《錬七剣神(セブンスソード)》もう一つのエピローグ2

二人が向き合う。剣呑な空気が場を圧倒し、今、ここは超常の決戦場となった。

『我は平和を祈り願う者。天よ我の祈りを聞き屆け、どうか我に與えてしい』

そこでレシェルの口が詠唱を紡ぎ出した。厳かながらも誠実な、潔白の祈禱が夜空の下に響き渡る。

『不浄を正すために剣を。悪を裁くために天秤を。平和に規律よ。鉄槌に正義を。我は祈り願う者』

まるで聖書の朗読のように、彼の言葉が一帯に澄み渡る。すると変化は彼ではなく、夜空で起こった。

星屑が輝く闇に百メートルを超える紋様が浮かび上がっていたのだ。ステンドグラスのような綺麗な模様が月け止め星天を覆っている。

聖句が並べられる度、模様はを強くし門となって道を開く。

『ここに我は願う。天よ使いの者たちよ、聖なる法の名の下に、我は汝をする。汝我をするならば來たれよ!』

そして、彼は最後の締め括り、招來の式を終えここに告げる――

「天使降霊・憑依合エンジェルフォール・セイクリッドワン!」

が唱え終わると同時、夜空に浮かび上がる紋様は聖天に繋がる門となり、そこからりの柱が勢いよく降りてきた。地上まで到達するとはレシェルを包み、ここに奇跡を現する。

は霧消し夜空に刻まれていた模様も姿を消す。だが、目の前に立つレシェルを前にそんなことは気にもならない。

レシェルが立つ。全に青白く輝く霊気を纏い、そして、レシェルの背後には彼よりも一回り大きい、――守護天使が降臨していた。

薄い影のようではあるが確固としてそこに存在している。上だけがレシェルの背後に浮かび上がっており、レシェルと同じ構えを取っている。両翼を広げ、今や二人で一人となった聖使徒は魔來名まきなに聖域の戦意をぶつける。

「なるほど。高位次元宇宙である天界から天使を降霊させ、自分に憑依させることで疑似的に高位次元存在となったわけか」

目の前に立つのは天使と一化した騎士である。守護天使はレシェルと同じように拳を作り、レシェルも魔來名まきなを睨んで離さない。

から発せられる闘気と存在は膨大で、明らかに常軌を逸した力。

構えたままレシェルが一歩を踏み出す。それだけで竹林が揺れた。葉が零れ落ち周囲を囲む部下たちも地震に等しい揺れに勢を崩す。

だが、魔來名まきなは笑った。

「面白い」

魔來名まきなは手を天黒魔あくまの柄にばす。居合の構えを取り、眼前に立ちはだかる強敵に興を覚える。

強さの追及、力の求道者。魔堂まどう魔來名まきなはが躍った。これほどの敵、そうそう出會えるものではない。己の力を試す絶好の機會だ。

「聖なる法の名の下に、お前を粛清する」

「いいだろう。貴様の力、俺が切り裂く」

言葉をわし、二人は同時に足をかした。レシェルは天使の加護をけて駆け抜け、魔來名まきなは加速魔を用いて疾走する。

速度はまったく同じであり二人は激突する。魔來名まきなの刀とレシェルの手甲がぶつかり合い火花を散らし、衝撃に発が発生していた。

あまりの猛威に部下たちが耐えきれずに吹き飛ばされる。

天黒魔あくまが閃く。聖拳が飛ぶ。激闘は音となって夜の空間を震わせた。

魔來名まきなの旅は終わらない。力を追い求め、この手で神魔すら斬り伏せんと今も殺害の理は咆哮する。

追い求める先に何が待っているのか知らぬまま、けれども魔來名まきなは止まらない。

それがかつての自分が魂に刻んだ慟哭だから。果たされなかった誓いを葉えるために。

誰よりもまっ直ぐな男だからこそ。

力を求める。

力をする。

そして求道のその果てに魔堂まどう魔來名まきなはるだろう。今は人のなれど、魔卿まきょう騎士団団長グレゴリウスが剣聖けんせいと謳われたのならいつの日か。

剣神と呼ばれる、その頂へ。

『完』

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