暴の風。刀から発する破滅のオーラ。それは安神やすかみ此方こなたが使用していた時とは異なり、無からどす黒い波となって周囲に広がった。

また、変わったのは見た目だけではなくその能力。

カリギュラの波が広がると同時に、接する地面のアスファルトにヒビがっていく。それだけでなく、展開することにより呑み込まれた自販売機が機能を停止した。

魔皇まこう剣、カリギュラ。所持數が六本となればそれは生命力や運気だけでなく、壽命を吸っていた。

カリギュラは津波のように差點を覆い盡くす。直後、停車していた車はガス欠、信號はを失い、そして――ビルが倒壊し始めた。

有機無機の區別なく、あらゆるもの全て死ねと暴の風は世界を覆う。魔皇まこう剣の一本で、都市一つを壊滅させられるだけの力を持っていた。

辺りを覆う轟音。天変地異の如き大災害が水門みなと市を襲う！

カリギュラは魔來名まきなも呑み込んでいた。建ですら接してものの數秒で壽命を迎える死の風だ。人ならば赤ん坊でも一秒もたない。

「なぜ！？」

だが、聖治は驚愕した。

「貴様では、俺には勝てん」

魔堂まどう魔來名まきなは生きていた。魔來名まきなの前方でカリギュラが二に分かれていたのだ。

そのまま魔來名まきなを避けるように左右に流れて通り過ぎていく。

斬ったのだ。カリギュラを。

それはあり得ない現象だ。なにもないのに水が二に流れるのと同じであり、明らかに法則から逸している。

魔皇まこう剣の暴に対する魔刀の呪い。それは概念すら殺傷してみせた。

その技巧、神業に匹敵する魔技である。

このままでは悪戯に街を破壊するだけであり聖治はカリギュラを停止する。

瞬間だった。聖治の周囲に空間斷層の切れ目が発生する。カリギュラが停止したことにより視界が晴れていく最中、魔來名まきなは天黒魔あくまを橫に一閃したのだ。

その一つが、聖治の腹部を切り裂いた。

「がああああ！」

突如襲われる激痛。初めて経験する痛みに聖治が膝を折る。

反対に魔來名は勝利を確信した。一瞬の隙さえあれば十分だ。この機に間合いを詰め最後の一撃をたたき込むのみ。

これに、聖治も駄目だと思った。

だが、両者の予想を裏切り、魔來名まきなの攻撃は再び不発となる。

聖治の傷口を輝く粒子が覆っており、すでに治っていたのだ。

「俺よりも――」

見覚えのあるそれに魔來名まきながんだ。

「その男を守るのか幸子！」

魔來名まきなが発火する勢いで怒聲どせいを上げる。それは聖治に向けられていたが、正確には聖治のの奧に潛むに向けられていた。

聖治はに手を當てて謝を述べる。

「ありがとう、香織かおりさん……」

命を救われた。聖治は穏やかに呟くが、反対に魔來名まきなは忌々しい思いが中で暴れている。

『あなたには、彼は斬らせない。剣島聖治は、私が斬らせない。たとえ、命を捨ててでも』

魔來名まきなは奧歯を噛み合わせた。邪魔だと放ったが、いつもしつこく言い寄って來るが、ここまでしつこく食い下がるとは。

これが、六十年経っても変わらぬ、思いの強さだと言うのだろうか。

――其は奇跡の守護者。安寧の祈禱よ天に屆け。苦痛と恐怖に苛まれた時、汝どうか安らかに笑ってしい。あらゆる傷も病も汝には及ばないと。我が守護し見守らん！

治神ちしん・織姫おりひめ。今の聖治は一定以下の理攻撃と異能を無力化する。おまけに傷を與えたところで瞬く間に再生する。

魔來名まきなは歯噛みする。こうも技を無効化されれば苛立って當然。だが、可能はまだある。

魔刀天黒魔あくま。これが持つ殺害の呪いはスパーダの段階長を覆す。これで斬れば六本の狀態の治神ちしん・織姫おりひめでも防げず治せない。

魔來名まきなは地面を蹴る。聖治に向かって直進して間合いへとり、天黒魔あくまを翻した。

「負けるか！」

聖治は魔皇まこう剣と神剣しんけんの二刀流で対抗する。激しい剣閃の応酬に地面と空気が悲鳴を上げる。彼らの速度が増していく度に街がさらに崩壊していく。

「っく！」

さすがはスパーダ六本の所有者。魔來名まきなは本気で斬りかかるも易々とは斬られない。

攻撃が失敗に終わったことにより、魔來名まきなは空間転移で距離を離した。どのように攻めるべきかを思案する。

聖治と魔來名まきなの距離は百メートルほど。空間転移を持つ魔來名まきなであれば零歩で渡れる距離だが、聖治はそうもいかない。

剣という近接武のため、こうも距離を離されれば一手では攻撃不可能だ。飛び道でもない限りそれは出來ない。

しかし、

「來い、平和スパーダ」

魔卿まきょう騎士団団長となるべく造られたスパーダは絶対無敵でなければならない。そのため構想段階から対遠距離戦闘は想定済み。

聖治は両手の剣を消して手をかざす。その聲に、それはが応えるように現れた。