「うおおおおっ！」

とっさの判斷で、俺は鈴と、異能によって産み出された異形の手との間にり込む。

「・・・えっ？！」

「ナッ・・・！！」

鈴とエイプリルの驚嘆の聲が重なる。

瞬間、鈴の矮軀を引き裂かんと迫っていた腕が、その速度を目に見えて鈍くした。

(・・・やっぱりそうか！エイプリルは俺のに極力ダメージを與えたくねぇんだ！)

しかし、安堵の時は一瞬。

異形の手は、その目的を「殺害」から「捕獲」へと転換し、あくまで神河人を捕らえるためにその掌をさらけ出す。

「逃げられるト、思うなヨッ！！」

吠えるエイプリル。

その聲に呼応するように、今度は人の両脇から赤い腕が現れた。

前方には、捕まれば最後、対象の一切の挙を封じるだけの大きさを誇る巨腕。

そのうえ両脇の腕は、人を逃がすまいと速度を重視した俊敏さをもって一斉に摑みかかる。

「！？まずい・・・！」

両脇の朱腕を避けるべくを引くが、まるで回避先を読んでいたかのように、二本の腕は追い縋ってきた。

「・・・くっ！」

「ここまでダ！諦めろヨ！！」

獲を追い詰めた食獣のように獰猛な、殘酷な瞳を輝かせて、エイプリルが両手を差する。

対応して、確実に神河人を捕獲するために更に二本の腕が出現。活路の見えない死線が、人のきを完全に封じ込めた。

「ぅあっ！！！」

逃げ場を失い立ち竦んだ隙を逃すことなく、両脇に追い縋った異能の手がついに人の両腕を捕らえる。

「キヒヒヒヒヒッ！！」

「がっ！」

次いで追加で現れた二本が両足のきを封じ、とどめとばかりに樹木の幹に相當する異様な大きさを誇る巨腕が人のを摑んだ。

「キヒッ！」

ダンッ

直後、エイプリルが強化をかけた腳力をもって跳躍し、鈴が正面に展開した障壁を飛び越えて飛來した。

「キヒヒィ！お前モ眠ってるト良いヨ！！」

そのまま腳力の強化を解くことなく、空中から無防備な鈴の背後へと落下。

落下の最中にを大きく振る事で遠心力を生み、何の比喩でもなく人を殺める強烈な蹴りが叩きつけられる。

「ずっと思ってたけど、その笑い方、どうにかならないのっ！」

迫り來る極刑に対して鈴は、一歩も退かずに上を見據えて言い放った。

ガァンッ！！！

「キヒッ・・・」

無挙のうちに再構築、及び再展開した瓦礫の壁をエイプリルの蹴りにぶつけ、強化の能力をもって強化された一撃をあろうことか完全に相殺して見せる。

瓦礫の壁を盾にした防。

つい先程「呪衝撃インパクト」を防いだ際には、意趣返しのごとくエイプリルの手を破砕して見せた。しかし、腳を強化した今回の一撃に対しては、さすがに反のダメージを與えられないでいた。

「キヒッ、キヒヒヒ、あっさりト、簡単ニ終わるのモ、勿ないカ・・・！」

「そう？私としては、今ので全弾け飛んで自滅してくれたら一番良かったんだけどね」

「キヒッ！口の減らなイ、ダッ！！！」

ドゴォン

鈴の障壁の上で再びをひねり回転を加えたエイプリルの二撃目。

追加の一撃に、鈴の盾が砕ける。

「キヒッ！」

ガァン！

耐えかねて砕け散った一枚目の障壁をエイプリルが嘲笑ったのも束の間。

周到にも、鈴が一枚目の側に隠していた二枚目の障壁が貫通を遮った。

「・・・すげぇな」

一人拘束された神河人は、抜け出す方法を模索するのを中斷し、場違いな心を聲にしていた。

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ガァン！

「うおっ！？」

「すごいね・・・！」

重々しい轟音が鳴り、目視できる位置にある警察署の門・・・があった場所から、砂煙が吹き出す。

警察署まで百數十メートルほどの地點、異変に気づき駆けつけていた怪校生・黒絹翔斗くろきぬ しょうとと植原諒太うえはら りょうたが駆け抜ける。

二人はようやく目的の場所へとたどり著こうとしていた。

「もうすぐだ！」

「うん！・・・その前に、と」

懐からスマホを取り出した諒太が、畫面の數字盤をフリックする。

プルルルルプル・・・カチャ

『もしもし？お兄ちゃん？』

「はぁっ、ああ！京子、ごめんね急に」

『どうして謝るの？私としては五分おきにかけられるくらいならむしろ嬉しいと思ってるけど？』

「いやいや、僕としてももちろん、二分おきにかけるくらいなら息をするより簡単だけど・・・って、今はちょっとだけ後回し！京子に大切なお願いがあるんだ」

いつも電話するときからは想像できないほど真剣な聲に、京子が押し黙る。

『・・・《バミューダ》関連？』

「そうだよ」

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神河人の周りには、いつも誰かが居た。