夜中の竹林の道を、純白のコートを著た男が歩いていた。頭髪は金に濡れており今も月を弾いている。靜かな場所を黙々と歩き続け、真っ直ぐと向けた視線は一切揺れることがない。

だが、ここに不穏な足音がいくつも混じった。

男は歩き続け竹林の丘へと出る。ここだけは竹が生えておらず広場のようにひらけていた。男は中心にまで進むとそこで足を止め、頭上を仰ぐ。

今夜は満月である。手をばせば屆きそうなほど大きな月が浮かび上がっている。

すると男が出てきた場所から十數人の白を著た者たちが走って現れた。瞬く間に男を包囲する。

厚手のジャケットに長ズボンを穿いており、は同じ上著にスカートを穿いていた。そして、全ての者が帯剣しているか弓を構えている。一斉に鋭い戦意を男に送ってきた。

この場を張した空気が張り詰めるが、それでも男は問題にならないとばかりに月を見上げ続ける。左手には刀が握られており、竹林に佇立する刀士はその貌もありしく輝いた。

「余裕そうじゃない、さすがは魔卿まきょう騎士団団長ってとこ？」

そこへ澄みながらも厳めしい聲が掛けられる。聲は竹林からであり、後から聲の主は現れた。

薄い青の髪をした。年齢は二十代半ば頃で、ショートカットの髪型に艶のある頭髪をしており、瞳は赤紫に燃えていた。

白のノースリーフに短めのジャケット、同じ純白をした短ズボンを穿いており、黒の長ブーツが両足を包んでいる。そして、彼の両手には手甲が裝備されていた。

彼の登場に男が視線を向ける。どうやら敵として値すると判斷したらしい。

「……貴様らは？」

「聖法教會の者よ。私は聖使徒指定騎士団、レシェル・キュリアス。あなたが魔卿まきょう騎士団の新しい団長として作られた、魔堂まどう魔來名まきなね？」

レシェルと名乗るは依然と魔來名まきなに鋭い視線を送るものの、その表が僅かに緩められた。

「……ふーん。武と魔の融合で発展した魔卿まきょう騎士団。魔組織でも珍しい武を用いる組織の団長だっていうから、どれだけゴツイ男かと憂鬱だったけど。意外にも形なのね、あなた」

敵から思わぬ賛辭が屆く。目の前にいるもしい顔立ちをしている。これが普通の男ならば喜ぶところだが、魔來名まきなの表は些かも変わらなかった。

「聖法教會。その中でも聖使徒指定騎士団といえば各部門から選任された鋭だと記憶している。一どれほどの戦士かと思ったが……」

魔來名まきなは錬七剣神セブンスソードとして備わっていた報を元に言葉を出していく。だが、一旦言葉を切ると、辛辣に言い捨てた。

「か」

「あら、別で判斷するなんて時代錯誤の偏見じゃないかしら？」

「フン。生憎お前らとは生まれた時代が違うんでな。それにだ、団長の座は別のやつにくれてやった」

「なんですって？　団長候補が二人？」

レシェルは魔來名まきなが告げる事実に面食らい、悔しそうに拳を握り締めていた。

「まあいいわ。だからといってあなたを放置するわけにはいかないし」

「ゼクシズと聖法教會は休戦中のはずだが？　戦爭になるぞ」

「前団長グレゴリウスが亡くなってから魔卿まきょう騎士団は分裂。今では副団長派が仕切ってるのよ。団長派は今や數。とはいえ、あなたの存在は無視出來ない」

「なるほど。副団長派は俺を始末でき、お前らは大義名分を手にれるか」

「私たち聖法教會としては魔卿まきょう騎士団がこれ以上ゴタゴタを起こしてしくないのよ。世界勢がれるわ」

「ご苦労なことだな。おまけに斬られに來るとは憐れな奴だ」

「……人形風が言うじゃない」

「風がよくほざく」

そこで、雰囲気が本格的に戦場のそれへと変貌していった。死が隣り合わせの現世と冥界の境界線に切り変わる。

「あなたは逃さないわ。私がここで倒す」