深手を負った魔來名まきなが落下する。けを取る余裕もなく、全がコンクリートの床に叩き付けられる。

數回跳ねた後魔來名まきなはうつ伏せに倒れた。斬られた箇所からはが流れ、激痛に全が痺れる。

魔來名まきなが落下してから直後、上空から聖治が著地する。頭上にはスパーダが旋回し、右手にはゼウシスが握られていた。

魔來名まきなはなんとか顔を上げ聖治を睨む。そのまま四肢に力をれ全力で起き上がった。左手で傷口を押さえながら天黒魔あくまでを支える。

だが、それで限界だった。足がもたつき魔來名まきなは前にを傾けながら倒れていく。

そこへ、聖治が駆け寄りを抱きかかえた。

「……何故、支える？」

「あんたこそ、何故斬らなかったんだ？」

「……まったく、どいつもこいつも、似たようなことばかり……」

魔來名まきなは聖治の腕の中で悪態をつく。だが、表に怒りは見られない。

魔來名まきなは全ての記憶を思い出した。前世において、己を取り巻く環境。そこにあった誓いや約束。傍にいた人間のことを。

そして今、それはここにいる。すぐそばに。これほどまで近くにいる。

だが今更どうしろと。元々険悪な関係だった上に今ではさらに最悪だ。何を言っても恥じにしかじないし、そもそもそんな分でもない。

せっかく再會したのに、魔來名まきなには掛ける言葉がなかった。いつもみたいに、無言でやり過ごそうかとも思った。

その時、ふと浮かんだ言葉があった。

『抱き締めてあげて。きっと、それで通じるから』

それは、どれだけ先読みした言葉だったろう。彼を深く理解しているからこそ、この狀況すら彼には予測出來たのだろうか。きっと彼は何をすればいいのか、分からないだろうから、と。

『だって、家族でしょう……？』

彼は、彼に助言を殘していたのだ。

聖治は魔來名まきなを支え続ける。自分で傷を與えておいて支えるなど変な話だが、本當ならばこの勝負は魔來名まきなが勝っていた。

あの時、魔來名まきなが腕を振り切っていれば今頃聖治は絶命している。それが不思議でならない。聖治は、魔來名まきなの真意が知りたかった。

すると、魔來名まきなが両腕をかし始めた。

「え？」

重傷のにも関わらず、ゆっくりと。聖治のに回し始める。躊躇う素振りを見せながらも、両腕は聖治の後ろに屆く。

そして、魔來名まきなは聖治を抱き締めた。

聖治は一瞬、自分が何をされているのか理解出來なかった。ようやく自分が抱き締められていることに気づいても、何故されているのか理解出來ない。

現狀をまったく理解出來ない聖治だったが、この時気が付く。自分が、涙を流していることを。

「え！？」

それが、一番理解出來なかった。何故ここで涙が流れる？　しかし、疑問を置き去りにして涙は次々と溢れてくる。

何故？　理由は考えても分からない。この涙はどこから來るものなのか。

だけどそう。この涙の所以ゆえん。それは、

――魂の震え。

理でもでもない、魂がじているのだ。魔堂まどう魔來名まきなという男に抱き締められるという行為に、魂が涙を流している。

それを聖治は知覚出來ない。理解出來ない。確かに泣いているのに、未だに訳が分からない。

でも、確かにじている。今もこうして。たとえ『本人聖治』には分からなくても、『本人清二』にはちゃんと伝わっている。

ようやく出會えた。戦爭によって引き離された悲慘な最期だった一組の兄弟が。名前も違う。も違う。けれど、その魂は邂逅を果たしたのだ。六十年の時を経て。

それは、セブンスソードという最悪悲愴の修羅の中で起きた、小さな奇跡。それを起こしたのは他でもない、家族の『絆』だった。