《バミューダ・トリガー》四幕 能力の覚醒
「・・・っ、お前ら!」
二人が駆けつけてくれた事に気が緩み、全に刻まれた傷という傷から、つい今ほどまで紛れていた痛みが疼き出す。
「ぐっ!」
「人!」
「人くん!」
似合わない焦燥と心配を顔に浮かべた翔斗が、俺に向かって手をばす。
「っ、俺のことより、早く紗奈を!!」
紗奈は再び気を失ってしまった上、怪我も俺より酷い。一刻を爭う狀況だ。
「じゃあ、お前も一緒に行け、人!」
「僕が肩を貸すよ!さあ!」
諒太が屈み、俺の腕を摑む。
「はあ!?ダメに決まってんだろ!あんなのから逃げながら病院なんて行けねぇ!俺があいつをどうにか足止めする!だからー」
「馬鹿野郎!!」
翔斗が鋭い目をして言う。
「・・・!」
「そんなボロボロのお前が相手したとこでどうにかなるかよ!」
「そうだよ人くん!たった今だって、危うく死ぬとこだったじゃないか!」
「でもあいつを放ってたらー」
「ああ、だから俺が殘る!」
そうんだのは翔斗だった。
「俺は一応、腕には自信あるんだよ!」
たしかに翔斗は格がよく、前の高校では道部のエースだったらしい。
だがー
「あいつは、見えない何かを飛ばしてきた。簡単には近づけねぇし、まともにけたら多分、一発でおしまいだ!」
そう、冬は強力な破壊をもたらすエネルギーを、意のままに飛ばせるのだ。生の人間が戦ったところで、勝機は無いに等しい。
「問題ねぇよ。お前はいつも、俺に古典を教えてくれるだろ?」
「・・・はっ?」
「だぁから、恩返しだよ、恩返し!ここは、俺に任せろ!」
めちゃくちゃである。
古典の知識と、命とでは、賭けるものの重みが違いすぎる。
だが、どうやらこれ以上、悩んでいる暇など無いようであった。
「おィ!俺はァ全員まとめて消してやるつもりだぜェ?誰が殘るも誰が逃げるもォ、考えるだけ無駄だァってんだよォ!」
つい先程まで何かに気をとられていたようであった冬は、すでに正気に戻ったようである。黒のグローブを著けた右手を、再び構えていた。
「諒太!紗奈さんと人を連れてけ!」
「りょーかい!翔斗くん、大丈夫だろうけど、死なないでね!」
翔斗と諒太はそれだけを言いわし、互いに目的とする方向へ向く。腕を捕まれた俺は、なすすべもなく、紗奈を抱いたまま諒太に引かれて走り出した。
(翔斗・・・)
「心配ないよ!翔斗くんは、あんなのにやられたりしない」
「・・・・・」
「今は、自分と紗奈さんのことを考えて!」
悔しいが正論。
そして、まるで打ち合わせをしていたかのように進んでいく事態に、俺は何も言うことが出來なかった。
―――――――――――――――――――――――――
翔斗と冬は互いに、視線を錯させて距離をとっていた。
(あいつが何かを飛ばしてくるってのは確かだ。なら、それをかわしながら距離を詰めれば・・・)
翔斗は冬を取り押さえるべく、拘束技に持ち込む手だてを考える。
だが、それは困難を極めるものであった。
「おィおィ!三人どっかァ行っちまったじゃァねぇかァ!」
食獣のような眼を放ちながら冬はび、黒く輝く右手を水平に振り切る。
ザンッ!
とっさにを引く翔斗だったが―
「がぁっ?!」
翔斗の腹に橫毆りの衝撃が炸裂する。反応が遅れていれば、立っていることも不可能だったであろう。
予想以上の威力と速度に、がすくむ。
「何だァ?いきがって出ェてきた割にはァ、でけェわ鈍いわでェてんでお末様じゃァねェか!!」
大聲で吐き捨てる冬であったが、翔斗には何故か、何かに怯えて、冬の方こそいきがっているかのようにじられた。
(どうしたんだこいつは?焦っている?どうしてだ?)
「俺には、わかんねぇ・・・」
「何かァ・・・言ったかゴラァア!!!」
縦に手を振る冬。翔斗は今しがたけた一撃を思い返した。
(この攻撃の軌道は、手のきに沿っている!)
とっさの判斷で左の方へと飛ぶ。
攻撃をかわしたことに安堵しようとして―
「殘・念・賞ォー!!」
冬のびに気を引き締める。
ズッッ!
「うっ」
縦に振られる手から生み出された、橫一線の衝撃が翔斗の上半を襲った。
翔斗は膝をつき、を垂らす。
「がはッ、げほ・・・」
「俺の攻撃を読むのはァ、簡単じゃァねェ」
冬はそう言い、ゆっくりと口を歪める。
「はっ、はぁッ・・・」
「神河 人・・ ・・が來るまでェ!天國で待ってろォ!!」
「っ!!!」
(こいつは、やはり人を・・・!)
ザンッ!ザンッ!ザンッ!
冬が暴に三回腕を振り抜く。
(たて続けに、三発・・・っ!!)
それは、一発かわす事さえも満足にできなかった翔斗にとって、絶的としか言いようの無い死の連撃であった。
瞬きほどの時間をおいて、強大な衝撃が前進を始める。
(無理だ、避けられねぇ・・・っ!)
―――――――――――――――――――――――――
ここは・・・?前に俺が通ってた學校?
これが噂に聞く走馬燈か・・・?
「翔斗先輩、変わったネックレス著けてますよね。校則で止されてませんか?・・・ってのは置いといて、どこで買ったんですか?」
「これは・・・」
「これは?」
「親父に貰った。今は、脊髄の怪我が原因で、不全になっちまったんだがな」
「そ、そうでしたか、すみませんっ!変なこと聞いて」
「いや、気にすんな。っつか、聞くんなら最後まで聞け」
「・・・はい」
「親父は現役の頃、メチャクチャ道強かったんだよ」
「・・・」
「俺がまだ小學生のとき、親父に聞いた事がある。どうして、そんなさばきが出來るのか、ってな」
「・・・何と、言われたのですか?」
「風の力だ、って言われた」
「風の・・・ちから?」
「それがよおっ!実はよぉっ!俺もわかんねぇんだよこれが!!」
「ええぇーー」
「まあ、いつか、お前ならわかるって言われたんだがな。・・・親父は、俺の頭脳に期待しすぎだったみてぇだな!」
「は、はははは・・・」
「じゃあ、俺はもうそろそろ帰るわ」
「あ、はい!お疲れ様です!」
「おう、またな」
この、記憶は・・・っ!
そうだ、そうだった!このあと、俺は―
《―俺は親父みたいに強くなりたい―》
・・・・・・ッ!ゴオオオオォォン!!
―――――――――――――――――――――――――
走馬燈のように思い出された、忘れていたはずの怪異事件直前の記憶。
走馬燈だと言い表すにはあまりにもピンポイントな記憶。
しかしその記憶には、翔斗がかつて最も強くんだ願いが含まれていた。
あの時、親父は俺に伝えた。
この場をどうにかできるかもしれない程の―
―可能をめた一言を。
瞬間。
翔斗が首にかけたネックレスが、冬のそれに勝る程の、夜のように黒いを放つ。
《―俺は親父みたいに強くなりたい―》
(たて続けに・・・三発・・・程度なら!)
「・・・何てことねぇな!」
ザンッ!ザンッ!ザンッ!
ドォオオオオオオオオオオオオオオ
合わさる三撃がもたらす渾の一撃。
強烈な破壊の渦がー
翔斗だけを殘して・・・・・・・・、翔斗の背後に立ち並んだざっと二、三軒の家を穿ち、半壊させた。
「・・・なン、だァ?お前ェ今ァ!何をしたァあ!!」
目の前の冬てきが、何かをんでいる。
だが、そんなこと俺には関係ない。
「らァあ!おらァアア!!」
ズッ!ズザンッ!!
再び放たれた不可視の衝撃は、翔斗のどころか服にさえ、掠りもしない。
(何故だァ!何故當たらねェ?!)
「・・・ァ?」
そこで冬は、もう一つの異変に気づき驚愕する。ゆらゆらと、なんでもないように平然と攻撃をかわす年あいては―
(あいつァ何で、目ェ閉じてンだ?!)
こちらのきを見ることすらなく、目の前の年は、冬の放つ力の軌道と速度、威力、余波の全てを、完全に把握している・・・・・・・・・のだ。
そんな思考の間にも、翔斗と呼ばれていた年は目の前に迫ってくる。
冬の目は、翔斗の首にかかったネックレスを捉えた。
冬のグローブのように、いや、それよりも強く、黒いを放つネックレスを。
「お前ェもォ、やっぱァ、能力者・・・かァ!!」
「知るかよ。んなことはどーでもいいんだ」
怒りを孕んだ一言が、冬に重圧をかける。
「ただなぁ、俺にこんな、親父を超えちまうような能力ちからが備わっちまった理由があるとすりゃあ―」
目を開いた翔斗が、鋭い眼を放ちながら斷言する。
「今、ここで!人や皆を救うために!お前をブッ飛ばすためだ!!」
そう言って、殘る距離を一気に詰めた。
「オラァアアッ!!」
冬が放った最後の一撃は、至近距離にいる翔斗に當たらない。
行き場をなくしたエネルギーが空へと抜けていく。
そしてそれは同時に、冬が翔斗の程にった瞬間であった。
「ぐッ・・・!」
「敬する親父、黒絹 壯太郎そうたろうに捧げる」
言って翔斗は、冬の右手を強く摑む。
「がァ!?」
そのまま、普段の翔斗のがさつな印象からは想像もつかないほどなめらかにをひねり、冬の左足を蹴り上げるとー
「黒絹流一本背負い・裁斗さばとッ!!!」
翔斗の咆哮とともに冬のが宙を舞い、瓦礫の積もった通りに叩きつけられる。
ドゴォンッ!!
「ゴっ、ふっ」
斷末魔を上げることなく冬が沈黙する。
完全に気を失ったようであった。
「やったのか・・・?やったんだな!」
翔斗は一人聲を上げる。
「ぐッ、あれ?・・・」
ドサッ
複數の衝撃をけたにも関わらず、無理をしてを起こして戦った翔斗。安堵すると共にこみ上げる痛みと疲労に耐えかね、ふらふらとよろめいた後、通りに崩れ落ちた。
―――――――――――――――――――――――――
商店街と隣り合うビルの路地裏に、三つの影が浮かぶ。
「代市 冬しろいち ふゆがしくじった」
「代市 冬がへまをしましたね」
「二人とも、そういってやりなさんな。冬は頑張ったよ。でも、負けてしまっては仕方の無いこと。相手方の能力とが、一枚上手だったってことだね」
聲の似た二つの男聲に、一つのの聲が応える。
「どうしますか、里音りおんさま」
「柄を回収しますか、里音さま」
「生きているのなら、放っておきなさい。代わりのものを用意します。あの子は元々能力者ではないからね。ここらで、解放してあげてもいい頃合いだよ。何より、危うく手掛かりの年を殺してしまいそうな勢いだったし・・・ね?」
「では、そろそろ」
「帰りましょう」
「そうね。・・・黒絹 翔斗。まさかあんな奴が、神河 人よりも早く覚醒するとはね。逃がさないよ。道場の仇に繋がる手掛り・・・」
意味深な言葉を殘して、三つの影は闇に溶けていった。
三分間で世界を救え!「えっ!ヒーローライセンスD級の僕がですか!」 就職したくないからヒーローになった男は世界で唯一のタイムリープ持ち。負け知らずと言われた、世界一のヒーローは世界で一番負け続けていた
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