「今日は冷えるなぁ、晝ごはんはシチュー的な暖まるやつを期待しとくか」

俺が家を出てから五分ほど経過していた。

せっかく紗奈が作ってくれた晝食だが、中を見ないで家を出てしまったので、晝が何になっているのかはお楽しみだ。

ちなみに、味しさ的にハズレの可能は皆無なので噓なく純粋に「お楽しみ」である。

今日の散歩は、現段階では一切行く宛の無いベスト・オブ・散歩だ。

大一番となるであろう決戦がいつ起こるか分からない現狀で、このようにふらふらしていても良いのかは五分五分だ。

しかし、こういう時だからこそ、神の統一が不可欠であると提唱したい。

何気ない日々の繰り返しは一種のルーティーンとして、落ち著いて判斷・行するために有効なはずだ。

なお、異論は聞かないし認めない。

俺の質からして、ふらふらしていると、いくら行く宛がないとはいえ明日香の家に辿り著いてしまう末路は見えている。

なので、以前のようなアブナイ事件を防ぐためにも、ここでひとつ目的地を決めることにした。

「ここからだと、どこがいいかな・・・」

現在地は、霊峰町西區。

川を挾んで東に進めば、そこは東區となる。

散歩先として多くの散歩民に重寶される「公園」は西區、東區の雙方にあり、ここからだとさすがに西區の公園が近い。

(晝は紗奈が用意してるれるって言ってたな)

朝の會話から、飲食店は除外される。

商店街を抜けた先にある駅前に、気になるパンケーキ屋があったが、それも今度の楽しみにしておくとしよう。

(となるとやっぱ公園か・・・？)

飲食店を選択肢から除いただけで、行く宛がひとつに絞られてしまう己のパターンにふがいなさをじる。

しかし実際どうなのだろうか。

いつ侵害されるか知れないこの平穏な日々を、そんなワンパターンな判斷で過ごしていいのであろうか、いや、ない。

(反語発っ！)

こうして俺は、當初ルーティーンとか何とか言っていたことを一切合切いっさいがっさい無視して、どこか、普段はあまり足を運ばないような所へ行くことにした。

(そういえば・・・)

行く宛を決めた俺は、商店街のある南の方角へと歩き始めた。

―――――――――――――――――――――――――

「今日は人をわねぇのか？」

「うん、この間あんなことがあったし、紗奈さんと話したり、人くんなりに優先したいこともあると思うから。」

「へぇ、諒太はそこんとこの折り合い付けんのが上手だな」

「いやぁ、もしかしたらった方が良かったかもって、思わなくもないんだけどね」

等という會話を繰り返しながら、植原 諒太と黒絹 翔斗が歩く。

「なあ、晝は何にする？？」

「確かに、それは決めてなかったね。・・・って、今まだ八時だけど、翔斗くんはもうお腹すいたの？」

「げぇっ？！まだ八時だと？！」

「翔斗くんが、家にいても休日は面白くないんだって言うから、七時半集合でぶらつく事にしたんじゃ無かったっけ？」

(それ以前に、八時のご飯はただの朝ごはんなんだけどね・・・)

「う、うるせぇほっとけ！腹減るのは生きとして當然だろうが」

「・・・えっ！？」

「ん？」

「翔斗くん、今・・・考えを「読んだ」の？」

「おう・・・おうっ！？なんだ、諒太、お前今喋ってなかったのか？！」

「ご飯の話は、グッとこらえて聲には出さなかったよ・・・これって、《風読》の？」

「いや、俺も絶賛ビックリ真っ最中だぜ・・・」

黒絹 翔斗は、《トリガー》から生まれた《能力》、《風読》の力の、その次の段階にろうとしていた。

それは、実踐による経験値がものを言ったのか、はたまた筋か。

或いは、奇跡か、それとも―

――――――――――――――――――――――――

墓參りを終えた鈴は、麓のバス停に向かっていた。

(結構力必要なのよね、ここの登り下り)

所々苔が生え、りやすくなっている坂。

かつては難なく駆けていたはずの坂ではあるが、流石に數年ぶりだと足元が不安だ。

慎重に足を踏み出す。

ちなみにこの近道、坂としてはかなり急であり、転ぶと乙として大変好ましくない被害をけてしまうのは目に見えている。

(よいしょ、と)

だいぶ慣れてきた鈴は、テンポよく下っていく。

右側は山がむき出しになっており、見上げると所々、落石や土砂が流れた形跡が見られる。

左側はというと段々畑となっており、李すももの木が並んでいる。段々畑と言っても、かなり高めの石垣で仕切ってあるため注意は必須だ。

五分ほど下った時であった。

(あと半分くらいね・・・)

ズッ

「えっ―――」

気を帯び、りやすくなっていた草の葉に足を取られた。

(っ！落ちるっ！)

バランス覚が失われ、今にも転げ落ちようとする、しかし鈴の意思で制することは葉わず―

《右だよ、右！重心を傾けて倒れ込んで！》

「！！」

咄嗟の行。

窮地をするを考える余裕もなかった鈴は、ただその言葉を信じて、山に向かって思いきり倒れ込む。

剎那、かすかな後悔の念が生まれた。

落する心配こそ無いものの、山がむき出しとなった右側には、巖や朽ち木がゴロゴロしているからだ。

怪我の程度によっては、一人ではこの山を降りられなくなるかもしれない。

フサッ

だからこそ、一瞬あとにを包んだらかな覚に、戸いを隠せなかった。

(・・・あれっ？)

倒れこんだ地面は、局所的に緑が茂っていた。さらに、巖石や朽ち木にまみれた山も、ここだけは妙にらかい。まるで腐葉土のような地質だ。

「・・・気づかなかったわ。こんなとこに草が生えてたのね」

(なんにせよ、助かったわね・・・それはそうとして、さっき聞こえた「聲」は、何だったのかしら)

それから十分後。

その後はより一層の注意を払った効果もあり、時間はかかったが難なく山の麓まで降りきることができた。

(さて、帰りますか！)

―――――――――――――――――――――――――

鈴を合わせても二、三人しか乗車していないバスが、霊峰町商店街前停留所に著いた。

ちなみに山の登り降りの疲れから、帰りのバスの中ではぐっすりと夢の中であった鈴は、同乗していた顔見知りのお婆さんに揺り起こされてバスを降りた。

朝早く家を出ていたため、時刻はまだ晝前だ。

(何だか不思議な験だったわね・・・)

祖母の家と、故郷で起こったこと。

昆蟲への過度な移と、頭に響いた何者か想像もつかない謎の「聲」。

無論、後者については思い込みであると考えられなくもない。しかし、した妙な現実味と実際に自が助かったという事実が、その考えを否定していた。

「・・・よしっ、こんな時は、あそこで気分転換するのが一番ね！」

鈴もまた、神河人や翔斗、諒太のように、ある場所を目指して歩みを進める。

――――――――――――――――――――――――

想いの強さが能力に変わる。

願いの強さは―――

―――にる。