとえ過去がなくても、思い出がなくても俺には仲間がいる。

思い出なら作っていける。今日を生きて、明日をみんなで迎えられる。だから俺は大丈夫です。そして、楽しい思い出を作るためにも今を頑張らないと」

たとえ過去がなくても、思い出はこれからいくらでも作っていける。

しかし、セブンスソードが始まってしまったら、魔卿まきょう騎士団に襲われたら、仲間が一人でも殺されてしまったら、楽しい思い出が作れなくなる。

だから今を頑張らないと駄目なんだと、聖治は答えを見い出していた。

「うん。分かったよ、聖治君の気持ち。なら一緒に頑張ろうか。もう一人を探しに」

「はい」

聖治は頷いた。聖治の様子に香織かおりさんも嬉しそうにしている。彼が嬉しそうで聖治も嬉しくなるが、気持ちを切り替え表を引き締める。

もう一人を探そう。

魔堂まどう魔來名まきなを。

そして七人全員で力を合わせ、セブンスソードを生き抜いてみせよう。

そうすれば彼の笑顔がもっと増える、彼の優しさを大事にしたいから。聖治はもう一人を探すことに靜かにやる気を燃やした。

聖治たちは大通りを歩き回った。

インテリアショップや飲食店にっては魔堂まどう魔來名まきなの外見を伝えて見覚えがないか聞き回り、ホテルなどの宿泊施設にも利用した記録がないか、聞ける範囲で調べてみた。

けれど、なかなかうまくはいかず繰り返す度に返ってくる答えは知らないの一つだけだった。

それでも諦めず別の店を探して、聖治たちは必死に探し続けていた。

「ふぅ。なかなか見つからないな。もしここにいるなら誰か見かけていても良さそうなんだが」

聖治は収穫が未だにないことに弱音を吐いてしまう。時間だけが過ぎていき、焦りと疲労だけが募っていく。

「ふふ。頑張ってるね、聖治君」

なのに、香織かおりさんは笑いながら話しかけてきた。聖治は疲れはじめているというのに、この人はスキップでも始めそうなほどご機嫌だ。

「そりゃあ、頑張るさ。これからが掛かっているんですから。香織かおりさんは頑張っていないんですか？」

自分とは対照的な態度に思わず口先が尖る。結果がまるで出ないのに、何故この人は楽しそうなのだろうか。

「ううん、ごめんなさい。だけど、君が最後の一人を真剣に探している姿を見ていると、つい嬉しくて」

香織かおりさんは悪そうに謝っているが、それでも顔は笑っている。口元に手を當てる仕草は上品というか、古風なを思わせた。